[注意]このエントリーは「ハウルの動く城」のネタバレに触れています。
「金曜ロードshow!」で宮崎駿監督作品が放送される度に観てしまい「やっぱり宮崎駿スゲーな!」と再評価ばかりしているミーハー人間が「ハウルの動く城」の魅力を書きます。
- 奇妙な動く城
今年の夏のジブリ祭りの第1弾だった「ハウルの動く城」は個人的にはスタジオジブリ作品の中でも上位に食い込む程好きな映画です。純粋なエンタメ度なら「天空の城ラピュタ」のが面白いかもしれませんが、自分は「ハウル」のよく分からないバランス感覚が凄く好きなんですね。まずとにかく様々なパーツを上へ上へと積み重ねていったお城のビジュアル。外側に対して内側がどう建築されているか全く分からないですが、こういうとにかく積み重ねてバランスを欠いた建物がガッシャンガッシャン動いているだけで物凄く楽しいんですね。本作は当初細田守監督が作る予定だったのは有名な話ですが、細田監督が描いたハウルの城の絵コンテを見た事があるんですが、煙突が何本かある多くの人が思い浮かべるステレオタイプのお城で残酷な才能の差を見せられた気がして少し残念な気持ちになったのを覚えています。細田監督の描いた絵コンテが見たい人は検索すればすぐ出てくるので気になる人は各自検索して下さい。
またラストカットの空飛ぶお城のシュールさも凄く好きですね。何だコレって感じが凄く良い。まるで宮崎駿監督のパロディ作品みたいなビジュアルなんですね。それを本家が大真面目に描いている。少しラピュタっぽくもありますね。もう良い意味で訳分からないです。
- ファンタジー要素
「ハウル」は宮崎駿監督作品の中でもファンタジー色が凄く強いイメージがあります。「ドラクエ」もそうですが、中世ヨーロッパ風の世界観に魔法を合わせる威力は凄いですね。また結構ありがちなデザインでも宮崎駿監督の手にかかると凄くワクワクさせられるのも改めて凄いと思います。特にカルシファーなんて、冷静に考えれば炎に目と口を描いただけで小学生でも思い付くデザインです。それをあそこまで魅力的に描いている。火が消えそうな時に木を頑張って頬ばろうとする姿とか卵の殻を食べる姿とか一つ一つが生命感に溢れていているんですね。
ベーコンエッグだって本当にベタな題材で多くの人が日常的に食べている料理なのに、宮崎駿監督が描くとヨダレが出てくる程食べたくなる。これって改めて凄い才能だなと思いました。
- 生きる喜び
「ハウル」って逃げてばかりだったハウルがソフィーの為に戦いに行くシーンとか、ソフィーが過去に行ってハウルに会いに行くから未来で待っててと約束するシーンとか泣けるシーンで一杯なんですね。そして何故だか分からないけどこれから先の未来を生きる勇気を貰えるんですよ。これって弱い人間の強さを見た事で眠っていた生きる力が湧き出てくるというと少しクサい気もしますが、そんな感じで忘れていた生きる喜びを思い出させてくれるんですよ。だから宮崎駿監督作品が繰り返し視聴率を取るのって多くの人が生きる喜びを思い出したいからなんじゃないかと勝手に思ってます。
- ソフィーの見た目
本作がよく分からない映画になってしまっている一番の理由はやっぱりソフィーの見た目が年老いたり若返ったりして見た目が変化していく所にあると思うんですよ。だから今回はちょっと見た目の変化を意識して観てみると、ワンシーンで大きく見た目が変わったシーンが呪いにかかった瞬間を除くと2つあったんですね。
1つはサラマンにハウルは弱い人間じゃないと訴えるシーン。ここで見た目が一気に若返るんですよ。で、これ鈴木さんによると気持ち次第で人間は若返るっていうのがポイントらしいんですね。つまりソフィーのハウルへの想いの強さが少女に若返らせたと受け取る事が出来ます。ただサラマンに「ハウルに恋してるのね?」と言われると再び急激に歳をとってしまう。だから彼女はここで自分とハウルだと釣り合いが取れないと思って弱気になってまた年老いてしまったんじゃないかと推測できます。
2つ目は引越しの後にハウルに花畑でプロポーズされるシーン。ここは基本的に若い姿でしたが、ハウルが「ソフィーはキレいだよ!」と訴えると急激に老けるんですね。多分ココでもソフィーの自信の無さが自己暗示的に見た目を老けさせたと感じさせます。つまりこのシーンって年齢を言い訳に使って自分の自信の無さを正当化しているようにも見えるんですね。
で、これを前提に観ると他の細かいシーンも彼女の気分が見た目に出ているように感じさせられるシーンは凄く多いです。とか色々考えてたら「金ロー」の公式Twitterが答えを教えてくれました。
★「ハウルの城」に込められた、宮崎監督のもうひとつの想いとは?
— アンク@金曜ロードSHOW!公式 (@kinro_ntv) 2018年8月10日
本作についてのインタビューの中で宮崎駿監督は、「この物語が素晴らしいのは、呪いが解けて主人公が若返るというハッピーエンドではない点だ。大切なのは彼女が年を忘れること」と語っています。→続く
『もし若さだけに人間の価値があるとしたら歳をとったら意味がないのか?』それは監督にとって、大きなテーマでした。
— アンク@金曜ロードSHOW!公式 (@kinro_ntv) 2018年8月10日
その理由のひとつは、スタジオジブリの多くのベテランスタッフの存在。人生の岐路で引退する方も現役で続けている方も、すべての方の協力なくしてアニメーション映画はつくれない→
そんなスタッフへの想いが頭を離れなかったといいます。
— アンク@金曜ロードSHOW!公式 (@kinro_ntv) 2018年8月10日
また、本作公開の翌年、ベネチア国際映画祭で栄誉金獅子賞受賞の際に受けたインタビューで宮崎監督は「『おもしろいものは、この世界にいっぱいある、まだ出会ってないかもしれないけれど、きれいなものや、いいこともいっぱいある』ということ
つまり「年齢を言い訳にするな!要は気持ちだ!」って事ですね。歳を取ってもまだまだ未知の世界が広がっていると感じる宮崎駿監督だからこそこの後「風立ちぬ」みたいなファンタジーじゃない作品に挑戦も出来たんでしょうしね。
もちろん歳を取ると体力的に出来ない事も増えますし、時事ネタを入れるなら東京医大みたいに年齢で差別される事だって現実世界にはある訳ですよ。でもそれに負けない強い心と愛が必要なんじゃないかと感じました。
- 最後に…
本作って本当に奇妙なバランスで出来ている映画だと思います。それは声優にキムタクを使った事など全てを含んでです。そして観終わった後は断片的なシーンは思い出せても物語の全体像はイマイチ掴みきれない。何だか本当に夢を見ていた感覚に近い体験をさせてくれる映画だと思います。そんな変な映画なのに何故か観終わった後は生きる気力が湧いてくるのは本当に不思議でしかありません。繰り返しますが、本作は本当に変な映画です。起承転結もありません。それでもこれだけ面白いのはやっぱりバランスが取れてるとかしっかりした構成になっているとか映画ってやっぱりそういう事だけじゃないからなんじゃないかと思います。その反面宮崎駿監督という型をしっかりとやってきた人だから出来た型破りな作品であって、実人生においてもまずは型通りの事が出来てから自然に滲み出てしまったり、そこを踏まえて意図的に変えたモノが個性なのではないかと思います。