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千葉県の監督が埼玉県の原作者の未完の漫画を映画で完結させた人気コミックの実写映画版『翔んで埼玉』

翔んで埼玉

予告編の二階堂ふみが魅力的だったから『翔んで埼玉』を観たら物凄く面白かった。だから原作を買って読んでみたら原作者が所沢から横浜に引っ越して埼玉県を悪く描けなくなったという理由で未完だという事に衝撃を覚えると同時に実写映画版の完成度の高さを認識することが出来た。

 

埼玉の原作者と千葉の監督

のだめカンタービレ 最終楽章 前編

テルマエ・ロマエ?

本作の監督は『のだめカンタービレ』『テルマエ・ロマエ』『今夜、ロマンス劇場で』の武内英樹監督。フジテレビで数々の作品を生み出してきたヒットメーカーだが、フィルモグラフィーを見て分かる通りカルチャーギャップみたいな格差ネタのコメディ演出を得意とする監督だ。『のだめ』ではそれが変態音大生とエリート音大生であり、『テルマエ』では古代ローマ人が日本の風呂文化の格差に衝撃を覚える登場人物をコミカルに演出して笑いを取ってきた。今回はその格差が東京と埼玉であり、正にこの原作を演出する監督として最適な人材であったと言えるだろう。しかし本作では「監督の得意分野だから」以上に武内監督がメガホンを取った意味が映画に現れた。それは監督が千葉県出身である事だ。 

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※本作最大の見せ場となる埼玉県と千葉県の出身地対決

前述した通り本作は未完の作品である。その為本作は1本の長編映画として完成させるために映画オリジナルを作らなければいけなかった。その点について武内監督以下のように語っている。

武内 最初に書店で手にとった時、こんなふうに描いてもらって、埼玉がうらやましいなと思ったんですよ。僕は千葉出身なので。ここに千葉をねじこむことで、未完の原作を完結させようと思いました。それで最初に思い浮かんだのが、先ほど先生がおっしゃった合戦のビジュアルです。戦国時代の「姉川の戦い」みたいに埼玉県人と千葉県人を対峙させて、白黒つけてやろうじゃないか!という欲望で後半を作りました。

「埼玉ディス」マンガとして大きな話題になってから4年。 映画『翔んで埼玉』魔夜峰央×千葉出身の武内監督対談 | ダ・ヴィンチニュース

つまり埼玉県に住んでいた原作者が未完にしてしまった作品を千葉県出身の監督によって実写映画として物語を完結させたという事になる。映画の内容同様埼玉と千葉が力を合わせて作られた作品だという事だったのだ。

 

 

原作のギャグを大幅強化

このマンガがすごい! comics 翔んで埼玉 (Konomanga ga Sugoi!COMICS)

ギャグ漫画を実写映画化すると「アレ?マンガで読んでる時は爆笑だったのに、実写になると寒いな…」という事はよくある。それどころかストーリーと全く関係のない監督オリジナルのギャグが追加されて「いや、もう原作と世界観違うし、キャラもブレてグダグダになるだけだから何でもかんでも身内ネタ放り込めば面白いと思うのやめて貰えないかな?」とか思ったりする事もある。ただ本作はギャグの入れ方が原作の世界観やストーリーに沿った形で強化した内容だから面白い。

 

  • 百美が麻美に勝負を仕掛けるシーン

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例えば冒頭で百美が麻美に勝負を仕掛けるシーンは原作ではテストやテニス・バスケットボール・バレーボールという普通の競技だ。しかし実写映画版では瓶の中に入った空気から、東京のどの地域から持ってきた空気かを当てる「東京テイスティング」というオリジナルゲームに変更になっている。ただこれは原作では希薄だった東京ネタを強化する役割を果たしていて、東京に詳しい人ならあるあるネタとして、東京に疎い人にはウンチクネタとして楽しめる展開になっていて原作の世界観とストーリーに沿いながら見事にギャグを強化している。

 

  • 踏み絵のシーン

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麻美が埼玉県人とバレるキッカケになる踏み絵の件も原作では埼玉県知事の写真だったが、映画ではしらこばとの絵柄入りの草加煎餅に変更されている。このシーンも原作では「埼玉県知事の写真を踏むことは出来ない!」くらいだったギャグが、映画では草加煎餅を踏もうと苦悩する麻美の顔に対して、鳩の「踏まないで」と訴えるような切なそうな目のアップを対比にして笑いを誘う映像表現ならではの演出に見事アレンジしている。また観客に原作と違って「コレは踏めない…」と同情を誘えるのも良かった。

 

  • その他映画オリジナル展開

更に上述したように映画の後半は千葉ネタを大幅に強化した映画オリジナル展開になり、クライマックスに都庁を持ってくることで映画館のスクリーンに耐えうるスケール感も出す事も成功している。また原作には登場しない埼玉ポーズを繰り返す事で天丼ギャグになっているのも良かった。

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その上オチとしてフジテレビ映画らしさ全開の悪ノリに加えて、エンドクレジットでも埼玉ネタを放り込む事でこの映画を楽しめた人に対しての満足度のボルテージを最大限に上げたさせた状態で劇場を後に出来る見事な作りなっていた。

 

※この映画を全く楽しめなかった人にとってはエンドクレジットは地獄だったと思うけどね!

 

 

都市伝説形式で新たなギャップ

映画は原作と異なり百美と麻美の物語は結納に向かう一家の車のラジオから都市伝説として語られるが、この演出によって冒頭で「本作は茶番劇ですよ」と提示する事で観客のフィクションラインを最初に下げる事に成功している。またシュールなギャグ演出や現実離れした描写が続くと適度にラジオを聴いている家族の車の中の描写に戻り、観客と同じ普通の感覚を持った結納直前の若い女性がツッコミを入れてくれるので映画の世界観に遅れを取り付いて行けなくなる事を防いでいるのも良かった。『のだめ』や『テルマエ』だと現代の普通の人の中に変わった人が来る展開だったが、本作は原作をそのままやると変な世界で変わった人が変な事をやるばかりでツッコミ不在のメリハリがなくない作品になってしまうので、ラジオから流れる都市伝説という形にして変な人と普通の人との対比を作りたかった狙いがあったのだろう。その上でラジオの内容に感化させられる父と母とあくまでも普通の感覚を持ち続けて両親の熱に付いて行けなくなるという親子のギャップにした新たな格差ギャグに昇華したのも見事だった。

 

(C)2019 映画「翔んで埼玉」製作委員会

<出典:『翔んで埼玉』/魔夜峰央/宝島社>

 

 

最後に…

2019年度の人気コミックの実写映画は『キングダム』『東京喰種2』『アルキメデスの大戦』の3本に注目していたが、とんでもないダークフォースに出会った気分だ。やはりギャグ漫画は1話完結型が多い為、映画用のストーリーの軸を通してアレンジすれば上手くいくという成功例の1つになっただろう。武内英樹監督にはコレからもフジテレビのコメディ映画のヒットメーカーとして活躍を期待してます!最後に二階堂ふみの振り切り演技が物凄く魅力的だったからオススメです。

 

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