『アベンジャーズ エンドゲーム』が日本でもメガヒットスタートだ。そこで今回は11年に及ぶ日本でのMCU作品の興行展開の全てを振り返る。
何故か『ハルク』から公開して大惨敗
日本のMCU作品の興行歴史は2008年9月公開の『アイアンマン』ではなく2008年8月公開の『インクレディブル・ハルク』から始まる。本来MCUの1作目は『ハルク』ではなく『アイアンマン』の筈だが、日本では何故か『ハルク』から公開された。吹き替えキャストに水嶋ヒロを採用するなど宣伝に力を入れたが、動員ランキングは初登場11位と圏外スタートで興行収入も5億円と大惨敗だった。日本のMCUの歴史は何とも言えない残念な感じでスタートを切った。
ちなみに2008年の夏はDCコミック原作の『ダークナイト』が世界中で大ヒットしていた年だが、日本では宮崎駿監督の『崖の上のポニョ』が大ヒットしており動員ランキングは初登場2位スタートとなり最終興行も16.0億円と世界のヒットレベルから見れば温度差のある興行に終わった。この辺りから「アメコミ映画は日本で当たらない」風潮が出来始めていたのかもしれない。
『アイアンマン』が初登場1位も…
『ハルク』が日本で大コケした約2ヶ月後にMCUの1作目『アイアンマン』が日本公開。動員ランキングは初登場1位スタートに成功。一方で最終興行は9.4億円と10億円に満たない結果で『インクレディブル・ハルク』『ダークナイト』と合わせて世界のヒットに対して日本ではアメコミ映画は苦戦を強いられていると報じられた。
また本作公開時はプロモーションの為に主演のロバート・ダウニーJr.が15年ぶりに来日してくれたが、「前歴と日本での知名度の低さからの入国管理局により6時間の足止め」「日本のレストランの牛肉で食中毒を起こして、体調を大幅に崩して大半の仕事をキャンセル」「禁酒中でありながら鏡開きを強要されたジャパンプレミア」と散々な目に遭い「もう日本に来てはいけないのではないかと思った」とジョークを披露した事も話題になった曰く付きの映画。当然その後の来日は11年間実現していないなど日本のMCU映画の幕開けは2作連続残念な感じとなった。
ちなみに当時の日本では日本テレビが総製作費60億円を注ぎ込み3部作で浦沢直樹の大人気コミックを実写映画化した『20世紀少年』シリーズが大ヒットしていた。「どうして日本のコミックの映画化は当たるのに、アメコミの映画化は当たらないんだよ!」と当時の関係者は嘆いた事だろう。
MCUフェーズ1はコケ続き…
その後2010年公開された『アイアンマン2』は当時大ヒットしていた『告白』に敗れ動員ランキング初登場2位に甘んじるも、前作比135%のスタートを切り最終興行は12.0億円とMCU初の国内10億円を突破。
一方で2011年に公開された『マイティ・ソー』は最終興行5.0億円、同年に公開された『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』は最終興行3.1億円と依然興行不振が続いた。
『アベンジャーズ』公開へ!
5作品中4作品が興行収入10億円に届かない大コケが続く中で2012年ヒーロー大集合映画『アベンジャーズ』が日本でも公開される。しかし世界視点で見れば「あの大ヒット映画の主人公たちが同じスクリーンに集まるなんて最高!」という映画でも、日本視点から見れば「大コケした映画のよく分からない主人公達が集まって何が出来るの?」というテンション。知らない人たちがチームを組んでも盛り上がる訳がない。恐らく当時の宣伝スタッフは大変な苦労を強いられた事だろう。
そこで宣伝スタッフが思い付いたアイデアが日本を世界最遅公開にして、記録的なメガヒット作となってから「史上最強映画、誕生」「全米歴代No. 1新記録!」「世界各国新記録樹立」「日本よ、これが映画だ。」と「とにかく世界中でメガヒットしてる凄い映画が日本でも満を持して公開するから観てね!」という日本人のミーハー心を擽る宣伝方法だった。
『踊る大捜査線』もパロディにしたこのキャッチコピーは賛否を呼んだが、今まで10億円どころか5億円がやっとだったMCU作品が『アベンジャーズ』ではオープニング2日間で5億0093万2250円で初登場1位スタートを切った。火曜初日からのオープニング6日間では13億8600万2650円とシリーズ最速で興行10億円を突破して、ディズニーは最終興行70億円を狙えると発表した。
一方で最終興行は36.1億円とディズニーの目標の半分がやっとの結果に終わった。2012年の夏興行は興行収入70億円前後を稼いでた『スパイダーマン』のリブート作『アメイジング・スパイダーマン』が前シリーズの半分以下の最終興行31.6億円に留まった事や全世界で記録的なヒットを叩き出していた『ダークナイト ライジング』が前作に続き最終興行19.7億円と20億円に届かない結果に終わり「日本ではアメコミ映画は入らない」という風潮をより強固なモノにした。
しかし今まで5億円程度のシリーズだったMCUの大コケ主人公達が集合して最終興行30億円を超えたと考えれば世界の「大ヒット作の主人公が集まってメガヒットを叩き出した」イメージとは随分違うが、宣伝スタッフの功績は大きいようにも感じる。少なくとも「日本よ、これが映画だ。」は不当に叩かれすぎだ。兎にも角にも日本では「打ち切り漫画の主人公が集まって花を咲かせた」という感じではあるが、『アベンジャーズ』が興行収入10億円に届かない大コケという最悪の事態は防ぐ事が出来た。
ちなみに『アベンジャーズ』の日本公開翌週に実写版『るろうに剣心』の第1作目が公開され大ヒットスタートを切った。
『アイアンマン3』がヒットも…
『アベンジャーズ』の大ヒットによりフェーズ2の1作目である『アイアンマン3』は2週目のコナンに敗れ初登場2位に甘んじるもオープニング2日間で興収4億1467万5650円の前作を大幅に上回るスタートを切り最終興行も25.7億円と前作に対してダブルスコアを記録する大ヒットとなった。『アベンジャーズ』の大ヒットを機にファン層が広がった形だ。
一方で『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』は最終興行6.35億円、『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』は最終興行7.0億円と前作を上回る結果を残すも最終興行10億円には届かない結果となってしまった。
ディズニーは国内でのアメコミ映画ファンを増やす為にMCU10作目の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のオープニング3日間の高校生以下の料金を500円に均一するキャンペーンを打つ。本来ならチケットアベレージが低下する為、興行的にはマイナスになる筈だがそれでも長期的な興行展開を優先したのだろう。このキャンペーンが功を期したのかは不明だが、本作は最終興行10.7億円とアイアンマンが出演していないMCU作品としては初の興行収入10億円突破作品となった。
世界最遅公開の『エイジ・オブ・ウルトロン』
『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』は当初日本の世界最速公開を予定していた。しかしディズニーは2015年の夏興行の超大作として7月公開に延期すると発表。2015年のゴールデンウィーク興行は『シンデレラ』『名探偵コナン 業火の向日葵』『ドラゴンボール 復活のF』『ビリギャル』『映画クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 サボテン大襲撃』『龍三と七人の子分たち』『寄生獣 完結編』と話題作が集中する激戦区だった為、公開を避けたかったのだろう。その為日本は全米が5月公開に対して7月公開となり、「世界最遅公開」とネット上では揶揄された。
またアイアンマンを中心とする国内ポスターや「愛」を押すキャッチコピーにも非難が集まった。
一方で本作のオープニング興行は7億9390万8800円で初登場1位スタートを切り、公開段階ではその年のNo. 1ヒット作だった『ベイマックス』のオープニング興行を上回る大ヒットスタートとなった。ディズニーはこの数字を受けて最終興行70億円を狙えると発表。一方でこの年は夏も『バケモノの子』『ターミネーター:新起動 ジェニシス』『HERO』『インサイド・ヘッド』『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』『ミニオンズ』『ジュラシック・ワールド』『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』と話題作が集中する激戦区となり、最終興行は32.1億円と伸び悩み前作を下回る結果に終わった。まぁ、世界興行や全米興行もダウンしてるから仕方ないけどね!
ちなみに公開当時叩かれまくった『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』の最終興行は32.5億円と『エイジ・オブ・ウルトロン』を上回っている。
MCU作品10億円突破時代到来!
『エイジ・オブ・ウルトロン』以降MCU作品は安定して興行10億円を突破する事に成功する。フェーズ2の最後を飾る作品として公開された『アントマン』は『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』『ヒロイン失格』に敗れ初登場3位スタートに甘んじるも最終興行12.1億円と興行収入10億円を突破。
また2016年に公開されたフェーズ3の1作目『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』も公開前は「『アベンジャーズ2.5』とか『アイアンマンVSキャプテン・アメリカ』というタイトルしないと入らない!」と不安視されていたが、『名探偵コナン 純黒の悪夢』『ズートピア』に敗れ初登場3位に甘んじるもオープニング興行は4億4880万9900円と前作比で226.3%の驚異的なスタートを切った。最終興行も26.3億円と前作のトリプルスコアの結果を残した。
ちなみにこの年のゴールデンウィーク興行では実写版『テラフォーマーズ』が公開されたが興行目標の1/3にも届かない大コケとなり、日本の人気コミックの実写映画化に陰りが見え始めた時期だ。
MCUのフェーズ3はその後も『ドクター・ストレンジ』が動員ランキング初登場1位を記録して最終興行18.7億円と『アイアンマン』を除く単発映画としては初の興行収入10億円後半を記録するヒット、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』が原題の『Vol.2』から変更になり「総集編だと勘違いされて興行が逆に減る!」と叩かれながらも最終興行11.4億円と前作を上回るヒットを記録する。
MCUの限界が見え隠れ…
一方でMCUの限界が露呈したのが『スパイダーマン:ホームカミング』だ。本作は4週目の『怪盗グルーのミニオン大脱走』に敗れ初登場2位に甘んじるもオープニング2日間で4億4841万0600円、金曜初日を含む3日間で7億7532万5400円の好スタートを切った。一方で最終興行は28.0億円と興行不振として打ち切られた『アメイジング・スパイダーマン』シリーズが国内で突破していた30億円を下回る結果となった。本作は全世界で『アメスパ』の興行を大きく上まわる結果を残していたが、日本はアイアンマンが出演して興行を下げてしまった。これは日本のMCUの限界を垣間見るような結果だった。
その後公開されたMCU作品も『マイティ・ソー バトルロイヤル』が動員ランキング初登場1位を獲得して最終興行11.5億円、『ブラックパンサー』が最終興行15.6億円と興行収入10億円を突破してくるも世界的なヒットと比較すれば物足りない結果が続いた。
コナンに敗れた『インフニティ・ウォー』
「日本でアメコミ映画はヒットしない」という風潮を再認識させられたのが昨年公開の『アベンジャーズ インフニティ・ウォー』が世界中で記録的なヒットを叩き出す中で日本は公開3週目の『名探偵コナン ゼロの執行人』に動員ランキングで敗れ初登場2位に甘んじた事だ。オープニング興行は6億7200万円、公開4日間の興行は12億6000万円で最終興行は37.4億円とMCU歴代1位の興行収入を記録したにも関わらずコナンに負けたインパクトは大きかった。コレは一部海外メディアで「アベンジャーズが日本の探偵アニメに負けた」と報じられたレベルだ。またこの結果によって一部の熱心なMCUファンとコナンファンがネット上で互いの作品をdisりあったりし始めたのが残念だった。
その後公開された『アントマン&ワスプ』は最終興行13.2億円と現在のMCUのヒット基準を考慮すれば可もなく不可もなくといった結果だったが、『キャプテン・マーベル』は1ヶ月後に公開する『エンドゲーム』と直接繋がる事からか単発映画にも関わらず最終興行20億円に肉薄する結果を残した。
『エンドゲーム』の行方は…
そして『アベンジャーズ エンドゲーム』は上映時間が3時間超えである事を不安視される中で、公開初日だけで興行収入5億709万円のメガヒットスタートを切った。今年メガヒットスタートを切った『名探偵コナン 紺青の拳』の公開初日の興行収入が4憶2246万5000円だった事を考えればこの記録の凄さは伝わる筈だ。配給のディズニーによるとこの記録は平日金曜初日のディズニー作品としては最高記録を更新したという。オープニング3日間の興行収入は14億6750万円を記録して、ディズニーは最終興行70億円超えが狙えるヒットスタートだと発表した。ディズニーは1作目から興行収入70億円を狙って半分程度の興行に甘んじていたが、本作の最終興行は61.3億円と目標には届かずにも肉薄。オープニング興行の段階では「史上最大の初動型映画になるのでは?」という声も少なくなかったが、これまでのMCUから考えられない大ヒット作品となった。
ちなみに近年興行不振が続いた日本の人気コミックの実写映画化『キングダム』も最終興行57.3億円の大ヒットとなり、日米人気コミックスの実写映画版が強さを見せたゴールデンウィーク興行となった。『名探偵コナン』『キングダム』『アベンジャーズ』と漫画の映像化はヒット作の宝庫なのだろう。
また今年は昨年動員ランキングの1位を争った『アベンジャーズ』と『名探偵コナン』のコラボ映像を作るなど日本映画界全体でゴールデンウィーク興行を相乗効果で盛り上げてこうという取り組みも良かった。
最後に…
日本でのMCUの興行収入は世界のような記録的なヒットの連発とはならなかったが、着実に多くの人に受け入れられていた様子が確認できる。