『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』の全米オープニング興行が1億7550万ドルだったことが判明した。このオープニング興行は『フォースの覚醒』の2億4800万ドルと『最後のジェダイ』の2億2000万ドルを大きく下回る数字だ。ディズニーとしても『アベンジャーズ エンドゲーム』の3億5700万ドルは別格としても、超実写版『ライオン・キング』の1億8500万ドルにすら届かなかったのは想定外だろう。
2015年に始まったディズニー製作の『スター・ウォーズ』シリーズ1作目の『フォースの覚醒』はロッテントマトの批評家支持率93%、観客支持率86%と概ね絶賛モードで受け入れられた。興行面でも全米だけで9.36億ドルを稼ぎ、世界興行も20億ドルを超える世界的なヒット作になった。一方で日本では初週の動員数が『映画妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』を下回り初登場2位に甘んじ、最終興行もディズニーの目標だった150億円を下回る116.3億円に留まった。
ディズニーが構築する「スター・ウォーズ帝国」の雲行きが早くも怪しくなったのは、『フォースの覚醒』の翌年である2016年に公開された2作目にしてスピンオフ作品の『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』からである。本作のロッテントマトの批評支持率は83%、観客支持率は86%と高い。また興行面でも日本では最終興行46.3億円とディズニーの興行目標だった80億円を大きく下回ったが、全米だけで5.32億ドル、世界興行でも10億ドルを超えるヒット作になった。一方で「観客が想像するべき物語の余白を、態々映像化して金儲けするのは如何なものか?」という疑問の声が少なからず上がっていた。また公開の半年前に全編の半分を撮り直すというトラブルもあった。ただこの頃はまだディズニーが構築する「スター・ウォーズ帝国」を喜ぶ声の方が大きかった。
そんなディズニーの「スター・ウォーズ帝国」が暗黒面に足を踏み入れたのが、2017年にライアン・ジョンソン監督によって世界に送り出された『最後のジェダイ』だ。本作では前2作品まで概ね絶賛ムードだった批評家と観客の支持率が、批評家支持率91%と観客支持率43%と大きく割れた。賛否両論になった理由の1つとしては「今までの『スター・ウォーズ』像を壊して、新しいことに挑戦しようしたこと」にある。絶賛派は「血統主義から解放されたディズニーが生み出す『新しいスター・ウォーズ』象」を褒め称え、否定派は「『新しいスター・ウォーズ』をやるために、旧キャラを雑に切り捨てるやり方」に拒否反応を起こした。その拒否反応のレベルは「正史から『エピソード8』を除外させよう」というキャンペーンに10万もの著名が集まるほどのものだった。一方で否定派の中には「新しい挑戦をしようとする試みは評価するが、純粋に映画としてのクオリティが低いのではないか?」という声もあったが、それらの声は絶賛派が「過去に拘っているだけ」とマウント取る光景がネット上に広がる地獄絵図となっていた。
そんな賛否両論だった『最後のジェダイ』の興行収入は全米で6.20億ドルと『フォースの覚醒』の66.2%、世界興行も13.32億ドルと『フォースの覚醒』の64.4%にそれぞれ留まった。日本での興行収入も75.1億円と世界と同様の推移を見せたが、ディズニーは『フォースの覚醒』『ローグ・ワン』が興行的に思いの外振るわなかったことから、興行目標を70億円前後としていたため「思ったより入って良かった」という結果になった。
ディズニーの構築する「スター・ウォーズ帝国」の崩壊が決定的になったのが、賛否両論となった『最後のジェダイ』の僅か半年後に公開されたスピンオフ作品『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』だった。本作は公開約1年前に起きた監督交代劇によって、全体の85%を撮り直すなどのトラブルがあり、製作費は2億7500万ドルとシリーズ最高額まで膨れ上がった。。本作の批評家支持率は70%、観客支持率は63%と「ボチボチ」だったが、興行面では全米興行が2.13億ドルと国内での製作費回収に失敗して、世界興行も3.92億ドルと4億ドルを下回る大惨敗に終わった。
この興行的失敗はディズニーが量産する『スター・ウォーズ』シリーズに対して、観客が「スター・ウォーズ疲れ」を起こしたのではないかという声が上がった。本作の興行的失敗を受けてディズニーは「オビ=ワン・ケノービ」や「ボバ・フェット」のスピンオフ作品の計画を保留にした。ディズニーの構築しようとした「スター・ウォーズ帝国」計画が崩壊した瞬間だった。
以下『スカイウォーカーの夜明け』のネタバレあり
『#スターウォーズ』シークエルがバラバラな理由
→各作で異なる監督が「自分のやりたい表現の中で言いたいことを言うべき」であり、3部作の調子を予め固めなかった理由について「固められるものなんてない」「可能性に満ちているから、何も先に決めてしまう必要なんてない」 https://t.co/fxqafFRbEa
前述した通り現在公開中の最新作『スカイウォーカーの夜明け』のオープニング興行はディズニーの思い描いていたようなヒットにはならなかった。本作の批評家支持率は批評家支持率57%、観客支持率86%と割れている。2年前に『最後のジェダイ』を絶賛した批評家からすれば、その絶賛したポイントが尽く『スカイウォーカーの夜明け』では「ミスリードでした!」と言わんばかりに覆されていたのだから当然といえば当然の結果である。ただし関係者のインタビュー等を読む限り、『スカイウォーカーの夜明け』によって覆った『最後のジェダイ』の設定は決して最初から「ミスリード」だったわけではなく、後から「ミスリード」にしたことが伺える。
ルーカスフィルムのキャスリーン・ケネディは三部作に一貫性がない理由を「(各作で異なる監督が)自分のやりたい表現の中で言いたいことを言うべき」として、「可能性に満ちているから、何も先に(三部作の方向性を)決めてしまう必要なんてない」などと語る。ただ個人的にはこの説明は綺麗事を言って問題の本質から目を背けいているようにしか感じない。勿論作品ごとに異なる監督が自分のやりたいことをやっていくことで傑作が生まれることもある。ただそれは『ミッション:インポッシブル』とか『ルパン三世』みたいな単発作品の話だ。『スター・ウォーズ』は三部作で「映画一本」という認識だと言っても過言ではない。そのため三部作を通して物語に一貫性を持たせる必要があったのではないか?「レイがパルパティーンの孫」ならその方向で、「レイの親は何者でもない」ならその方向で、三部作でキッチリ物語を語っていくべきだった。最初から三部作構成でやると決めていたのだから、公開後に多少の軌道修正があったとしても一作目から完結編である三作目のラストを想定して物語を作っていくべきだったのである。というより、これこそが三部作構成にする意味であり、日本の週刊漫画のようなシステムで物語を作っていくなら「最初から三部作構成」でやる意味はない。結局ディズニーは「可能性」などという聞こえの良い言葉を使いながら、三部作を通して世界に伝えたいメッセージなどは「なかった」ことが露呈した。結局は金儲けのために『スター・ウォーズ』の名前を使いたかっただけなのだろう。だから『最後のジェダイ』で描いたこともファンからの評判が悪く、興行的なダメージが発覚すると簡単にファンに媚びるような作品を作ってしまう。結局は『フォースの覚醒』路線でファンを徹底的に楽しませる覚悟も、最初から『最後のジェダイ』路線で既存ファンから反感を買ったとしても新しい物語を描き切ろうとする覚悟もディズニーにはなかったのだ。
ディズニーの「スター・ウォーズ帝国」の構築は続く…
スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け オリジナル・サウンドトラック(限定盤)
- アーティスト:ジョン・ウィリアムズ
- 出版社/メーカー: Universal Music =music=
- 発売日: 2019/12/20
- メディア: CD
参考文献
Star Wars 2015-2019 - Box Office Mojo
Rotten Tomatoes: Movies | TV Shows | Movie Trailers | Reviews - Rotten Tomatoes
『ローグ・ワン』再撮影の真相を監督が激白。いかにして「スター・ウォーズ」と戦争映画は融合したか | THE RIVER
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