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「世代交代」に失敗したジブリ/『ゲド戦記』『借りぐらしのアリエッティ』『コクリコ坂から』『思い出のマーニー』

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スタジオジブリ、制作部門の休止

そう発表されたのは2014年8月、米林宏昌監督の『思い出のマーニー』が公開中の夏だった。かつてプロデューサーの鈴木敏夫さんは「スタジオジブリ宮崎駿監督と高畑勲監督の作品を作る場所」「映画がコケたら、それで終わり」みたいなことを言っていた記憶があるが、何だかんだで「世代交代」についても真剣に考えていたことが、インタビュー等から読み取れる。

 

ゲド戦記 [DVD]

スタジオジブリは定期的に宮崎駿監督と高畑勲監督作品以外の映画も封切ってきたが、やはりスタジオジブリが「世代交代」を全面的に押し出してきた最初の作品は2006年に公開された宮崎吾朗監督の『ゲド戦記』。本作は宮崎駿監督の息子である、宮崎吾朗監督の「第1回監督作品」として盛大に宣伝された訳だが、公開前から叩かれまくった。そりゃ、そうである。だって「ずっとアニメーション現場で下積みしてた宮崎駿監督の息子がジブリ映画の監督へ」とかではなく、「アニメーション現場『経験なし』の2世がいきなり長編監督デビュー!」となれば格好の的にされて当然である。また父親である宮崎駿監督が作品な対してネガティブな発言が多かったのも、炎上に燃料を投下する形になっていた。そのうえ完成した作品のクオリティはとても褒められるものではなく、興行収入は76.9億円と数字の上では大ヒットとなったが、当初目標としてた100億円には届かない結果となった。

借りぐらしのアリエッティ [DVD]

スタジオジブリ世代交代プロジェクト第2弾として公開されたのが2010年に公開された米林宏昌監督の『借りぐらしのアリエッティ』。こちらはスタジオジブリのアニメーターとして活躍していた人物が監督として抜擢されたという形だったので、公開前に宮崎吾朗監督のようなバッシングを受けることはなかった。『ゲド戦記』の時と異なり、宮崎駿監督が製作・脚本で参加するなど協力的だったのもスタジオとしてありがたかったのだと思う。興行収入も100億円にはあと一歩届かなかったが、92.6億円と大ヒットを記録。ただ世間の評判は「え?アレで終わり?」というもので、宮崎駿監督作品レベルの映画が観れると思って劇場を訪れたライト層の観客にとっては期待とのズレを感じさせる作品だった。

 

 

  • 興行的期待、応えられず

コクリコ坂から [DVD]

ゲド戦記』『借りぐらしのアリエッティ』と世間的な評判はさておき、興行的には大ヒットを記録した2作品。両監督は宮崎駿監督・高畑勲監督以来となるスタジオジブリ作品としての2作目の監督を任されることになる。これはスタジオジブリが本気で「世代交代」を目指していたことを意味する。しかし両者2回目の監督作品はどちらも興行的に振るわない結果となった。まずは2011年に公開された宮崎吾朗監督作品『コクリコ坂から』は、前作『ゲド戦記』とは異なり宮崎駿監督が製作・脚本で参加。それに加えて宮崎吾朗監督自身も監督としてのレベルを上げたことから、作品の評判は前作のような酷評を喰らうことはなかった。しかし宮崎駿監督作品ほどの絶賛が集まった訳ではなかった。興行面では前作『ゲド戦記』の76.9億円を大きく下回る44.6億円に留まった。これはその年に公開された日本映画の中では1番のヒットだ。しかし他の作品と比べて莫大な予算をかけることで知られるスタジオジブリ作品としては厳しい結果だった。

思い出のマーニー [Blu-ray]

そしてスタジオジブリ作品の制作部門休止の決定打となってしまったのが、米林宏昌監督の2作目『思い出のマーニー』だった。本作は宮崎駿監督引退宣言後に作られた作品であり、コンセプトは「宮崎駿監督を徹底的に排除して作ること」だった。そのため公開当時は「作品に関わろうとしてくる宮崎駿監督と、それを無視して自分のやりたいことを貫く米林宏昌監督」という構図の紹介のされ方をしていた。ただ世間が求めていたのは「スタジオジブリの作品」ではなく「宮崎駿監督の作品」というズレもあってか、本作の興行収入は35.3億円とやはり莫大な予算を投下するスタジオジブリ作品としては厳しい結果に終わった。

 

 

かぐや姫の物語 [DVD]

ここまでの流れだと「世代交代」を期待された監督たちが、その期待に応えられなかったことでスタジオジブリは休止に追い込まれたようにも見えるが、実は『思い出のマーニー』の公開前年には高畑勲監督の遺作となった『かぐや姫の物語』が公開されている。そして本作の製作費は51.5億円とスタジオジブリ史上過去最高の予算が投下されていた。しかし興行収入は製作費の半分以下の24.7億円に留まった。ちなみに興行収入の約半分は上映している劇場の取り分となるため、スタジオジブリに入ってきた収入は更にこの半分以下の数字となる。つまり映画史に残る大赤字だ。『かぐや姫の物語』は作品としての評価は高い。しかし興行面ではスタジオジブリに致命傷を与えた作品であることも事実なのだ。

 

 

  • 最後に…

ただ、そもそも論としては「興行収入100億円を突破しなければ赤字になる体制」で長年スタジオを続けられていたという方がおかしな話なのだ。そしてその「おかしな体制」を長年続けられていたのは、宮崎駿監督と高畑勲監督、そして鈴木敏夫プロデューサーという天才が集まっていた結果なのだろう。宮崎駿監督は現在、引退宣言を撤回して長編映画の制作に取り組んでいる。