2020年3月の映画興行収入の総額は僅か56億円(参考として昨年公開の『映画ドラえもん』の最終興行は50.2億円)と前年比から70.2%のダウンだったという。これは新型コロナウイルス感染拡大の影響であり、「緊急事態宣言」が発令された4月の映画興行は更に絶望的な数字が並ぶとされている。一説によると4月3週目は週末興行収入17万3100円の『パラサイト 半地下の家族』が動員ランキング1位を獲得したという。仮にこの情報が事実なら、一般人のポケットマネーでも動員ランキング1位が購入できる金額であり、「幸福の科学」にとっては動員ランキングの連覇を目指せる絶好のチャンスである。そんなこんなでゴールデンウィーク興行を狙った4月公開作品も軒並み公開延期となってしまった訳だが、「記録」としてゴールデンウィークに全国280館以上で公開される予定だった映画を紹介する。
- 007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
『007』シリーズの記念すべき25作目。主演は8か月の撮影が終わった2日後に「ボンド映画をもう1本撮っているところを想像できますか?」と聞かれて「今?そんなことをするくらいならこのグラスを割って手首を切った方がいい」と発言したところ、「今」を切り取られ「降板へ」と報道されてしまったダニエル・クレイグ。彼の主演した『007』シリーズの日本での興行収入は『カジノ・ロワイヤル』が22.1億円、『慰めの報酬』が19.8億円、『スカイフォール』が27.5億円、『スペクター』が29.6億円と基本的に右肩上がり。最新作でも興行収入25〜30億円が期待できる一方で、上映時間163分がネックになるのではという不安の声もあった。本作は3月上旬に全世界の公開月を11月に延期すると発表した。当時は新型コロナがここまで広がりを見せるとは思っていなかったので「随分思い切った決定だな…」と驚いたが、今から振り返れば適切な判断だったのだろう。日本での新たな公開予定日は2020年11月20日。
- 名探偵コナン 緋色の弾丸
ゴールデンウィークの風物詩『劇場版名探偵コナン』シリーズ最新作。本作は東京オリンピックをモチーフにした4年に一度開かれる世界最大のスポーツの祭典「WSG ワールド・スポーツ・ゲームス」の東京開催が舞台な上に、2月下旬にライブを強行して叩かれまくった「東京事変」が主題歌を担当しており、新型コロナ関連の騒ぎによって「なんか、スゲーな要素」が増えてしまった作品。近年のコナンシリーズの興行収入は7年連続右肩上がりを記録しており、一昨年と昨年に公開された作品では2年連続興行収入90億円突破している。今年は原作でも未だに謎が多い「赤井ファミリー」が集結するということで、注目度は高くシリーズ初の興行収入100億円突破も期待できる作品だった。ちなみにコナン映画の興行伝説が始まったとされるのは原作に先駆け赤井秀一の謎が明らかになると話題になった2014年公開の『異次元の狙撃手』からだった。新たな公開日の予定は未定。
- ムーラン
ディズニーが過去の名作アニメーション映画を実写映画化するシリーズの最新作。近年ゴールデンウィークに公開されたディズニーの実写映画だと『シンデレラ』が興行収入57.3億円、『美女と野獣』が興行収入124.0億円のヒットを記録していた。一方で本作は前述した2作品よりネームバリューが劣る印象もあり、どの程度の興行的パフォーマンスを見せれるかは未知数な部分があった。本作は3月上旬に3月公開予定だったピクサー最新作『2分の1の魔法』と同時に5月22日への公開延期を発表。しかし新型コロナウイルスの感染拡大の影響がディズニーの想像を超えた結果、3月下旬に「公開日未定」と再延期を発表した。当時は『007』と同じく「4月公開映画の延期を決めるなんて早いな〜」と呑気なことを考えていたが、今思えば早々に延期を発表したディズニーですら当初は5月公開に踏み切ろうとしていた「甘さ」が垣間見える結果となった。
- 劇場
『火花』で芥川賞を受賞した又吉直樹の2作目となる同名小説を実写映画した作品。主演は昨年ゴールデンウィーク興行で『キングダム』が大ヒットした山崎賢人。菅田将暉主演で実写映画化された『火花』の興行収入は8億円だったが、本作はどこまでの興行的パフォーマンス見せられたのか… 現在の公開日は未定。
『名探偵コナン』と共に東宝の経営を支えるゴールデンウィークの風物詩『映画クレヨンしんちゃん』シリーズ最新作。2016年に「16年に及ぶ封印」を破り、復活したぶりぶりざえもんが1999年公開の『爆発!温泉わくわく大決戦』以来となる「セリフ付き」で映画版に登場することも話題となっていた。先日長年野原ひろし役を務めていた藤原啓治さんが亡くなったことも話題となったが、近年『クレヨンしんちゃん』シリーズの声優は一新している。一方で昨年公開された平成最後の月に公開された『新婚旅行ハリケーン 〜失われたひろし〜』では野原一家という「平成を代表する核家族」が、時代が変わり、声優が変わったとしても「この家族は永遠に続いていく」と表明するような作品になっていた。令和初の『映画クレヨンしんちゃん』でも、前作に続く興行的パフォーマンスを見せて欲しいと思っていたが… こちらも現段階で公開日は未定である。
- 糸
www.youtube.com
1998年にリリースされた中島みゆきのヒット曲『糸』をモチーフに、平成元年に生まれた男女の18年間を生活者からの視点から見た平成史とともに描いていく作品。公開約1ヶ月前にメインキャストである菅田将暉と小松菜奈の熱愛が発覚したことで、番宣バラエティの度にSNSで「デートを見せられてるみたい」「ラブラブ過ぎて羨ましい」など話題にもなった。映画関係者によると「普通キャストの熱愛が発覚した場合、炎上するケースが多いが今回は祝福ムードだから映画の追い風になるのでは!?」などと映画興行に繋がることを期待しているような報道もあったが、こちらも現在は公開日が未定となっている。果たして2人の愛は本作公開まで続くのか… 本編より注目かもしれない。
- コンフィデンスマンJP プリンセス編
昨年公開され興行収入29.7億円の大ヒットを記録した長澤まさみ主演の月9ドラマ『コンフィデンスマンJP』の劇場版シリーズ第2弾。東出昌大の不倫が『週刊文春』によって報じられたことで「宣伝はどうするんだ!?」とか「映画第3弾のハワイロケが中止になった」とか、何かと話題にされてしまった作品。個人的にも「きっと前作から少しでも興行収入が下がったら、東出を戦犯とするネットニュースが出るんだろうな…」と嫌気が差していた。ただ新型コロナ感染拡大の影響によって、東出どころではなくなってしまった。ちなみに東出の演じるボクちゃんは「いかなる理由があろうと人を騙す事は良くない」という考えの持ち主で詐欺集団のダー子たちと手を切ろうとしながら、何だかんだでいつも詐欺に手を染めてしまう役柄。アレ?
- ブラック・ウィドウ
MCU最新作。スカーレット・ヨハンソン演じる孤高の暗殺者だったブラック・ウィドウがなぜアベンジャーズになったのか、知られざる物語が明らかになる物語。昨年公開されたMCUの興行収入は『キャプテン・マーベル』が20.4億円、『アベンジャーズ/エンドゲーム』が61.3億円、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』が30.6億円となっており、依然世界のヒット水準と比較すれば物足りない数字が並ぶが、シリーズを重ねるごとに着実にファンを増やしていったのも事実だ。そのため本作も興行収入20億円以上のヒットが期待できたが、2020年11月6日に公開延期が決まった。ちなみに本来の公開日である5月1日はTwitterのプロモーション枠に「アベンジャーズ」公式が「#家にいれば君もアベンジャーズ」というハッシュタッグでシリーズを宣伝していたが、アレも新型コロナによって形を変えざるを得なかったモノの一つだったのだろう。
- 最後に…
2020年度春休み映画興行レポート/新型コロナウイルス感染拡大の影響で「話題作公開延期」「10億円突破作品なし」
→3月初週公開のアドバンテージもあってか『Fukushima50』『仮面病棟』が興行収入7億円超えで春興行のトップ争い
3月の興行収入を振り返ると安倍総理が「全国一斉休校」を発令した翌週末に全国300館以上で公開された『Fukushima50』と『仮面病棟』の2作品は週末オープニング興行1億円前半と苦戦を強いられた。ただしこの2作品はシリーズ物ではなく単発作品であるが故に、本来のポテンシャルが判断つかない部分もあった。しかし世間的には気が緩んだとされる「3月の3連休」に公開された『ハーレイ・クイン』もDCEUの興行水準を大きく下回る結果となった。そのため今後映画館の営業が再開されても、3月前半くらいのムードのうちは中々観客も戻ってこないのではないかと感じる。そうなれば『ハーレイ・クイン』のような興行収入15億円前後クラスの映画だと、興行的なダメージを受けるのは確実だと予測され、映画会社も新作を中々封切れない状況が続き、魅力的な新作映画がないと観客は戻ってこない… というような負のスパイラルにしばらく陥ってしまう可能性もある。映画業界のキャンペーンとして登場した「ゴールデンウィーク」は今年公開作品がないという異例の状況となった。そして現段階で既に『シン・エヴァンゲリオン劇場版』『トップガン マーヴェリック』『ソウルフル・ワールド』『ミニオンズ フィーバー』など夏映画の公開延期も次々と発表されている。映画館に活気が戻ってくるのは当分難しそうだ…