堺雅人主演『半沢直樹』新シーズンの前半は初回視聴率22.0%を記録して以降、2話目22.1%、3話目23.2%、4話目22.9%と前作には及ばずも高視聴率を連発しており、絶好調だ。
以下原作とドラマのネタバレ
- 原作に登場しないキャラクターたち
新シーズンの前半は2010年8月7日号から2011年10月1日号の『週刊ダイヤモンド』で連載されていた『ロスジェネの逆襲』を原作としている。一方でドラマ版はかなりアレンジが加えられており、原作にはテレビドラマ版で話題を呼んだ香川照之演じる大和田元常務や片岡愛之助演じる金融庁の黒崎は登場しない。そのためドラマ放送中に話題となった「黒崎が半沢のパソコンのパスワードを解析しようとする」や「吉沢亮演じる敏腕プログラマー・高坂圭が外部からデータを消去しようとする」なども原作には存在しないシーンだ。他にも放送当時賛否割れた初回の見せ場だった「伊佐山がメールの受信サーバーを削除して証拠隠滅を図った」なども原作には存在しないシーンだった。
また今田美桜演じる東京セントラル証券の新入社員・浜村瞳も原作には登場しないオリジナルキャラクターだ。このキャラクターが作られた理由が「男ばかりで華がないから」なのか、「若い女性の活躍も描こうと思った」からなのかは定かではないが、そのどちらか、また両方なのではないかと感じた。ちなみに上戸彩演じる半沢花も『ロスジェネの逆襲』には登場しない。
- 半沢と大和田の共闘に繋げるオリジナル設定
テレビドラマ版のクライマックスでは大和田が半沢直樹と一時的に共闘するという形で三笠副頭取や伊佐山に勝利を収めたが、原作では前シリーズに登場した吉田鋼太郎演じる半沢の上司・内藤寛が大和田の役割を務めている。おそらく原作には登場しない大和田を再登場させたのは前シリーズでの「圧倒的な大和田人気」によるものからだと考えられる。
今回のように原作に登場しないキャラクターを強引に作品に追加すると話がとっ散らかってしまうケースも見受けられるが、本作では「三笠副頭取と大和田元常務の権力争いしている関係」「伊佐山は大和田の愛弟子であったが、あの一件以来三笠副頭取側につくようになった」というオリジナル設定を追加することで、「前シリーズで啀み合っていた半沢と大和田の利害が一致して一時的な共闘をする」というクライマックスに違和感なく繋げたのは見事だと思った。
- 薄まった「ロスジェネ要素」
ドラマ版の特徴は歌舞伎役者による濃すぎる演技だが、その一方で原作から薄まったのは「ロスジェネ要素」だ。本作の原作はシリーズ1作目『オレたちバブル入行組』、シリーズ2作目『オレたち花のバブル組』からの流れで出版されたシリーズ3作目『ロスジェネの逆襲』であり、タイトルから分かる通りバブル崩壊後から約10年間の期間に就職活動をした「失われた世代」をテーマにしている。そのため原作では賀来賢人演じる森山の「就活氷河期に就活を行うも不採用が続き、ようやく手に入れた内定先では大した能力もないくせに大量採用されたバブル入社組が中間管理職で幅を利かせているという絶望」などが詳細に記されており、その森山が半沢や瀬名と仕事をすることで成長していくという大きな軸が存在していたが、ドラマではその辺りは結構アッサリした感じになっていた。
「ロスジェネ要素」を薄めたのは2010年から2011年に連載された原作と2020年放送のテレビドラマ版を同じ設定でやるには無理が生じるからかなとも思ったが、原作・テレビドラマ版共に半沢はロスジェネに「君達は10年後、社会の真の担い手になる」という趣旨の発言している。また原作における半沢の「ロスジェネの逆襲」という表現はテレビドラマ版では「君達の倍返し」に変更されている。ここから製作陣は時代の変化により「ロスジェネ要素」を薄めたのではなく、純粋に「ロスジェネの物語」を深掘りするより「歌舞伎役者の変顔」に力を入れた方が視聴率が取れると判断したのではないかと思った。
- 最後に…
最後に原作と比較するとテレビドラマ版は視聴者を盛り上げがる見せ場の作り方が上手いな、と感じた。例えばスパイラルがフォックスを買収する際に、マイクロデバイスの創業者ジョン・ハワードから3億ドルの出資の出資をする件も原作では半沢が週刊誌にリークするという形で読者に明かされる。一方でドラマ版は生中継の会見でサプライズとしてスティーブ・ジョブズそっくりのおじさんが登場するというド派手な発表に変更になっている。このシーンはSNSでも大盛り上がりだったし、映像メディアの特性を活かしたアレンジだったのではないかと思った。新シーズンの後半戦も楽しみだ。