『TENET テネット』がコロナ禍の日本でクリストファー・ノーラン監督史上2番目の興行収入を記録した理由

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2020年9月18日に公開されたクリストファー・ノーラン監督作品『TENET テネット』の日本での最終興行収入が27.3億円だったと発表された。この記録は日本での同監督作品では『インセプション』に次ぐ2番目の興行収入である。

『インセプション』ヒットの理由は？

『TENET テネット』の前に日本でノーラン監督史上最大の興行収入を記録した『インセプション』のヒット理由を考えたい。まず『インセプション』の公開時期は2010年7月23日と日本で一番興行収入が見込めるとされる夏休み公開。その上、主演がレオナルド・ディカプリオ、クレジット2番目レベルの重要役に日本人である渡辺謙と国内で知名度の高い人気俳優がメインで出演。更に当時は『ダークナイト』後の作品とあって、ミーハーを含めた映画ファンからの注目度も高いという＋α要素もあった。ただ個人的に一番のヒット理由だと感じたのは、「人の夢の中に入る」という分かりやすいコンセプトだ。

インセプション(字幕版)

発売日: 2013/11/26
メディア: Prime Video

インセプション(吹替版)

発売日: 2013/11/26
メディア: Prime Video

『TENET』もコンセプトは分かりやすい

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ヒット作品の特徴は「スタジオジブリ作品」などのブランド価値がそもそも高い作品、もしくは都会の男子高校生と田舎の女子高生が入れ替わる『君の名は。』のような映画のコンセプトが分かりやすい作品だ。勿論、ノーラン監督作品も同監督作品というだけで日本でも一定のブランド価値はあるだろう。しかし過去作品の興行収入を考えれば、ノーラン監督の日本での興行価値は15億円前後。今回の『TENET テネット』の興行収入は27.3億円と過去の日本でのノーラン監督作品の興行収入アベレージを大きく上回っている。そう考えると『TENET テネット』は映画本編自体は分かり難かったかもしれないが、映画のコンセプト自体は「時間の逆行」と分かりやすい。特に予告編映像の時間が逆行している映像は、多くの人の興味を惹き、この映画を体験したいと思わせたことだろう。

コロナ禍後、初のハリウッド大作という＋α要素

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更に『TENET テネット』はコロナ禍後に初めて公開されたハリウッド大作(日本では緊急事態宣言解除後の6月に『ドクター・ドリトル』や『ソニック　ザ・ムービー』などが公開されていたが…)という＋α要素もあった。というのも、日本では幸運にも緊急事態宣言解除後のスタジオジブリ4作品の再上映により観客が徐々に映画館に戻り、7月以降は『今日から俺は！！劇場版』『コンフィデンスマンJP プリンセス編』『映画ドラえもん　のび太の新恐竜』『糸』『事故物件　恐い間取り』などの話題作が次々と公開され、興行収入20〜50億円のヒットを記録していた。一方でこれらの作品は全て邦画だった。この背景には日本よりコロナの状況が酷いアメリカでは依然として話題作の公開延期または配信公開への移行が続いていた状況がある。そのため多くの洋画ファンは邦画のヒットを横目に、物足りない日々が続いていたのではないかと感じる。そんなタイミングで公開されたのが、映画館の公開に拘り続けたノーラン監督の本作だった。

恐らく日本の宣伝スタッフも国内の洋画ファンの飢えには気付いていたのだろう。だから宣伝CMも「この映画を観るために世界中の観客が劇場に帰ってきた」「劇場封鎖以降興行収入No.1」と、日本の洋画ファンの飢えをモロに煽る内容だった。

そして本作は宣伝スタッフの目論見通り、というよりはノーラン監督の「本作を公開する事で劇場に観客を戻したい」という想い通り、多くの人がコロナ禍で公開される本作に特別な意味を見出し、本作を「今こそ劇場で観る映画」と判断した。当然、これは作品に魅力があってこその話だが、本作のヒットにはそういう空気があったことも観客を劇場に向かわせる要因の一つになっていた面もあったのだと思う。

最後に…

最後に公開時期に触れておく。日本での公開日は9月18日と4連休の前日である金曜日の公開。夏休み公開の邦画の興行が一段落し、スクリーンが多く確保できたこと、そしてオープニング興行5日間の数字を盛大に発表できたことも「洋画復活」のイメージをアピールすることができ、少なからず興行にもプラスの影響を与えたのではないかと感じる。