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【鎌倉殿の13人】「ディレクター視点の編集済み番組」を見ている小栗旬視点が最後に入った『プロフェッショナル 小栗旬スペシャル』

「小栗旬スペシャル」

NHK『プロフェッショナル 小栗旬スペシャル』を観た。

 

自分は基本的にこの手のドキュメンタリー系の番組を構えてみる。何故ならドキュメンタリー系の番組は大量に撮影した映像と対象にした人物の過去や発言から、ディレクターが伝えようと思ったことに沿って編集されたものだと思っているからだ。勿論、それはドキュメンタリー系の番組に限った話ではないのだけど、やはりこの手の番組を観た後はたった1時間とか2時間とかの短い時間でその対象の人物の全てを分かった気になってしまう怖さがある。だから自分は「これはあくまでもディレクター視点の話なんだ」と強く意識することで一定の距離を保って番組を楽しもうとする。

 

 

本番組はNHK・大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の主演である小栗旬の特集。個人的に小栗旬はブラックなイメージが強い日本の俳優業界を改善しようと色々と努力しているイメージがある。実際、本作は大河ドラマ初のハラスメント防止講習会「リスペクト・トレーニング」を導入した作品だという。これも小栗旬の意識の高さ故という報道もあったが、番組を観ているとそれを裏付けるように現場の役者たちには勿論、「スタッフに偉そうな役者はムカつく」という趣旨の発言とメイクさんなどのスタッフの名前も積極的に覚えてコミュニケーションを取って楽しい現場を心がけている様子が映し出されていた。更にディレクターの奥さんの初出産日と1話目の撮影日が重なった際には、妻・山田優と共に「出産以上のドラマはない」と撮影を休んで奥さんのもとへ向かうように説得。他者の私生活を大切にしている側面が伺えた。

 

その一方で小栗旬が仕事に対してヌルいタイプの人間ではないのも番組からは明らか。番組内ではディレクターに対して「ついて来んなよ」「ストーカーかよ」と笑いながらジョークを放つシーンが何回か放送されていたが、番組が終わりに差し掛かるタイミングで「ごめん、ちょっと気になる」と1ヶ月半に及び取材を中断。ここからの緊張感は凄かった。取材を中断してから1ヶ月半後、小栗旬はディレクターをご飯に誘い「俺がのらりくらりかわすから困ってるんでしょ?」と語り始め、「自分を削って視聴者に楽しんでもらう」という趣旨の熱い思いを語り始める。『プロフェッショナル』という番組は仕事人に取材を行い、その対象の人物の重要と思われるポイントを「トゥーン」という効果音と共に黒バックに白字でクレジットされる演出が取られている。しかし本番組では中盤、小栗旬本人が「いくら取材しても番組が成立しないと思う」「トゥーンみたいに出てくるヤツもないかも」と話し、その場にいた大泉洋も「この人全然いいこと言いません!」と将来的に困ってるかもしれないディレクターの妄想モノマネを披露して、番組もお馴染みの「トゥーン」の後に「小栗旬の流儀」「?」と普段はない演出を見せていた。そんな掴みどころのない小栗旬が自ら熱く語り始め、番組は「俺を、削る」と結論付け、主題歌がかかり番組は終わりに向かう。

 

 

番組自体は面白かったが、最後は小栗旬の方からディレクターに歩み寄ってくれた形だったことから「悪くはないけど、なんか強引に答えを見つけ出してまとめた感はあったな…」と思いながら番組の視聴を続けていると、番組の終わり方の定番である主題歌の最高潮の部分で問われる「プロフェッショナルとは?」の画面が急にモニター画面に変わる。そしてそのモニター画面を見ているのは小栗旬本人だった。小栗旬は「なるほどね」と笑いながら感想を述べる。本記事の冒頭「自分はこの手のドキュメンタリー系の番組は構えて見る」と書いた。その理由はあくまでも「ディレクター視点で編集されたものでしかない」から「それで全てを分かった気になってはいけない」と思っているからだ。

 

一方で本番組は番組の終わりに通常の流れとしては変化球的に、そこまで放送されていた「ディレクター視点で編集された番組」を見ている小栗旬の視点が入る。勿論、ここにも編集等はあるのだろうが、それまで流れていたものに比べればずっと生に近い映像だ。そこで小栗旬は完成した番組の大部分を視聴した上で自身のプロフェッショナルについて「ないよ」としつつ「ここまで連れて来てくれた人達への恩返しかな…」と語った。「ここまで連れてきてくれた人達」には応援してきてくれた人も含まれるという。

 

 

小栗旬は本番組について「ディレクターからのラブレター」と述べていた。本番組は小栗旬のドキュメンタリー番組としてではなく、「ドキュメンタリー番組とは何か?」というメタ視点が入っていた点でも面白かったと思う。勿論、これは小栗旬という取材対象の難しさから出た苦肉の策だったのかもしれないが…

 

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