鑑賞前と鑑賞後でウタの『新時代』への印象が大きく変わる尾田栄一郎総合プロデュース映画『ONE PIECE FILM RED』ネタバレ感想

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ネタバレ注意

予告編でAdoが歌う『新時代』が印象的だったので『ONE PIECE FILM RED』を観た。

 

  • ウタのあまりにも辛すぎる設定

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本作は『君の名は。』以降流行りの音楽に力を入れたミュージカル風映画。良い音響で大スクリーンの劇場で鑑賞すれば、それだけで一定の満足感を得られる作品だ。ただ本作は予告編のポップなイメージとは異なり、作品全体が投げかけているテーマはかなりディープ。本作のヒロインであり敵役の「シャンクスの娘」ことプリンセス・ウタは過去にシャンクスらとの関係性の破綻故に深い傷を負うも自身のアイデンティティである歌を「不特定多数に念波を発信する電伝虫」を使って世界中に配信して、多くの人から認められることで傷を癒したという設定。ここまでなら昨年夏公開の同じく音楽に力を入れた細田守監督のミュージカル風映画『竜とそばかすの姫』にも通じるものがある。ただ本作のウタの場合、その後自身のアイデンティティである大好きな歌によって大きな過ちを犯していたこと、そしてそれをシャンクスが悪役を引き受ける形で自身を庇ってくれていたことに気付き現実世界から逃げたい心境に達する。自分の好きなものにより救われるも、その好きなもの故に罪を犯していたというのはあまりにも救われない設定だ。しかも彼女はシャンクスを事実誤認故に恨んでいた時代の音楽配信によって海賊に傷つけられた人たちの救いになっていたことから、彼女はそのファンの期待に応えるべく「シャンクスに会いたい本心」を隠して「海賊嫌いの虚像」を演じなければならない状況にも陥っていた。

 

 

  • 現実世界からの逃避を求めたウタ

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そのためウタはみんなと自分を救うための作戦を考え、それを実行し始めるのが本作の冒頭となっている。本作の冒頭、ウタは「ネズキノコ」という眠れなくなった上で数時間後に死ぬキノコを食べる。つまり彼女は本作の開幕早々事実上「自殺」(この表現についての是非は後述する)を決行したことになる。そして映画の上映時間はそのまま彼女の残りの寿命が尽きるまでのカウントダウンという形で物語は進行する。ウタが「ネズキノコ」を食べたオープニングで歌う曲は予告編やCMでも繰り返し使われている『新時代』だ。この曲は歌い出しが「新時代はこの未来だ 世界中全部変えてしまえば〜」であることから、曲調も合わせてとてもポップで前向きな曲のように誤認してしまう。ただよくよく歌詞を確認してみれば「リアルゲーム ギリギリ」「夢の中にいさせて I wanna be free」「目をつぶりみんなで逃げよう」「綱渡りみたいな運命 認めない戻れない忘れたい」とかなり余裕のない精神状況と抑圧された現実世界からの逃避を求める曲のように聴こえる。そのため最早この曲がテレビや街中で流れてくる度に本編鑑賞前とは正反対の悲しい気持ちが押し寄せてくるようになってしまった。

 

 

  • 「逃げること」は悪なのか

本作の入場特典「四十億巻」では尾田栄一郎先生によるウタの壮絶な運命が綴られた設定資料が掲載されていてとても読み応えがある。ただ個人的に気になったのは、その資料内での前述した「自殺」という表現の是非についてだ。本作でのウタの死因は「ネズキノコ」を自らの意思で食べて尚且つシャンクスの渡した薬を飲むことを拒否したこと、つまりは自らの意思で死ぬことを選んだ事実上の「自殺」だ。ただ尾田先生の設定資料内では「ウタは辛くて死にたいじゃなくて逃げたい、救われたい」「ネズキノコを食べるのは自殺ではなく逃避」などという趣旨の説明により繰り返し「ウタは死にたい訳でも自殺をしたい訳でもなく現実から逃げたいだけ」と説明している。更にまとめでは「逃げることは悪なのか?」と問い「悪者は『トットムジカ』だけです」と回答することで「逃げること」を否定していない。本作においての「逃げること」は「死」にも関わらず…

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尾田先生は本作について「悲劇の時代に巻き込まれながら一生懸命自分の居場所を探し幸せになる方法を考え、人々を『夢の世界』へ導き救おうとした少女のお話」としている。『ONE PIECE』といえば「冨、名声、力、男たちが夢を追い続ける大海賊時代」、しかしその裏では現実世界から逃避したい程追い込まれている沢山の人たちがいる。本作はそこにスポットライトを当てた作品だ。長寿シリーズの劇場版の役割は本編とは違った角度の物語を見せることなのかもしれない。

 

 

  • 最後に…

幼馴染を失ったルフィはエンディング後に決め台詞の「海賊王におれはなる!」をいつものノリで叫ぶ。これは本作のトーンとは全く合っていないのだが、それ故の味わいがある。ウタが最後に歌った歌詞には「私が消え去っても歌は響き続ける」というフレーズがあった。これはルフィを筆頭とした劇中の登場人物だけでなく我々観客にも向けられているのだろう。

 

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