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【そのまま】「映画版ジャイアン」への変化球、古沢良太脚本『映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア)』ネタバレ感想

ジグソーパズル 映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア) 300ラージピース (300-L576)

『映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア)』を観た。

 

  • 近年はかつてのファンが脚本を担当する傾向

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『映画ドラえもん』シリーズは毎年春休みに公開される子ども向けの作品。ただ近年は映画プロデューサーの川村元気さんや直木賞作家の辻村美月さんに脚本を任せるなど子供だけでなく大人も楽しめるような作品作りをしている。とうの昔に『ドラえもん』から卒業したはずの大人たちが彼ら彼女らの作品に注目してしまう背景には、彼ら彼女らがトップクリエーターであると同時に、これまでの「子供たちのために仕事として『ドラえもん』を作ってくれる大人たち」とは違って、かつての彼ら彼女らも多くの観客同様に子供時代『映画ドラえもん』を楽しんでいたファンだから、なのではないかと思う。それ故に彼ら彼女らが放つネタは「コレだよ!コレ!」となる人もいれば、「コイツ、分かってない」と拒否反応を起こす人もいる。でも映画はそうやって感想を言い合うのが楽しい側面もある。ただそれを「完全子供向けの作品」で大人がやるのは流石にダサい。しかし同じ作品を愛したかつてのファンやトップクリエーターが手がけた作品となれば、純粋に一本の映画として楽しみやすくなっている気がする。まー、自分で書いてて結構強引だな、とは思っているが、かつてのファンが作ってるからこそのツボとか空気感みたいのはあるとは思う。そんな『映画ドラえもん』シリーズの最新作の脚本家は『リーガルハイ』『コンフィデンスマンJP』『レジェンド&バタフライ』『どうする家康』などの古沢良太さんが担当している。

 

以下ネタバレ

 

 

  • 古沢良太による『ドラえもん』解釈

youtu.be

本作のストーリーは「勉強も運動も出来ないのび太が『誰もが幸せに暮らせるユートピアに生まれたかった!』的なことを言い始めて、いつものメンバーでユートピアに行って大冒険!」みたいな話。例年通り出来杉くんは冒険のキッカケはくれるが、冒険には参加しない。でも昨年に引き続き「いや、別にワザとハブってる訳ではないですよ」的な展開にはなっている。『映画ドラえもん』といえば「のび太がゲストキャラと出会って友情を深め、いつメンとの絆を再確認して、最後はお別れしてちょっとだけ大人になる一夏のSFジュブナイル」みたいな展開の作品が大半な印象を受けるが、本作はそういう意味ではちょっと変化球。まず「映画版ジャイアン」とネタになる程、映画のジャイアンは友達想いの良い奴になる傾向があるが、本作では悪役の力で心を失くして気持ち悪いレベルで「良い奴」になる。これは映画ではなけなしの勇気を見せる傾向にあるスネ夫も同様。しかしここでいう「良い奴」とは「個性のない均一な人間」のことを意味する。そのため本作はこれまでの『映画ドラえもん』のように「出会いと別れ」による成長ではなく、「僕らの『らしさ』が世界を救う」というキャッチコピーのように自らの欠点とされる部分を個性として「ありのまま」に受け入れることで、人間として一歩成長する。そのため『リーガルハイ』で「win-win」に対して「醜さ(みにくさ)を愛せ」と主人公に説かせた古沢良太脚本らしい『ドラえもん』解釈の作品になっていたのではないか、と思う。ただその割にはそこまでのび太たちの個性が闘いに活きてる感がなかったのは残念。のび太の射撃テクニックは物語の重要なキーになると思っていたのにな…

 

※そもそも論として「のび太にとってのユートピアは毎日昼寝してても怒られない世界」とかだと思ってたので、そういう意味ではベースとなる設定からややズレも感じた

 

 

  • 「そのまま」に対するオチ

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また「そのままでいいんだよ」的なメッセージは多くの子供にとっての救いになる一方で、危うさもある。というか今回の映画ではのび太のハンバーグプレートからサイドのポテトを奪う程度の悪事に留まっていたが、あの暴力性及び「お前の物は俺の物、俺の物は俺の物」精神は確実に治した方がいい。またのび太も勉強の出来る出来ないはともかく、あのまま大人になっていいのか問題は孕む。そのため「ややモヤモヤも残るな…」とも思ったが、最後の最後で冒頭の0点のテストが母親の目に触れたことで怒られてしまい、のび太が「僕のそのままを受け入れて〜」と泣き言を言うギャグで落としたのは「そうは言っても、大人の世界はそんな綺麗事ばかりじゃないんだぜ」という感じで中々良かったのではないか、と思った。のび太に対して「そのままでいいんだよ」的なメッセージは近年だと山崎貴監督の『STAND BY ME ドラえもん2』でも放っており、本作鑑賞中は「『ドラ泣き2』の二の舞になるのか〜」とヒヤヒヤしたが、同じメッセージでも流石にその辺は古沢良太さんの方が落とし方が数段に上手かったし、誠実だった。周りがダメなところを受け入れていくのではなく、本人がダメなところを含めて自身を受け入れ、悪役も含めて他者を理解していくという形の「成長」にシッカリと落とし込めているのが最大の違いかもしれない。

 

 

  • 最後に…

一応声優交代以降の『映画ドラえもん』は全部観ているけど、個人的に本作は上位レベルで好き。前半の『天空のラピュタ』+『ドラクエ』風の進め方も面白かった。

 

【追記】ソーニャの顛末に対して「ドラえもんで同じことやったら炎上確実では?」みたいな指摘を見て「確かにな…」と思った。

 

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