『室井慎次 敗れざる者』が週末3日間のオープニング興行収入で3.61億円、月曜祝日を含んだオープニング4日間で4.89億円で週末動員ランキング初登場1位のヒットスタートとなった。最終興行収入は15〜20億円程度が見込まれる。
- 日本映画界を変えた『踊る大捜査線』
「踊る大捜査線」が日本の映画興行に起こした革命
— ゴミ雑草 (@mjwr9620) 2024年10月6日
→1996年には「Shall we ダンス?」が実写の邦画としては類い稀なヒットとなり、配収16億円を記録した。同じ年の邦画トップは「ゴジラVSデストロイア」の配収20億円。「踊る」の50億円がどれだけすごかったかがわかるだろう https://t.co/lUpGHzhNNO
『踊る大捜査線』の劇場版シリーズの1作目はライト層の観に行く実写邦画が殆どなく、洋画に人気を取られていた時代に興行収入101.0億円の大ヒットを記録して、それ以降ライト層を集客する実写邦画が次々と作られて現在の「邦高洋低」に繋がる流れを作った「エポックメイキング」的な作品。一部では「『踊る大捜査線』のヒット以降、テレビ局制作の映画が次々と公開されるようになって、日本映画をダメにしてしまった」との批判もあるが、『そして父になる』や『万引き家族』の是枝裕之監督作品が世界的評価と日本での興行的ヒットが両立しているのは『踊る大捜査線』を筆頭とした映画ビジネスに成功したフジテレビがバックに付いている部分は大きい(※1)と思うし、今年アカデミー賞の視覚効果賞を受賞した『ゴジラ−1.0』の山崎貴監督もデビュー作『ジュブナイル』が新人監督として破格の製作費を集められたのも『踊る大捜査線』のヒットのおかげで監督も「『踊る』には足を向けて寝られない」(※2)みたいなことを言ったりしているので、興行的な意味だけでなく日本映画界にポジティブな影響を与えていることは間違いない。
そんな日本映画界において良くも悪くも革命的存在である『踊る大捜査線』の劇場版シリーズの2作目『THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』は興行収入173.5億円と公開から20年以上経った現在でも実写邦画歴代No. 1を維持するメガヒットを記録。一方で3作目『THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!』は興行収入73.1億円と前作から100億円以上興行収入を落とし、完結編である4作目『THE FINAL 新たなる希望』は興行収入59.7億円とシリーズ歴代ワーストで幕を閉じた。
※1 『踊る大捜査線』シリーズの亀山千広プロデューサー「フジテレビの映画事業にとって、今年はこの10年の集大成になりました。あくまで利益を上げることが命題ですが、人や意欲作に先行投資することもできた。その結果、『そして父になる』のような作品が生まれました。」/出典:https://www.sankei.com/entertainments/news/130819/ent1308190004-n1.html
※2 山崎貴監督「うれしい誤算だったのは、直前に『踊る大捜査線 THE MOVIE』がヒットして、映画界全体が盛り上がったこと。同じようにロボットが登場する映画で新人監督の作品が出るよということで、予想以上にお金が集まっちゃった」/出典:「踊る」に足を向けて寝られない「海賊」の監督 | NIKKEIリスキリング
- 『踊る』シリーズの根強い人気
劇場版は9月28日に放送された1998年公開の劇場版第1作『踊る大捜査線 THE MOVIE』が視聴率9.7%を記録。興行収入173.5億で、現在でも実写邦画では歴代1位の座に輝いている『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(’03年公開)も10月5日に放送され、9.8%を記録した
そんな右肩下がりで終幕を迎えた『踊る』シリーズだったが、12年ぶりにXの公式アカウントがカウントダウンを始めた際にはネットは大盛り上がり。一方で「ついに『踊る』復活か!」と期待を煽った反面、発表されたのは『室井慎次』のスピンオフ最新作でガッカリムードになったのも事実。『室井慎次』の前作『容疑者 室井慎次』は実写邦画歴代最高の2作目公開の2年後、つまり『踊る』全盛期の時代に公開されて興行収入38.3億円だったことを踏まえると、「完結から12年経って、今更室井さんだけ単独で戻ってきても、そこまで食いつき良くないのでは…」感は否めなかった。ただ『室井慎次』最新作公開に伴うフジテレビによる過去作放送のSNSでの盛り上がり方や実写映画版『キングダム』シリーズの地上波初放送でも世帯視聴率二桁が取れない時代に20年以上も前の過去に何度も放送された劇場版が世帯視聴率二桁に肉薄する数字をマークするなど、『踊る』シリーズの根強い人気は肌感覚として実感出来た。
- 12年ぶりの新作もヒットスタート
概算数字です。『室井慎次 敗れざる者』は金~日の動員25万1000人&興収3億6100万円。10/14含む4日間で動員34万5000人&興収4億8900万円となっています。
— 元編集長の映画便り (@moviewalker_bce) 2024年10月15日
概算数字です。『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は金~日の動員21万3000人&興収3億5400万円。10/14含む4日間で動員27万9000人&興収4億5600万円となっています。
— 元編集長の映画便り (@moviewalker_bce) 2024年10月15日
そしていざ公開されてみるとラージフォーマットによってチケットアベレージの高い同日公開の『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』に動員数だけでなく興行収入でも上回るヒットスタート。勿論、過去作程の盛り上がりはないが、「待ってる人はちゃんと待ってたんだな」と思える数字だし、レビューサイトもシリーズのファンと思われるユーザーによる「『踊る』の時間が再び動き出した!」「思い出が蘇って泣ける」などの好意的な評価が並んでいたので、後編の興行収入もそんな心配することもないのだろう。一方でレビューサイトの好意的な評価の中でも「この内容だと『踊る』ファン以外の求心力が不満」との投稿も少なくない。実際、本作は文字通り二部作の前編で事件の真相などは後編に丸投げ。CMでやってる「犯人から電話が!?」みたいなシーンも後編で、前編での事件パートは死体の発見と捜査のさわり程度。大半のシーンは青島との約束を叶えられずに警察を去った室井さんの被害者・加害者家族との田舎暮らしの様子がスローライフならぬスローペースで描かれるため、「これ、『踊る』の熱心なファン以外は楽しめてるのか?」感はあった。
- 最後に…
とは言っても、上述した通りシリーズファンからの評価は高く、前編では後編への期待を高める要素もあったので、「前編はそれなりにヒットしたけど、後編は大コケ」みたいなことにはならないだろう。今回のヒットが『踊る』シリーズ本編のヒットに結びつくことを祈る。
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