『【推しの子】』最終回がメチャクチャ炎上していた。
- 世界は理不尽で不条理、それでも…
最終回のコメント欄なんかを読むと「なんでバッドエンド?」「ハッピーエンドが良かった」「打ち切りみたいなエンディング」と評価は散々。ただ個人的には本作が「バッドエンド」というのはちょっと違うのではないか、とも思っている。本作を通して読んでいると、おそらく原作者の赤坂アカ先生は「この世界は嘘ばかり、そして理不尽かつ不条理に悪いことばかりが襲いかかってくる生きているのが辛い夢も希望もない場所。それでも自分たちは嘘を武器にして、その先に『生きた理由』があると信じて走り続けるしかないし、そんな嘘を重ねて辿り着いた姿を見せることによって、本当に救われる人がいる。そしてそこには『本物の愛』がある」みたいなメッセージを伝えたいのだと思う。だから本作は「バッドエンド」ではなく「理不尽で不条理なバッドが襲いかかってきてしまった人たちがエンドする(現にあかねはルビーが二度と表舞台に立つとは思っていなかった)のではなく、その先を強く生きる姿」を描いたつもりなのだろう。
- 嘘を重ねた姿、暗闇に生きる人たちの光へ
だから重曹ちゃんこと有馬かなの「アクアの『推しの子』になる夢」が叶わないのも、ルビーが最愛の兄にして恩人のせんせーであるアクアを再び失ってしまうのも、あかねがアクアの復讐を共に背負うことが出来ないのも、作者的には「この世界は理不尽で不条理だから」ということで、「そうした状況にあっても彼女たちは強く生き続ける」ことの方に重点を置いていたのだろう。アクアがあかねに言ったように「全部まとめてハッピーエンド」にすることは作者が本作に込めたいメッセージ的には出来なかった、と見ることが出来る。そのため本作のテーマを踏まえれば、病気で母親から事実上見捨てられ、病院で死を待つしかなかったさりなちゃんが、嘘を重ねたアイドル・アイを推すことによって、この理不尽で不条理な世界で一時的にでも本物の夢と希望を持てたように、ルビーもまた自身の悲しみに嘘を重ねた虚像を見せることによって、暗闇に生きる誰かの光になって「本物の愛」を伝えていく、という着地点は『【推しの子】』のラストに相応しいモノだったのではないか、と感じている。
- ルビーとアイの違い、せんせーへの想い
他にも「これじゃあルビーは結局アイと同じ路線を辿ってるだけじゃん」みたいな批判も目にしたけど、ルビーは映画『15年の嘘』でのアイ役の演技を通して「アイは完全無欠なアイドルではなくどこにでもいる少女だった」という見解を導き出し、その上で「私とママは違う」「私はママみたいにならない」と自分への嫉妬からなる嫌悪感を(演技のために意図的に)ぶつけられたことで奸悪なムードになっていた重曹ちゃんとの「友情」を繋ぎ止める選択をするなどアイが失敗した友達との人間関係とアイドルを両立させることに成功している。また「ルビーがアクアの死から再び立ち上がる姿をもっと丁寧に描いて欲しかった」との要望も気持ちは理解出来るが、個人的にはルビーがせんせーの「全肯定オタク」かつ「ガチ恋オタク」の理由を「勝手に全部抱え込んで 弱いくせに強がって いつもちゃんと傷ついて しっかり苦しんで でも それでも前に進もうとする貴方の全てが 大好き」と語っていたので、もうそれが「答え」なんだと勝手に解釈している。さりなちゃんが暗闇の中で光を見た推しは当然アイだけではなくせんせーも該当しているのだ。他にもネットではアイのルビー宛のDVDが「何だったの?」の疑問も浮上していたが、それは単行本の最終巻のオマケで回収されることを願うしかない。
- 最後に…
最後に本作には「作者の次回作が決まったから、ぶん投げたのだろう」との批判もある。実際、「アイは芸能界の闇によって壊れかけていたカミキヒカルを本当に愛していた」「ただカミキヒカルが全ての元凶だと辻褄が合わず、事件の背景にはアイの失望を誰よりも願い、誰よりも憧れた信者、元『B小町』のニノがいた」からの「実はカミキヒカルはニノ含めて殺人教唆を繰り返す怪物で実の娘のルビーも殺そうとした」「だからアクアは自己犠牲で被害者を装う嘘でルビーを守った」というクライマックスの流れは微妙な飲み込みにくさと盛り上がりに欠ける面があった。また作者が過去に「今すぐにでもやめたい」「『ちゃんと終わらせなきゃ』という義務感だけで描いてる」「もうちょっとだけ稼いでやめたい」「3年後辺りは多分僕この業界いないのでw」と発言していたことなどから「こういうこと言う作者だから形だけ一応終わらせた感を出そうとして、こんな風な終わり方になったんでしょ」的な冷めた批判も少なくない。ただ個人的には「この物語はフィクションである」というフレーズで始まった本作で描かれた「恋愛リアリティショーとSNS」「漫画の実写化」「アイドルへのストーカー」などは現実にも起きている問題であり、その理不尽で不条理な現実をフィクションの中でリアリティを持って描くことで、劇中で辛い目にあったキャラたちがこの世界に絶望している人たちに希望を与えているように、作者も何だかんだで「この漫画を読んでこの世界に僅かでも嘘の中にある本物の光を感じて欲しい」くらいの想いを込めて描いていたのではないか、と信じたい。
- オマケ
「ツクヨミの伏線の回収は?」との指摘も多かったが、劇中で「死んだ魂を赤ちゃんに転生できる神」的なことを自分で言ってたし、さりなちゃんを転生させたのは「網に絡まって身動きが取れなくなったカラス姿の自分を救ってくれたから」との回想があったので、ちゃんと説明されてる。もしそれ以上の何かを求めてるならそれは知らん。
- オマケ2
重曹ちゃんがアクアの死体にビンタしてたのもクソ炎上してたけど、良いか悪いかは別にあれくらい取り乱すのは分かるし、必要以上に責める気にもならない。
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