
2024年度(対象は昨年12月〜今年11月公開の映画)の映画興行収入ランキングトップ10と各作品への雑感。
- コナンが初の年間トップ、実写洋画は0本
1位『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』157億円程度
2位『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』116億円程度
3位『キングダム 大将軍の帰還』80億円程度
4位『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』63億円程度
5位『ラストマイル』59〜60億円程度
6位『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』53〜54億円程度
7位『インサイド・ヘッド2』53〜54億円程度
8位『変な家』50〜52億円程度
9位『怪盗グルーのミニオン超変身』45〜46億円程度
10位『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』45億円程度
(※数字は現在の興行収入からの推定値、9位と10位は入れ替わる可能性アリ)
今年度の年間トップは公式目標の「1億ドル(円安なので150億円超え)」を達成して最終157億円程度見込みの『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』で、年間トップは意外にも初。近年のコナン映画は常に年間トップレベルのヒットをしている反面、昨年度は『THE FIRST SLAM DUNK』『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』、一昨年度は『ONE PIECE FILM RED』『すずめの戸締まり』『トップガン マーヴェリック』『劇場版 呪術廻戦0』と「社会現象級」のメガヒット作品の後塵に拝してきた。その意味でコナン映画が年間トップに君臨したのは大変喜ばしい話である。一方で今年度のトップ10は国産アニメが4本、実写邦画が4本、海外アニメが2本と一見バランス良くランクインしているように見えるが、実写洋画は0本。今年度はトム・クルーズ主演『ミッション:インポッシブル』や『ジュラシック・ワールド』、ディズニーアニメの実写映画化など日本で人気のある作品の公開がなかったのが痛かった。
- ジャンプ系漫画アニメ、依然強い傾向
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2020年代は『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の記録的な大ヒットに象徴されるように「ジャンプ系アニメの映画版」が圧倒的な強さを誇る傾向にあるが、今年度も第2位に『週刊少年ジャンプ』で連載されていた大ヒットバレー漫画のアニメ版『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』が興行収入116億円程度、第4位に『少年ジャンプ+』で連載中のアクションホームコメディ漫画のアニメ版『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』が興行収入63億円程度で2作品ランクイン。ただ事前の興行収入100億円突破の期待値は『SPY×FAMILY』の方が高かったのもあって、一部のネット上や関係者の間では興行収入60億円超えで年間4位の大ヒットにも関わらず「期待外れ」扱いも受けてしまったりもした。この背景について「近年メガヒットを記録した『原作のエピソードの一つをそのままアニメ映画化』するのではなく、良くも悪くも一昔前の本編に差し障りのないオリジナルアニメ路線だったのが関係してるのでは?」との指摘もされていたが、その意味では事前の期待値を上回り興行収入100億円を突破した『ハイキュー!!』の方は「原作のエピソードの一つをアニメ映画化」した近年のメガヒット傾向に当てはまるタイプの作品。『SPY×FAMILY』が思いの外当たらなかったのは近年のメガヒット作品と違ってメインターゲットが「ファミリー」だったことも大きいと思うが、やはり「原作のエピソードの一つを高クオリティでアニメ化して貰って、多くのファンと大画面で喜びを共有したい」みたいな欲求に応える作品が強く支持される傾向にあるのかもしれない。
- 「次は下がる」、事前の予測覆し続けるコナン
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この視点においては原作者協力のもとオリジナルストーリーでメガヒットを記録する『ONE PIECE FILM』や『劇場版名探偵コナン』の凄さを改めて実感させられる。特に『劇場版名探偵コナン』の方は毎年同じ時期に一定のクオリティの作品を公開し続けて、観客の満足度を得て興行収入を特典商法に頼ることもなく伸ばし続けているので、その凄さがより際立つ。コナン映画は昨年度の『黒鉄の魚影』が最終138.8億円とシリーズ初の興行収入100億円を突破して歴代最高を記録しており、公開前は「キッドと平次の組み合わせは黒の組織と灰原哀の組み合わせに比べるとネームダウン感は否めないので、本作は前作から下がるのでは…」との見方が強い印象だったが覆した。
⋱\ 青山先生からイラスト到着✏️︎ /⋰
— 劇場版名探偵コナン【公式】 (@conan_movie) 2024年6月24日
『#100万ドルの五稜星 』
興行収入150億円突破の特大ヒットを記念し
原作者 #青山剛昌 先生から
お祝いのイラストが到着…‼︎
27作目にして新記録を打ち立てたお祝いと
映画館に足を運んでくださった
すべてのお客様への感謝が詰まった… pic.twitter.com/CyZvNKsZ6M
コナン映画は過去にも前作から大きく伸ばす形で歴代最高を更新した際には「沖矢昴の正体を原作より先行して明かした前作より今回は下がるだろう(『異次元の狙撃手』→『豪火の向日葵』)」「20周年記念の黒の組織映画の次が下がるのは仕方ないだろう(『純黒の悪夢』→『から紅の恋歌』)」「安室透人気でこれまでとは違う伸び方をしたが、次は安室さんが出ないので再現性はないだろう(『ゼロの執行人』→『紺青の拳』)」と「今回のヒットの理由が明確だからこそ、次が下がるのはやむなし」という空気の中でキッドもしくは平次がゲストの次回作で歴代最高を記録していく流れを繰り返してきた。来年度公開の『隻眼の残像』は「長野県警と毛利小五郎」と「キッドと平次」に比べると「渋く」、興行的には不利にも感じるが、次もまた事前の予想を覆す新記録更新に期待したい。
- 『キングダム』、漫画実写の正当進化で過去最高

今年度のTOP10にランクインした実写邦画のキーワードは「漫画実写の正当進化」「テレビドラマの劇場版の新たな可能性」「SNSと若者」の3ポイント。まず実写邦画年間トップで年間3位にランクインしたのは累計発行部数1億部超えの原泰久の同名人気漫画を山﨑賢人主演、佐藤信介監督で実写映画化した大ヒットシリーズ第4弾『キングダム 大将軍の帰還』で興行収入は80億円程度。オープニング4日間の興行収入は22.03億円と昨年同時期公開の宮﨑駿監督『君たちはどう生きるか』の21.49億円を超えるメガヒットで、実写邦画歴代No. 1ヒットスタートを記録。当初、東宝サイドが景気付けの意味も込めて発表したであろう「興行収入100億円」には及ばなかったが、興行収入80億円を超えた。
/#キングダム シリーズ最高興収
— 映画『キングダム 大将軍の帰還』公式アカウント (@kingdomthemovie) 2024年11月15日
8️⃣0️⃣億突破確実🔥
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11月14日(木)までの公開126日間で、
観客動員数:543万人
興行収入:79.9億円
突破⚔️
そんななか、#山﨑賢人 さん #大沢たかお さんが昨日4ヶ月ぶりに映画館へ帰還。
大人気シリーズ4作を牽引してきた2人が労いの言葉を贈り合いました。… pic.twitter.com/j1iDAPbrA6
『キングダム』シリーズは1作目が57.3億円、2作目が51.6億円、3作目が56.0億円と50億円台で推移していたので、4作目で一気に伸びた形。原作の消化率や関係者の発言を総合すると、今後もシリーズは続きそうだが、宣伝では「最終章」と銘打っていることから、これまでの実績も合わせて「最後なら大きなスクリーンで観たい」と多くの観客に思わせることに成功したからこその伸び率なのだろう。『キングダム』シリーズは4作連続興行収入50億円超えを記録して、2000年以降の実写邦画のシリーズとして初の快挙も達成。
またこれまで漫画の実写映画化で興行収入80億円を超えたのは『ROOKIES-卒業-』『THE LAST MESSAGE 海猿』と漫画の実写映画化というよりはテレビドラマの劇場版の印象の方が強い作品で、その手の作品を除くと漫画の実写映画化の興行収入は成功作でも『るろうに剣心 京都大火編』の最終52.2億円や『デスノート the Last name』の最終52.0億円、『キングダム』シリーズの3作目まで含めても50億円台だった。今回これまでの漫画の実写映画化のノウハウを注ぎ込み正当進化させた『キングダム』シリーズの最新作の興行収入が大きく飛躍したことは、ネットでは未だ叩かれ傾向にある漫画の実写映画化が着実に進歩し、世間に受け入れられてきた証だろう。
- テレビドラマの劇場版に「新たな可能性」

今年度の実写邦画第2位で年間5位にランクインしたのが、TBSテレビの人気ドラマ『アンナチュラル』『MIU404』 と世界観を共有するシェアード・ユニバース作品『ラストマイル』で最終興行60億円に迫るヒット。本作はテレビドラマの劇場版ではなく、テレビドラマの世界観を共有しているオリジナル作品だが、昨年の『ミステリと言う勿れ』(最終48.0億円)、『劇場版TOKYO MER 〜走る緊急救命室〜』(最終45.3億円)に続いてテレビドラマベースの作品は依然強い傾向。とは言っても、「『犬神家の一族』風の骨肉の争いミステリー」「横浜のランドマークタワーを舞台にした医療レスキュー」「巨大流通センターを舞台にした無差別爆弾テロ」とそれぞれ「一本の映画としてのパッケージ」がシッカリとあるのも特徴。その中でも今回はオリジナル作品かつ野木亜紀子脚本による社会派エンタメとしての作品評価が高いので、テレビドラマのファンの枠を超えて、これまで『逃げ恥』含めて野木亜紀子脚本作品に触れてこなかった映画ファンにも届くヒットとなった。この手のオリジナルの商業大作で女性プロデューサー(新井順子)、女性監督(塚原あゆ子)、女性脚本家(野木亜紀子)、女性主演(満島ひかり)も「画期的」と評価されており、実写邦画の女性監督史上最大のヒット作品にもなった。今年度は日本映画界に革命を起こしたテレビドラマの劇場版『踊る大捜査線』シリーズ12年ぶりの新作スピンオフ『室井慎次 敗れざる者/生き続ける者』が公開され、現代的な社会問題を組み込んだ日本の組織を舞台にした平成と令和のお仕事映画として『ラストマイル』と対比する指摘が多かったが、『ラストマイル』はスピンオフとも微妙に異なるシェアード・ユニバースというテレビドラマの劇場版の新たな可能性を開いた。
- SNSで若者にヒット、『変な家』と『あの花』


今年度の実写邦画3位で年間8位に興行収入50〜52億円程度見込みの『変な家』、実写邦画4位で年間10位に興行収入45億円程度見込みの『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』がランクイン。両作品の共通項はSNSで話題を呼び、若者層から支持を集めた点。そもそも『変な家』はウェブライターの雨穴氏によって大バズりしたウェブメディア記事、YouTube動画、その動画と連動した不動産ミステリー小説を原作とした作品、『あの花〜』もコロナ禍のTikTokでバズった汐見夏衛氏が小説投稿サイトに投稿した作品の文庫版を原作としており、共にネット発祥で若者間でのSNSの拡散によって売上を伸ばした作品。
@hennaie_movie キャー!? #映画 『#変な家 』劇場にて公開中! #間宮祥太朗 #佐藤二朗 #川栄李奈 ♬ オリジナル楽曲 - 映画『変な家』公式
@ano_hana_movie ここ鶴屋食堂で、おいしいご飯を食べて、みんなで笑いあう日常。皆、「今」を生きていた。 でも―… #あの花が咲く丘で君とまた出会えたら 12/8公開🎬 #映画 #おすすめ #小説 #水上恒司 #福山雅治 ♬ オリジナル楽曲 - 『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』公式
映画版の方も公式サイドがTikTokやYouTubeのショート動画で予告編やCMだけでなく、本編映像や俳優陣によるプロモーション動画などを流すだけに留まらず、作品のファンも切り抜き動画やレビュー動画などをアップして、それが広く拡散されて多くの人に再生されることによって、単純接触を高めて大ヒットに繋げた。これは都知事選の「石丸現象」や衆院選の国民民主党の躍進などにも通じる所だろう。同じSNSでも『あの花〜』の方は「女子高生が戦時中にタイムスリップして特攻隊員に初めての恋をする物語」をバカにする方向の投稿がバズる傾向にあったが、TikTokでは「泣けました」などの感動コメントが溢れているだけでなく、「これ初めてのデートで観に行っても大丈夫なヤツですか?」などの初々しいコメントも複数投稿されており、同じSNSでも見える世界が全く違ったりもした。正直、汐見氏の「若い世代に戦争のことを知って欲しい」という想いに触れるとXでの冷笑的な投稿に対して腹立たしい気持ちにもなるが、TikTokで福山雅治の主題歌と共に特攻隊員の遺書などがエモく消費されているのを見ると、それはそれで何とも言えない気持ちにもなった。
今「雨穴」という名前に関係して巻き起こってることに、私は興味もないし関係もないので心穏やかなものです。
— 雨穴 (@uketsuHAKONIWA) 2024年3月19日
『あの花〜』は原作ファンからも概ね好評なのに対して、『変な家』の方は原作の奇妙なミステリーテイストが安直なホラーテイストで演出されていることに対して否定的な意見も目立った。また雨穴氏もXに主語は記されていないものの「私は興味もないし関係もないので心穏やか」などと投稿しており、何かを「察してくれ」という感じ。Xでは雨穴氏が本作を「クソ映画」とする感想投稿を一度リポストして取り消したというスクショが拡散されていたことなどから「映画の出来に不満があるのではないか」などと推測する声も多い。映画のタイトルもソフト発売のタイミングで『映画版 変な家』と「映画版」であることを強調するタイトルに変更された。
映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』感想&考察|汐見夏衛 #note https://t.co/xE9pAnAbVc
— 汐見夏衛 (@NatsueShiomi) 2024年2月8日
一方で『あの花〜』の汐見氏はnoteで映画版の設定変更について「より良いものにしてくださった」「原作に逆輸入したい」と大絶賛。今年度は『セクシー田中さん』事件もあって、原作の改変問題が高い注目度を集める年だったが、『キングダム』含めて全部が全部悪い訳ではない。一方で事件を機に過去の成功作と思われていた実写映画化に関しても原作者が不快な思いをしていたことなどを表明することが続くなど問題の深刻さも感じざるを得ない。
『あの花〜』は若者を中心に動員を集めたが、戦争を題材にしている映画だけあって年配層も集客していたという。現に自民党の高市早苗議員は総裁選の出馬表明会見や安倍元首相の銃撃現場の演説で『あの花〜』を念頭に「私達が生きている今、それは誰かが命がけで守ろうとした未来です」と訴えた。汐見氏はnoteで福山雅治の主題歌によって「(特攻に)安易な称賛や無謀な憧れを抱く人はいない」とも記していた。他にも年配層にも支持を集めた要因にはメインキャストが2人とも朝ドラ俳優で馴染みがあったのも安心材料になったのかもしれない。
- ピクサー完全復活、ミニオンはオリンピックへ


海外アニメはコロナ禍初期に映画館を切り捨て自社のサブスク『ディズニープラス』で独占配信にする方向に走り、コロナ禍が落ち着き始めて劇場公開を再開しても配信鑑賞に慣れきった観客の間では「映画館に観に行かなくても、どうせすぐに配信される」との風潮から客足が鈍っていたディズニー・ピクサー最新作『インサイド・ヘッド2』が前作の40.4億円を超えて興行収入53〜54億円程度で年間7位、コロナ禍も劇場公開に拘りヒットし続けていたイルミネーションアニメ最新作『怪盗グルーのミニオン超変身』が興行収入45〜46億円程度で年間9位にランクイン。ディズニー・ピクサーとイルミネーションが共にランクインすることで、コロナ禍がまた一つ歴史の1ページに近いたように感じさせる。
We’re filled with Joy! Thanks to every fan around the world for making Inside Out 2 the biggest animated movie of all time. 💛🧡 pic.twitter.com/HQYtxtHnYG
— Pixar (@Pixar) 2024年7月24日
コロナ禍以降興行不振が続いていたディズニー・ピクサーは昨年度公開の『マイ・エレメント』のオープニングはまさかのピクサー史上実質ワーストのスタートとなり、一部では「ピクサーの時代は終わった」との指摘もあったが、その後口コミを伸ばして黒字化に成功。「ピクサーの底力」を見せた前作に続いて、本作では「『アナの雪の女王2』を超えてアニメーション映画史上歴代No. 1ヒット」「『トップガン マーヴェリック』を超えて実写も含めた世界興行収入ランキング歴代トップ10入り」など記録的なヒットを更新。「ピクサーブランドの完全復活」を成し遂げだ。前作の監督兼本作の製作総指揮であり、自身の監督作『ソウルフル・ワールド』が配信スルーとなってしまっていたピート・ドクター監督は『アトロク』のインタビューで「私たちは映画館で観て欲しいと思って作品を作っている」と述べ、『鈴木敏夫のジブリ汗まみれ』でも宮﨑駿監督に「今の時代は配信含めてスマホなどで作品を観られたりするが、それは私たちにとって健康的なことなのだろうか」という趣旨の悩みを吐露するなど、劇場スルーの配信オンリーに対しては相当懐疑的な様子。その意味では今回のメガヒットは「やっぱり映画は映画館で観なくちゃ」と改めて認識させるとても意義深い記録だったのかもしれない。
#開会式 の中で、ルーヴル美術館から何者かによって持ち去られていたモナ・リザ🧐
— オリンピック (@gorin) 2024年7月26日
犯人はなんと...ミニオン⁉️#パリ2024 #オリンピック @Paris2024 pic.twitter.com/o7TUbMwPrB
『怪盗グルー』シリーズはスピンオフの『ミニオンズ』シリーズ含めて、この14年間定期的に新作が公開されており、興行収入も12億円→25億円→52.1億円→73.1億円→44.42億円と2010年代で着実に人気を高めていき、2020年代は安定期に入っている。世界的にも今年はパリオリンピックの開会式にモナリザを盗んだ犯人として登場したことでも注目を集めた。
