関西・大阪万博と絡めた『20世紀少年』のネタバレ感想。
- 『20世紀少年』の万博の役割
『20世紀少年』は1999年から2007年にかけて連載されていた浦沢直樹の人気漫画で、2008年から2009年にかけて堤幸彦監督によって3部作構成の実写映画化がされた作品。少年時代に「ロックで何かが変わる」と信じていたケンジが平凡な大人になるも、自身が子供の頃に友達と書いた「よげんの書」通りに世界各地に異変を起こす新興宗教の教祖「ともだち」の存在に気づき、「人類滅亡」を止めるためにかつての友達と共に奮闘する物語。『20世紀少年』において1970年開催の大阪万博はケンジたちが子供の頃の憧れであり、独裁政権となった「ともだち」率いる友民党は2015年に東京で大阪万博を再現した万博を開催する。劇中の東京万博では暗殺された「ともだち」が生き返ることで「神」になる「国葬イベント」の役割を果たし、ラストでは「人類滅亡を防いだ救世主・ケンジ」を讃える会場と化す。
- ケンジの子供の頃の夢の実現と罪
登場キャラクターの中で、ボクがいちばん好きなのが”ともだち”です/”ともだち”がどうしてお面を被って、社会に対して復讐を企てるのか、その気持ちがすごく分かるんです/ボク自身、宗教じゃありませんけれど、若い頃に特定の思想性にハマった時期がありました。”ともだち”は社会の歪みから生まれてきたということが、情念としてすごく理解できる
少年時代に「ロックで何かが変わる」と信じていたケンジにとって自身の歌が人々の救いになるのは「子供の頃の夢の実現」ではあるが、人類滅亡を企んだ「ともだち」を生み出した原因は子供時代のケンジの罪にあるので、人々から感謝されても素直に喜ぶことは出来ない。『トリック』シリーズの演出もしていた堤幸彦監督は自身が若い頃に特定の思想にハマった経験とオウム事件を念頭に人類滅亡計画を作った「ともだち」に理解を示す。
- 「20世紀少年」とは…
大阪万博は「日本が良かった時代の最後の象徴」との印象が強いが、自らを「20世紀少年」と称する「ともだち」は人類滅亡計画を「僕がやらなくてもきっと誰かがやった」「僕は彼らの代表選手なんだ」と述べて「20世紀」を「最高で最低の時代」と評する。「日本が良かったとされる時代」は社会不安から人類滅亡を予言する「オカルトブーム」も同時に起こっており、その「社会の歪み」は後にハレーションを起こした。『20世紀少年』は「万博ノスタルジー」から「20世紀の光」だけでなく「20世紀の陰」も映し出す。
- 最後に…
「行った人は夢破れ、行けなかった僕は夢が続いている」。浦沢はこうとらえている。自らの中で永遠に終わらない万博とどう向き合い、伝えていくのか。この思いが、約30年後に「20世紀少年」の執筆へとつながったという。
【再び夢を〜大阪万博(1)】「行った人は夢破れ、行けなかった僕は夢が続いている」昭和の万博への思いが「20世紀少年」に 漫画家・浦沢直樹さん(1/3ページ) - 産経ニュース
『20世紀少年』は子供の頃に万博に行けなかった後悔がある浦沢直樹が大人になってから執筆した漫画だが、万博に2回行った堤幸彦監督の実写映画版のラストは原作と異なりケンジが人々の希望となった『ボブレノン』を群衆の前で披露する。ここからは堤幸彦監督が大学時代に成し遂げられなかった革命への後悔も見える。人は若い頃にやり残したことをいつまでも引きずるのかもしれない。
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