トム・クルーズ主演『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』の評価が割れている。その中でも「『フォールアウト』で終わりで良かった」という趣旨の感想も多い。その背景をアクション面とストーリー面で個人的な見解を記したい。まずはアクション面編。
- 『M:I』シリーズの転換点、到達点、強化版
『ミッション:インポッシブル』シリーズはテレビドラマ『スパイ大作戦』をベースにしたトム・クルーズ主演のスパイアクション映画。初期の3作品はそれぞれ違う監督が独自の色を出しながら演出する「普通に楽しいスパイアクション映画」くらいの感じで興行もダウントレンドの傾向にあったが、4作目『ゴースト・プロトコル』で「トム・クルーズのドバイのブルジュ・ハリファでのノースタントアクション」をウリにしたことで興行的に回復。続く5作目『ローグ・ネイション』では軍用機にトム・クルーズがしがみつくノースタントアクションだけでなく、水中アクション、カーチェイス、バイクチェイスも徹底的にリアルに拘ることをウリにして更なるヒットとなった。
そのため現在の「『ミッション:インポッシブル』はトム・クルーズがリアルスタントに挑戦するシリーズ」のイメージは4作目から始まったものであり、その意味ではシリーズの「転換点」は4作目、「到達点」は5作目という評価の仕方が出来る。そして、その視点からはシリーズで初めて監督が続投した6作目『フォールアウト』は『ローグ・ネイション』の「強化版」で、今から振り返ればノースタントアクションの宣伝も「トム・クルーズのスタント失敗によって骨折した映像も、そのまま使って映画の緊張感にしてしまう」という選択をしたことによってある種のピークに達したようにも思える。後はもっと致命的な怪我をするか、それこそ本当にスタント中に死ぬしかない。
- 前より凄くても初めてのインパクトは越せない?
要はトム・クルーズが凄いことをやり過ぎて、観客はそのことに慣れ始めて、トム・クルーズが凄いことは普通になってきてしまったのだ。こればかりは映画のCGや3Dという最新技術がいつか観客にとっては当たり前になってしまうことと同じで避けられないこと。中には「いやいや、『デッドレコニング』や『ファイナル・レコニング』でトム・クルーズがやっていることは、『ゴースト・プロトコル』『ローグ・ネイション』『フォールアウト』より凄いよ」との反論もあるだろう。確かにブルジュ・ハリファを命綱を付けてよじ登ったり、飛び降りたりすることや軍用機にしがみついて飛行することよりも、崖からバイクで飛び降りることや飛行機の上でのアクションのが「危険」であり「凄い」のは事実だろう。ただ『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の水の3D表現のインパクトが『アバター』1作目の3D表現のインパクトを、PlayStation5のインパクトがPlayStationからPlayStation2のインパクトを、iPhone16のインパクトが初めてiPhoneが世界にお披露目された時のインパクトを超えられないように、相対的な「前のより凄い」という事実だけでは主観的な前作のインパクトを越えていくことは出来ない。そのため7作目『デッドレコニング』が同時期公開の『バービー』と『オッペンハイマー』(所謂「バーベンハイマー」)に観客を取られて興行的に低迷したのは、MCU同様にトム・クルーズのノースタントアクション推しに観客が食傷気味になっていった部分もあったのだろう。
- 「前にも観た」と作品全体のアクションの割合
そのため『ファイナル・レコニング』の水中アクションや飛行機アクションは「凄い」のは事実だが、「まー、でも前に似たようなの観たことあるしな〜」的な感想になってしまう人も少なくないのだろう。また『ファイナル・レコニング』は二部作の後編のため『ローグ・ネイション』の軍用機飛行、水中アクション、カーチェイス、バイクチェイス、『フォールアウト』のヘイロージャンプ、カーチェイス、バイクチェイス、ヘリコプターチェイス、『デッドレコニング』のカーチェイス、バイクごと崖飛び降り、落下列車という作品全体のアクションの割合に対して、「前半は喋ってばっかりで、後編も大型アクションが水中アクションと飛行機アクションの2つしかない」的な物足りなさも感じた。もし『デッドレコニング』と『ファイナル・レコニング』が一本の作品で、『デッドレコニング』の落下列車が作品の中盤のアクションだったらとんでもないアクション超大作となっていただろうが、それは予算的に望めない話なのだろう。
- 最後に…
— Tom Cruise (@TomCruise) 2025年5月12日
そんなこんなで「凄いんだけど、慣れって怖いね」という感じはした。また基本的に映画は本編を観てからメイキングを観るものだが、本シリーズはそれが逆転した弊害として、事前に「なんだこのワクワクするメイキングは!」と思って劇場に鑑賞しに行くと、本編では結構シリアスなシーンで気持ちに乖離が生じる面もあった。『ゴースト・プロトコル』や『ローグ・ネイション』だとワクワクするブルジュ・ハリファや軍用機のメイキングは本編でも「ペタペタ手袋の信用のなさ」「飛び降りの際に紐の長さが足りない」「扉が開かない」など事前のワクワクと本編のテンションが一致していたし、逆にシリアスなシーンでも本編の緊迫したバイクチェイスとメイキングの危険なスタントの緊張感が上手くマッチしていたが、『デッドレコニング』や『ファイナル・レコニング』では劇中では深刻なパラシュート下降シーンも事前に楽しいメイキングとして見せてしまっていたりして(しかも本編よりメイキングの方が「実写版『天気の子』かよ」というくらい映像が綺麗)、本編の深刻度のノイズになってしまっているようにも感じた。
- オマケ
『トップガン マーヴェリック』はストーリーとアクションの融合が巧かったな、と改めて感じたりもした。
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