スタジオジブリ『海がきこえる』が全国の映画館でリバイバル上映されるという。
- 「ジブリで唯一観てない」の筆頭が若者に人気
本作は1993年にスタジオジブリの若手チームが氷室冴子の同名小説をテレビ放送向けに長編アニメーション化した作品。地上波での放送は1993年の初放送と2011年の2回限りで、スタジオジブリ作品のなので例によって配信もないので、鑑賞するにはソフトを購入するかレンタルするしかないため、ジブリの中では世間的な認知度は低い。それ故にそこそこのジブリファンでも「『海がきこえる』だけは観れてない」という人も少なくない。そのためネットでは「幻の作品」「隠れた名作」扱いされたりしている。そうしたポジションも影響してか、2024年に映画館でリバイバル上映された際には連日満席が続き、リアルタイム世代だけでなく初放送時には生まれていなかった20代や30代の若い観客も目立ったという。
以下ネタバレ注意
- 平成初期のリアルな風景と「青春の憧れ」

本作は東京の大学に進学した主人公が、地元の大学に進学したヒロインを吉祥寺駅で見かけたことをキッカケに高知で過ごした高校時代を振り返る物語。まず冒頭のある夏の日に田舎から上京してきた大学生の主人公が駅でそこにいるはずのない高校時代に好きだったヒロインを見かけたことで、高校の同窓会に出席するための帰京中の飛行機の中で自身の高校時代を振り返っていく構成がエモい。そして「東京から転校してきたスポーツ万能で勉強も出来るが故に周囲に疎ましく思われている美人のツンデレ」というヒロイン像、そんな女の子から修学旅行の日に「お金貸してくれない?」と持ちかけられたことで始まる主人公との関係性、離婚した父親に会うために母親に内緒で東京に向かうヒロインに付き添う主人公、東京まで会いに行った父親に自分が求められていないことを知り悲しむヒロインが主人公に泣きつき、未成年にも関わらずコークハイを飲む夜の東京のホテル、自分の中で「堂々としている」と理想化されたヒロインが東京では同級生の男子につまらない見栄を張る女子でしかなかったことを知ってガッカリしてイラつく主人公、学校中で広まるヒロインと泊まりがけで東京に行った噂、みんなが見ている学校の廊下で繰り広げられるヒロインと主人公のビンタの応酬、主人公と同じくヒロインのことが好きだった親友との関係性、文化祭でヒロインとも親友とも関係が悪化してそのまま卒業を迎えて別々の大学に進学、同窓会を機にした親友との和解、そしてヒロインの想いを知る主人公とオープニングと呼応するラストのヒロインとの駅での再会… 「私生理の初日が重いの。貧血で寝込むこともあるのよ。男の人は分からないでしょ、どうせ」「私、会いたい人がいるの。その人はね、お風呂で寝る人なんだよ」など印象に残るセリフも多く、平成初期のリアルな高知と東京の風景をバックに織りなされる本作は正に「青春の憧れ」が詰まった作品となっている。
- 『金曜ロードショー』で放送されないジブリ作品
電車のシークエンスや東京と田舎の風景対比など新海誠監督作品っぽさもある本作だが、仮に本作が他のスタジオジブリ作品と同様に『金曜ロードショー』で繰り返し放送されていれば『耳をすませば』『コクリコ坂から』と並ぶ「ジブリの青春アニメ3部作」として高い人気を得ていたのではないか、とのタラレバも考えてしまう。本作は初放送で17.4%の高視聴率を記録した反面、製作費的に「映画と違ってテレビアニメはコスパが悪い」と判断をされたらしいが、初放送後には一応劇場でも公開されていたみたいなので「『映画』として他のスタジオジブリ作品同様に繰り返し『金曜ロードショー』で放送して、利益率を上げていけば良かったのに…」なんてことも思ってしまう。
@aonokei いや、もともとテレビスペシャルなので、当時2回放送されていますが、夕方の時間帯で東京ローカルだったのです。ゴールデンタイムでの全国放送が初、という意味です。何度か話があったのですが、尺の問題などで実現せず。今日は、感無量です。
— 高橋望 (@nozomut) 2011年7月15日
ただ実際は過去に『金曜ロードショー』での放送の話もあったようだが、尺の都合などから実現せず、ようやく実現した2011年の放送は『コクリコ坂から』公開前夜に『金曜特別ロードショー』と称して『ゲド戦記』との2本立て放送の1本目という特殊な扱い。尺の問題の関しては本作より後の2002年公開『猫の恩返し』の上映時間75分と大差ない72分なので、『猫の恩返し』での放送時間の穴埋め実績が出来た後の2011年放送で視聴率的な結果を残せれば、それ以降レギュラー化した可能性もあったのかもしれないが、残念ながら同日放送の『ゲド戦記』が12.0%だったのに対して、本作は7.2%と一桁。正直「もっとベストな環境で放送出来ていれば…」みたいなことも思わなくもないが、2回目の放送での低視聴率が影響したのか、それ以降現在まで本作が『金曜ロードショー』で放送されたことはない。
- 最後に…
とは言っても昨年のリバイバル上映での好評を見るに、『金曜ロードショー』で放送されてこなかったことが、逆にレア度を高めてプラスに繋がった感もあるので、これで良かったのかもしれない。またこの夏の全国的なリバイバル上映が上手くいくことで、作品の価値が上がって、近い将来『金曜ロードショー』で初の単独放送、みたいな可能性にも期待したい。
- オマケ
『海がきこえる』は田舎と東京の対比がエモいけど、『耳をすませば』はコンビニやファストフード店が立ち並ぶ風景を「故郷」とするエモさがある
- オマケ2
『海がきこえる』は多分「平成レトロ」的な消費もされていると思うけど、近い将来『耳をすませば』『海がきこえる』が「平成前期」、細田守監督『時をかける少女』が「平成中期」、『君の名は。』『天気の子』が「平成後期」の空気を収めた「青春レトロ」みたいな扱いになるのだろうか…
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