2025年6月の映画興行収入レポートの前編。
- 『国宝』、絶賛口コミで異例の推移でヒット
芥川賞作家・吉田修一が歌舞伎の世界を舞台に書き上げた小説を、これまでも『悪人』『怒り』と吉田原作の実写映画化を手掛けてきた李相日監督がメガホンを取った『国宝』が日本映画史に残る記録的な大ヒット。主演の吉沢亮は昨年末に自宅マンションで酒に酔って他人が住む隣室に侵入したとして、住居侵入容疑で警視庁に書類送検(後に東京地検は被害者側との和解もあってか不起訴処分)されるも、一部のSNSでの通報した被害者隣人に対するバッシングを批判する声明を事務所が出したことで、CM降板などの社会的な制裁は受けるも、世間的な評判は逆に上がるという草彅剛(大河ドラマ『青天を衝け』で共演)現象が生じていたが、半年後には役者として興行的・批評的評価も収めているのだから、人生とは分からぬもの。
この作品は制作費がとても大きな規模になることが予測されたので、それに見合うようにビジネス面でも収支がとれるような商業的な作品にする必要がありました
映画『国宝』から始まる新たな実写作品への挑戦――ミリアゴンスタジオが描く未来② | Cocotame(ココタメ) – ソニーミュージックグループ
『国宝』は上下巻に及ぶ膨大な原作を一本の映画用の脚本に落とし込むことに加えて、歌舞伎の世界を再現するための莫大な予算を回収するための見通しを立てなくてはならないことから、実写映画化のハードルは高かったという。映画ジャーナリストの大高宏雄氏によると『国宝』の製作費は10億円超え、また『週刊文春』による「破格の製作費10億円を数億円オーバーした」との報道もあり、兎にも角にも邦画トップクラスの予算が注ぎ込まれている模様。そんな本作のオープニングは3日間で3.46億円と「最終興行20億円超えを狙えるスタート」で、「興行収入の約半分は劇場側の取り分でそこから宣伝費等を抜いた収入を踏まえると、劇場公開だけでは製作費の10億円+αの回収は難しそうだけど、その後の配信やソフトの収益を踏まえれば赤字は回避出来そう」くらいのヒットだった。
しかし『国宝』は公開されると瞬く間に口コミで「とにかく凄いし、美しいし、圧倒されるから映画館で観て!」と絶賛評が広がり、3時間弱に及ぶ上映時間も「作品の風格」としてポジティブ解釈された。その結果、2週目末の興行収入は4.51億円と前週比130.4%を記録。更に3週目末は前週比114.1%で5.15億円、4週目末は前週比118.4%で6.10億円、5週目末は前週比105.9%で6.45億円と2000年以降の東宝配給作品としては史上初となる4週連続で前週末を上回る異例の興行を展開。映画興行全体としても最終興行135.1億円の『ボヘミアン・ラプソディ』に並ぶ記録で、「ライブ」といい「歌舞伎」といい「映画館の大スクリーンと音響で体感する」ことに観客が重きを置いていることを実感させられる。東宝は公開3週目に「興収50億円が射程圏内となり、60億円到達も見込める」と発表していたが、公開6週目の段階で既に興行収入56億円を超えて60億円超えは確実の推移。若者層からシニア層まで幅広く動員しており、夏の大本命『劇場版 鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』と上手く棲み分けて夏休みやお盆休みを制すれば、実写邦画としては『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』以来の興行収入100億円超えも期待出来る(他にもIMAXの追加上映や来年の日本アカデミー賞受賞記念の再上映など興行的プラスになる様々なイベントが予想される)かもしれない。
世界に映したい カンヌ回顧、出品多数の日本勢:朝日
— ゴミ雑草 (@mjwr9620) 2025年5月31日
→『国宝』『8番出口』『恋愛裁判』を出品した東宝は『ゴジラ−1.0』『怪物』が国際的に注目され「海外に進出したいという思いが全社的に強くなっている」/2032年までに海外売上高の比率を現状の1割から3割に上げる目標 https://t.co/9J6Nrm0YR5
日本で大絶賛の『国宝』が海外でどのような興行的パフォーマンスを見せるのかも注目。
「大変喜ばしいこと」映画『国宝』大ヒットで高まる歌舞伎人気、松竹が明かした「反響の大きさ」
— ゴミ雑草 (@mjwr9620) 2025年6月26日
→「弊社のチケットご購入電話窓口(『チケットホン松竹』)に 映画『国宝』をご覧になられた方から歌舞伎公演チケットのご購入についてのお問い合わせをいただいております」 https://t.co/UTLeqrO1Lg
ちなみに『国宝』の大ヒットによって原作本も爆売れ、松竹の歌舞伎も好調だという。
吉沢亮さん不起訴…酔って自宅隣室に侵入容疑で書類送検 : 読売新聞
【25年上期の「映画興行収入TOP10」】ヒット傾向は前年から一変! 『国宝』の特大ヒットなど邦画実写は大健闘 “洋画が復調”の背景は? | 映画・音楽 | 東洋経済オンライン
渡辺謙(65)“国宝”Tシャツ配りまくりに主演・吉沢亮の困惑 | 週刊文春 電子版
吉沢亮×横浜流星『国宝』動員319万人、興収44.8億円突破 『ボヘミアン・ラプソディ』級の大ヒット記録 | ORICON NEWS
- 『国宝』と被った「今こそ日本人に観て欲しい」
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— 映画『フロントライン』公式 (@frontline2025) 2025年6月9日
Twitterで2020年を
振り返ってみませんか?
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あの日、あの時、私たちは——
2020年2月 豪華客船で日本初の
新型コロナウイルス集団感染が発生。#映画フロントライン 6.13公開記念
コロナ禍を振り返ろう✍️
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2020年2月に横浜港へ入港し、日本で初めて新型コロナウイルスの集団感染が発生した豪華客船ダイヤモンド・プリンセスを舞台にした映画『フロントライン』が興行収入15〜20億円が見込みのヒット。プロデューサーはNetflixで福島原発事故を題材にしたドラマ『THE DAYS』(撮影中にコロナパンデミックで一時休止)を手掛けた増本淳、主演はメカゴジラに乗って白目を剥いたり、鎌倉幕府と朝廷の立場を逆転させたり、沈没する日本の国民を救ったりした小栗旬。約100年前に猛威を振るったスペイン風邪がインフルエンザとして現代に定着したように、コロナパンデミックから5年が経って、スッカリコロナに慣れきった人類が、コロナ初期の出来事を振り返る意味で、「今こそ日本人が見るべき映画」との口コミがSNSでは広がっているが、そのポジションは『国宝』の方に持ってかれてしまった感も否めない。一応実際の出来事をベースにした作品らしく、SNSでは「この描き方は問題ではないか」みたいな論争もあるにはあるが、『Fukushima50』とか『オッペンハイマー』みたいなレベルには良くも悪くも至っていない。
映画『でっちあげ』三池崇史「問題はメディア側ではなくて、情報を受け取ってそういう空気を作ってしまう受け手側にあるんじゃないかと。特にいまの時代、われわれはSNSを通じて大量の情報を浴びて、次から次へと興味が移っていき、その過程で無意識のうちに人を傷つけている」https://t.co/PpXr8Q7KO8
— ゴミ雑草 (@mjwr9620) 2025年6月28日
「今こそ日本人が観るべき映画」枠としては、男性教諭がいじめを行っていると報じられ、全国の教育委員会で初の「教師によるいじめ」が認定されて処分されるも、その後の裁判でいじめが認められずに処分取り消しになった実在の事件をベース(原案はノンフィクション作家の福田ますみの著書 『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』) にした三池崇史監督『でっちあげ 〜殺人教師と呼ばれた男』も当てはまり、実際そういう趣旨の感想がSNSでは投稿されているが、こちらは『フロントライン』よりも目立たない形に… 最終興行も10億円に到達しない見通しだが、近年の三池作品では『初恋』ぶりに評判は上々。ただ三池崇史監督はインタビューなどで本作のような事案の本質を「メディア側ではなく受け手側」と主張しているが、SNSではこれまで鵜呑みにしてきたメディアや調査委員会などを敵対視する方向にシフトしただけで、「メディアの情報で踊っている状態」と本質的に変わってないような印象の感想の人もチラホラ…
- スティッチ、日本ではトム・クルーズ超えならず
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アメリカでは同日公開の『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』のオープニング興行を上回り、尚且つ『トップガン マーヴェリック』が保持していたメモリアルデーの最高オープニング記録も塗り替えることで、Wトム・クルーズ超えを果たしたディズニーの名作アニメを実写映画化した『リロ&スティッチ』が日本でも30億円程度のヒット。とは言っても、本国のディズニーによる「日本でのヒット次第では世界興行10億ドル超えも!」という期待に応えるほどのヒットかと問われれば微妙(ただ本作自体の世界興行は10億ドルを突破)で、日本ではトム・クルーズ超えも果たしていない。スティッチは日本制作のテレビアニメシリーズが放送されたりもしていたが、アニメ版の日本興行29.1億円とほぼ同等の数字。『金曜ロードショー』でのアニメ版のタイアップ放送も世帯視聴率5.7%と跳ねなかった。
過小評価をくつがえした「リロ&スティッチ」 大コケ「白雪姫」との対比に見るヒットの新法則 | 映画・音楽 | 東洋経済オンライン https://t.co/vLHo11oVR0
— ゴミ雑草 (@mjwr9620) 2025年6月9日
ただ実写洋画で興行収入30億円超えは大ヒットであるのも事実。世間的な評判は「アニメをそのまま実写化してくれて嬉しい!」が大半も、ラストの現実的な着地点の改変に納得していない層も。それにも関わらず近年のディズニー作品で論争となるポリコレ視点での批判が少ないのは、元々多様なキャラクターが活躍するタイプの物語でキャスティング論争が勃発していないからか。
- 最後に…
後編では『ドールハウス』『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』『F1/エフワン』を扱っている。
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