2025年6月の映画興行収入レポートの後編。
- 予告編の印象と乖離?『ドールハウス』ヒット
5歳の娘を亡くした主人公が心を癒すために購入した人形の謎に迫る長澤まさみ主演、矢口史靖監督のドールミステリー『ドールハウス』が興行収入15〜20億円が見込めるヒット。本作は予告編だと「矢口監督らしいコメディテイストの映画なのかな?」と劇場では笑い声も漏れていたが、本編では予告編の印象とは異なるホラーテイストで劇場は悲鳴、悲鳴、悲鳴。
【インタビュー】長澤まさみの芝居にゾクッ!『ドールハウス』矢口史靖監督
— ゴミ雑草 (@mjwr9620) 2025年7月4日
→(最初に自分の名前ではなく若い脚本家の脚本と偽った理由は)「お客さんを幸せにするタイプのコメディだと思って見に来たのに、ひどいじゃないか」と嫌われるのが怖くて、保身に走ったんですね(笑) https://t.co/yvnkSrDjcS
矢口監督自身も脚本執筆段階で普段の自分の作品のテイストと違い過ぎて「観客を裏切るのではないか」と悩み、当初は知り合いの若い脚本家の新作と偽って脚本を提出していたという。
近年、新作映画を宣伝する際、「ホラー」「SF」が禁句(?)になってる傾向について(斉藤博昭) - エキスパート - Yahoo!ニュース https://t.co/MAwt6n7seH
— ゴミ雑草 (@mjwr9620) 2025年6月1日
SNSで本作は映画ジャーナリストの斉藤博昭氏が「ホラーという言葉を使って紹介しないでください」とお願いされた日本映画の筆頭候補扱いだが、実際宣伝などで「ホラー」というワードは使われていない。
一方で昨年大ヒットしたホラーテイストの映画『変な家』を連想させるような「この家の人形、なんか変。」というキャッチコピー、「絶叫」「怖い」などのワードを使って怖がる観客の様子を映し出すホラーテイストのCM、「かくれんぼ」と称したモロにホラー映画丸出しの本編映像など「隠す気がない」感じの宣伝も。そもそも日本でホラー映画が避けられているのかと問われれば、この10年間でも2016年公開『貞子vs伽椰子』(最終10.0億円)、2017年公開『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(最終22.0億円)、2019年公開『IT/イット THE END“それ”が見えたら、終わり。』(最終18.4億円)、2020年公開『事故物件 恐い間取り』(最終23.4億円)、『犬鳴村』(最終14.1億円)、2022年公開『カラダ探し』(最終11.8億円)、2023年公開『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(最終32.2億円)、2024年公開『変な家』(最終50.7億円)とほぼ毎年興行収入10億円超えのヒット作品が公開されているので、「ホラー映画が避けられている」みたいなこともないのだろう。勿論、ジャンル的に嫌いな人が一定数存在するだろうが、フジテレビで毎夏『ほん怖』が放送されているように、定期的に摂取したくなる人気ジャンルなのではないか。
個人的に今回のポップなテイストの予告編は「如何にもホラー映画ですよ」みたいな予告編と違って、普段ホラー映画にそこまで興味のない層も惹きつけた意味では良かったと思う反面、本当に苦手な人を騙し討ちみたいに劇場に動員してトラウマを与えているとしたら「それはちょっと可哀想だな」とも思う。
- 原作テイストなのに異質?『ルパン三世』最新作
モンキー・パンチ原作のアニメ『ルパン三世』劇場版最新作『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』は興行収入5億円程度の見込み。本作は予告編などで「約30年ぶりの劇場版」とアピールしているが、これはあくまでも「2Dの劇場用長編アニメ」という枠組みで、2013年に『名探偵コナン』のコラボ映画『ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE』、2014年に小栗旬主演の実写映画版『ルパン三世』、2019年に山崎貴監督の3DCGアニメ映画『ルパン三世 THE FIRST』(以下山崎ルパン)と定期的に『ルパン三世』は劇場公開されており、そもそも『LUPIN THE IIIRDシリーズ』(以下小池ルパン)が2014年に『次元大介の墓標』、2017年に『血煙の石川五ェ門』、2019年に『峰不二子の嘘』とそれぞれ劇場公開しているので、そこまで「空いた」感もない。
勿論、これまでの小池ルパンは中編作品だし、コラボ映画や実写映画版が別枠扱いになるのは分からなくもないが、山崎ルパンが「3DCGアニメ映画」という理由で別枠扱いされているのはちょっと可哀想ではある。というのも、山崎ルパンは「3D」というだけで中身は世間のパブリックイメージに沿った単体で楽しめるルパン映画。それに対して今回の小池ルパンはこれまでのシリーズの続編かつ『ルパンVS複製人間』の前日譚かつ「すべての『ルパン三世』につながる物語」と「一見さんお断り」とまでは言わないが、中々ハイコンテクストな作品。実際、レビューサイトとか観ても、そもそもの作品のコンセプトを共有していない層が「思っていたのと違った」と困惑している様子がうかがえた。そのため「山崎ルパンと小池ルパン、どちらが『異質』か?」と問われれば今回の宣伝では3Dを理由に外された山崎ルパンよりも小池ルパンの方なのかもしれない。現に小池ルパンは山崎ルパンより公開規模も興行収入も少ない。配給側も本作と「世間が求めるルパン像」の乖離から山崎ルパンレベルの公開規模には至らなかったのかもしれない。
小池健監督が演出や脚本の面で苦戦した“あの名作”
— ゴミ雑草 (@mjwr9620) 2025年7月4日
→僕自身『ルパン三世』が大好きで、なかでもモンキー・パンチ先生の原作マンガやTVシリーズのファーストルパンが持っていたアダルトなテイストが好きだったので、自分もそういう作風のルパンをやってみたいと希望しました https://t.co/cJ7OLyTEnA
ただ小池ルパンのコンセプトは「原作漫画のハードボイルドでアダルトな危険な香りが漂う世界への原点回帰」、要は小池ルパンの方が原作テイストに近いわけだが、原作に近い方が「コレジャナイ感」扱いされてしまうのは、宮﨑駿監督『カリオストロの城』がルパンのパブリックイメージを塗り替えてしまったが故か。世間様は「映像化は原作に忠実にやって欲しい派」が多いようにも思えるが、ディズニーの名作アニメの実写映画化批判も含めて「その原作のイメージ」とやらは、果たして本当に「原作」なのかと問いたくなる。とは言っても、『サザエさん』も『クレヨンしんちゃん』も似たような問題を抱えているので、国民的アニメの宿命なのかもしれない。
本作のタイアップ放送が『ルパンVS複製人間』ではなく『カリオストロの城』だったのも視聴率的な問題だったのだろう。
- トム・クルーズとは違うブラピのスター性
『トップガン マーヴェリック』の制作チームがモータースポーツの最高峰である「F1(R)」に挑むレーサーたちの姿を、ブラッド・ピット主演で描いた映画『F1/エフワン』が興行収入15〜20億円を見込めるヒット。Apple製作の劇場公開映画は『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』『ナポレオン』『ARGYLLE/アーガイル』『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』と作品の評判自体はそれなりに良いのに、興行不信が続き、昨年は劇場公開を予定していたジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット共演の『ウルフズ』が配信オンリーに格下げになる程の窮地に陥っていた。一方で本作はApple製作の劇場公開映画で初の大ヒット。スクリーン映えするレースシーンが好評で、世界的にIMAXの収益も高いという。
🏁#映画F1ブラピ来日中
— 映画『F1/エフワン』公式 (@F1Movie_jp) 2025年6月25日
記念撮影のあとは居酒屋へ!
ワールドツアー最後の地・日本で
お店に居合わせたお客さんたちと乾杯🇯🇵
(ブラッド・ピットはお水で🍻)
お気に入りの日本食
“白身魚のポン酢がけ”を食べて
日本を満喫するブラッドでした🥢
『#映画F1/エフワン』𝟔.𝟐𝟕公開#F1TheMovie https://t.co/zUc3g7jueC pic.twitter.com/Tsj7pv9rs7
/◢◤
— 映画『F1/エフワン』公式 (@F1Movie_jp) 2025年6月27日
#ブラッド・ピット を
日本のカルチャーでおもてなし🇯🇵
\◥◣
🏁 回転寿司&書道体験 編#映画F1ブラピ来日中 後日ダイジェスト公開
『#映画F1/エフワン』絶賛上映中🏎
#F1TheMovie pic.twitter.com/9XzS9pDn94
シリーズモノやユニバースモノに対して不調傾向のオリジナルの実写洋画だが、日本でも『ブレット・トレイン』に続いてヒットとブラピのスター性は健在。トム・クルーズが都庁で念入りな計画のもとで大規模イベントを敢行したのに対して、前日に急遽来日を発表して、フラッと来日、舞台挨拶でファンと交流して、日本の文化(寿司に刺身に書道にゲーセン)に触れて、サクッと帰る、みたいな気さくな感じが、またトムとは違ったカッコ良さを放っていて、痺れた。
ブラッド・ピット約3年ぶり来日🌈
— ORICON NEWS(オリコンニュース) (@oricon) 2025年6月25日
ブラピ、アクションは陸専門?
海と空は「トムに任せます」https://t.co/iSW4qUyVCI
鈴鹿サーキットでのレースを熱望https://t.co/ZsqQLmWy3p
映画『F1(R)/エフワン』舞台あいさつに登壇。日本語吹替版声優は森本慎太郎(SixTONES)が担当#映画F1ブラピ来日中 pic.twitter.com/H0XV6rmoEA
ブラピは「陸海空」の「陸」担当で「海と空はトムに任せる」と発言していたが、『ミッション:インポシッブル/ファイナル・レコニング』は二部作の後半だからなのか「海」と「空」に対して「陸」のカーチェイスが不足していたので、本作で存分にカーアクションが楽しめる補完関係になっているのも良かった。
Apple製作映画ならではのiPhoneが予告編の映像に合わせて振動する「指で伝わる予告編」もフレッシュな体験だった。
ブラピ主演『F1/エフワン』わずか10日でApple映画史上最高興収!製作+宣伝費は約511億円の大作|よろず〜ニュース
- 最後に…
前編では『国宝』『フロントライン』『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』『リロ&スティッチ』を扱っている。
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