2025年7月の映画興行収入レポートの前編、というか『鬼滅の刃』の話。
- 『鬼滅の刃』最新作が歴代No. 1オープニング
参議院選挙で石破首相が「必達目標」とした自公過半数維持の50議席を割った7月の三連休、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』(画数の多い漢字がここまで並ぶ映画タイトルも珍しい)はオープニング興行55.24億円と国内歴代最高興行収入を記録した劇場版の前作『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(最終404.3億円)のオープニング興行46.23億円を超えて、国内歴代最高オープニング興行を更新。
劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来、公開3日間で観客動員384万3613人(興行収入55億2429万8500円)、月曜・祝日を含む4日間では観客動員516万4348人(興行収入73億1584万6800円)と大変多くの方にご鑑賞頂きました。映画館にお越し頂いたお一人おひとりに心より御礼申し上げます。#鬼滅の刃 pic.twitter.com/ikxV3c8gX6
— 鬼滅の刃公式 (@kimetsu_off) 2025年7月22日
本作は初日だけで16.4億円を記録して国内歴代最高初日興行、公開3日目に単日興行20.3億円と国内歴代最高単日興行も更新した。また月曜祝日を含むオープニング4日間では73.1億円を記録。東宝は7月の三連休となる週末の金曜日にその年最大の目玉作品を公開する傾向にあるが、一昨年の同時期公開である宮﨑駿監督『君たちはどう生きるか』(最終94.0億円)のオープニング4日間が21.49億円、昨年の同時期公開である『キングダム 大将軍の帰還』(最終80.3億円)のオープニング4日間が22.03億円だったことを踏まえると、本作は1日だけで両作品のオープニング4日間とほぼ同等の数字を稼ぎ、オープニング4日間対比ではトリプルスコア以上の差をつけたことになる。またオープニング4日間の73.1億円は山崎貴監督『ゴジラ−1.0』の最終76.5億円に迫る数字であり、アカデミー賞効果などを含めた口コミで数ヶ月かけて積み上げていった数字をあっという間に追い抜いてしまうレベルの初動に改めて驚愕させられる。本作のオープニング発表段階での国内歴代興行収入第100位は『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』の最終73.4億円だったので、あと0.3億円で「オープニング4日間で歴代トップ100入り」という驚異的な記録も樹立する勢いだった。
劇場版「鬼滅の刃」最新作、公開4日間で興収73億円突破! オープニング&初日&単日成績で日本映画史上歴代1位に : 映画ニュース - 映画.com
- 時刻表並みの上映回数、コロナ禍以降定着
「鬼滅の刃 無限城編」異例ヒットで嬉しい悲鳴 ドリンク製氷「限界」迎える劇場も...広報「有難い次第」: J-CAST ニュース
— ゴミ雑草 (@mjwr9620) 2025年7月22日
当該シネコンのオープン以来「初」とのこと https://t.co/WP9Txs2hbN
驚異的な興行故に本作の公開初週は「普段映画を観ない層が映画館に来ているので、上映中のお喋りやスマホ弄りなど治安が悪い」とか「シネコンからドリンクや氷が消えた」といった報告が多数。世界的に注目されている作品故か、複数の外国語字幕のついた本編の無断アップロードも多いという。またコロナ禍以降のこの手の大作アニメ公開時に恒例となっている「映画館の上映作品が『鬼滅の刃』ばかりになって、他の作品の上映回数が減っている」との声もあった。
『千と千尋』がスクリーンを独占してしまったことで、普通ならヒットが見込めたはずの他の映画が軒並み割を食ってしまったのです。
「『千と千尋』のような事態は二度と起こしてはならない」
興行界ではそんな話が出ているという噂が伝わってきました。もっと各社で協調して、いろんな映画に機会を与えるべきだというのです。日本の映画市場に訪れた本当の「自由競争」は一瞬で終わることになりました。
<出典:『ジブリの仲間たち』/鈴木敏夫/新潮新書/155・156P>
スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサー曰く、日本でシネコンが普及し始めた頃に公開された『千と千尋の神隠し』が当時の国内歴代最高興行収入を記録した際に、劇場側は『千と千尋の神隠し』がスクリーンジャックした結果、他の作品が割を食ってしまったことから、「色々な映画に機会を与えるべき」との方向になったという。メガヒット作品が一人勝ちすれば劇場側は一時的には大きなプラスになるかもしれないが、長い目で見れば一人勝ちした以外の映画を制作した企業が弱まり、結果的に映画のライナップが不足して、映画文化としても、映画興行としても「マイナスになりかねない」という話だろう。それ故に「劇場側がある程度上映回数をセーブして、他の作品にも動員が回るようにしなければ」的な共通認識があったのだろう。実際、コロナ禍前も「メガヒット作品のせいで、他の作品の上映が朝と夜の2回に追いやられて、観やすい時間にない」みたいな状況こそあれど、今ほど極端な振り方はなかったように記憶している。
「コロナ禍の巣ごもり生活で、原作漫画や(配信で)アニメに触れる人が増えた。洋画の大作が公開延期されたために『鬼滅』がスクリーンを最大限に確保できたことも大きい」
実際、東京のTOHOシネマズ新宿では初日に12スクリーンのうち11を使い計42回(深夜含む)上映。他の都市部でも1日30回超上映するシネコンがあり、「鬼滅」が映画館をジャックする形になった。
しかし2020年のコロナ禍初期に劇場側は感染対策として座席を一席ずつ開ける間引きを実施。ハリウッド大作の延期が相次いだこともあり、その年の夏から再開された日本のエンタメ商業映画が公開される際には複数のスクリーンを使って上映回数を増やすことで、観客を分散させる策が取られた。本来はヒット作品ばかりがスクリーンを独占する状況は好ましくないが、「コロナ禍により商業映画が次々と延期」と「コロナ対策」という特殊な事情によって、その状況は許容された。その流れの中で秋に公開されたのが、前作『無限列車編』だった。各劇場は当時の新聞紙面に「映画館、『鬼滅の刃』に全集中」「1日42回上映『まるで時刻表』」と見出しがつけられる程の異例の上映回数を用意。コロナ禍のステイホームとサブスクの日本での定着時期とも重なったことで、巣篭もり中に多くの人がアニメに触れていた土壌もあり、異例のオープニング興行となった。そして、その異例のヒットがニュースとなり、注目を集めることで、どんどんとヒットの輪は広がり、「社会現象」とまでなった。
映画『鬼滅の刃』公開で深夜・早朝から劇場活気
— ゴミ雑草 (@mjwr9620) 2025年7月18日
→TOHOシネマズ新宿では全12スクリーンのうち11スクリーンで上映/午前7時台には4つのスクリーンで上映/最終上映までに劇場内で40回上映/各地域の劇場でも20~30回を上映/TOHOシネマズ新宿の『無限列車編』初日の上映回数は42回 https://t.co/oQwGiZB8aG
そして期待作品に対して公開初週にスクリーンジャックに近い状況で大量の上映回数を用意するスタイルは、コロナ禍慣れした現在まで続き定着。本作もハリウッド大作が普通に公開される環境かつ前作より上映時間が伸びているにも関わらず、前作並みの上映回数が用意された。また前作はコロナ禍初年ということで、間引き上映を続けている劇場も多かったが、今回は全席動員出来るフルスペックな状況。口コミでロングランヒットした高評価作品の続編のオープニングは、その期待値の高さと熱量から初動に集中しやすい傾向を踏まえると、今回の記録更新はある種の必然性はあったのかもしれない。
- 前作『無限列車編』超えなるか?
映画の歴代興収TOP10、実写邦画が消える 『鬼滅の刃』興収176億円で『踊る大捜査線』抜く | ORICON NEWS
— ゴミ雑草 (@mjwr9620) 2025年8月4日
無限城編 第一章 猗窩座再来
公開17日間:興収176億3955万7600円、動員数:1255万8582人
無限列車編
公開17日間:興収157億9936万5450円、動員数1189万1254人 https://t.co/fDHFhIPmWn
一方で続編が前作のオープニングを超えたからといって、前作の最終興行まで超せるのか、と問われると微妙な話になってくる。本作は2週目末に30.99億円を稼ぎ、累計128.7億円を突破、更に3週目末に24.57億円を稼ぎ、累計は176.39億円を超えて、『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』の最終173.5億円を抜いて国内歴代興行収入トップ10入りを果たした。前作の3週目末明けの累計は157.99億円なので、現時点では本作の方が20億円程度上回るペースで興行を続けていることになる。
『鬼滅の刃』累計2.2億部突破!4年半で+7000万部
— ゴミ雑草 (@mjwr9620) 2025年7月18日
20年5月13日:6000万部※5月18日に原作漫画の連載終了
20年7月3日:8000万部
20年10月2日:1億部※10月16日に無限列車編公開
20年12月4日:1億2000万部※最終23巻発売
21年2月15日:1億5000万部
25年7月17日:2億2000万部 https://t.co/3Sf7ktF47v
ただこの手の前作がロングランヒットした作品の続編は前作は口コミで作品の国民的な認知度が高まっていくことで動員を伸ばしていくのに対して、続編は認知度がある程度飽和した状態にあるため、公開当初は前作を上回るペースの興行になっても、それは前作に口コミでコツコツ増やしたファン層の「前借り」に過ぎず、次第に伸びがひと段落して、最終的に前作を下回るケースも少なくない。そのため続編が前作の7割程度に収まる「続編7割の法則」なんて言葉もある。一方で劇場公開終了後も地上波放送やサブスク配信で作品の認知度を高め、続編が前作超えのクオリティを誇ることで、前作超えのヒットを果たすケースもある。本作が前作超えを果たすかどうかは現段階では不明だが、前作公開からの5年間もコミックスの売り上げを伸ばし続けていたことなどを踏まえると、オープニングだけでなく最終興行でも前作超えを果たす可能性もあり得なくはないのだろう。
また本作はサブタイトルが『猗窩座再来』となっているように、ある意味『無限列車編』の対となる作品であり、「『無限列車編』を映画館で観て感動したから、テレビシリーズの続きも見ようと思ってたけど、何だかんだで観なかった」くらいのライトな離脱層を引き戻しやすいシリーズ構成にしているのも「上手いな」と思えた。
- 最後に…
後編は『スーパーマン』『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』の予定。『鬼滅の刃』の興行絡みの話も…
- 関連記事

