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『ブラック・ショーマン』の真世の問題と犯人の動機から放つメッセージ性と福山雅治のフジテレビ事案への真摯な対応の重なり

【チラシ付き、映画パンフレット】ブラック ショーマン 監督 田中亮 出演 福山雅治、有村架純、成田凌、生田絵梨花

ネタバレ注意

福山雅治主演『ブラック・ショーマン』を観た。

 

  • 東野圭吾原作、『ガリレオ』のダークサイド

本作は『ガリレオ』シリーズの東野圭吾が、ドラマ版で湯川学を演じた福山雅治からの「ダークヒーローを演じてみたい」という要望から生まれた作品。「物理学者」ではなく「マジシャン」が殺人事件に挑む物語で、興行的には『沈黙のパレード』を超えるオープニングを記録しているが、世間的な評判はボチボチ。本作は父親を殺された有村架純演じる真世と福山雅治演じる元マジシャンで伯父の武史が、その事件の真相に迫る物語だが、肝心の事件に明確な謎やトリックがある訳でもないので、物語全体の訴求力が弱く、犯人が判明してもほぼカタルシスがないに等しい。また叔父と姪の掛け合いは結構楽しくはあるが、クライマックスの謎解きパートは武史のワンマンショーで、真世の存在を持て余しており、「そこは真世を武史のサポート役にするとかさ…」感もあった。

 

 

  • 真世が抱えていた問題と犯人の動機

そのため個人的には「何となく微妙だった…」くらいの感想だが、本作のメッセージは興味深かった。寂れた田舎出身の真世は自分の父親が学校の担任の先生で、家でも「父と娘」の関係というよりは「先生と生徒」の関係の延長に近い過ごし方をしていた。そのため真世は大人になってからも父親とは微妙な距離があった。そしてその子供時代の環境が影響したのか、真世は婚約者に浮上した「過去に妊娠させた別の女性との結婚を断った」という疑惑に不安を感じるも、「別にそれが本当でも嫌いになることはないから、触れないままの方が幸せかな」という態度を取る。ただ父親殺しの犯人の動機に対して真世が「本当のことをちゃんと話していれば、先生は分かってくれて、こんなことにもならなかったのに!」という思いが湧き、父親も実は自分と同じように「娘を娘として接してこれなかった後悔」を抱いていたことを知り、自分が目を背けてきた婚約者への疑念について真正面から話し合う覚悟を決める。劇中で婚約者の疑惑の真相は明らかにならないが、事の本質は疑惑の有無ではなく、ちゃんと話し合うことにあるのだろう。

 

 

  • 作品メッセージと福山雅治のフジ問題への対応

本作の犯人に関して「全く理解できない!」との声もあるが、一度の些細な失敗によって致命傷を負わされる危険性もあるSNS社会で、センシティブになって、過度な反応をしてしまう気持ちは分からなくはない。そして世の中には、今回の犯人のように「盗作って言ったて、病気で亡くなった親友の想いを引き継いだモノだし、そんな殺人事件に発展させるような話ではなかっただろ」みたいなケースも少なくない。その意味では本作公開直前に発覚した福山雅治のフジテレビ問題への対応は「その危機を見事に回避した」と言える。当然、福山雅治に浮上した事案はフジテレビが設置した第三者委員会の調査報告書で指摘された他の「犯罪に片足突っ込んでいる」ような事案と比べても「嫌な想いをしている人もいるから、ちゃんと反省して今度から気をつけてね」レベルの話で、別に芸能界を追放されるような話ではない。ただこのレベルの話でも、中には変に矮小化しようとしたりした結果、傷口を広げてイメージの大幅ダウンに繋がる人も少なくない。しかし福山雅治は雑誌の取材に真摯に応じることで、逆にイメージアップすらした。あの福山雅治の対応は、(別に本作とは関係ないだろうけど、)本作のメッセージ性を適切に体現していた。

 

 

  • 最後に…

そんなこんなで作品自体は微妙だったが、福山雅治は「素晴らしい人なんだな」と改めて思えた映画体験だった。武史のキャラ設定や真世とのコンビ自体は楽しかったので、シリーズ化するならミステリーとしての強度を上げて欲しい。

 

 

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