ディズニー『トロン:アレス』を観た。
- 「映像革命」の割に影の薄い『トロン』1作目
『トロン』シリーズは1982年に1作目(後に続編との差別化で『トロン:オリジナル』と副題が付いた)が公開されたSF映画。世界で初めて長編映画にコンピューターグラッフィックス(CG)を本格導入した作品(ただ実際はかなりアナログな作り方をしているシーンが多いとか…)であり、元ピクサーのジョン・ラセター監督が「『トロン』がなければ『トイ・ストーリー』は生まれなかった」と述べていたり、漫画家・映画監督の大友克洋氏が『AKIRA』のバイクのインスパイア元の一つに『トロン』を上げているなど、後の作品に与えた影響も多い。デイミアン・チャゼル監督『バビロン』のラストでも本作のバイクチェイスシーンが使用されているなど、映画史に残る革命的な作品であり、Wikipediaにも「カルト的な人気を博した」と記されている。しかし同年公開の『ブレードランナー』など他の80年代SF映画と比較しても、「オールタイムベスト100」の常連である訳でもなければ、熱心なファンもあまり見かけない(もし熱心なファンの人が読んでいたらゴメン)、「映像革命」を起こした割には影の薄い不思議なポジションの作品でもある。
トロン:アレス 特集: 見どころ・解説/大友克洋&鳥山明も熱狂…偉大な傑作「トロン」を知っている? 新作は観るだけじゃない“侵食系”デジタル映画体験 - 映画.com
- 「ショボいな…」と舐めてかかると…
そんな本作を自分は最新作の予習を兼ねて初鑑賞したが、事前に予告編で観た「流石にショボ過ぎてキツそう…」という印象と違って、本編では当たり前ではあるが「1980年代当時の最新のコンピューターの中に入る」という流れなので、「まー、この時代のスペックなら電子世界がこのレベルなのはそうだよね」という変な納得感から、意外にもそこまで違和感なく観れてしまった。勿論、これは事前にCGレベルに対して覚悟を決めていたからだし、映画自体は自分が生まれるよりもかなり前の作品なので、現実世界の映像含めてかなり古く感じているのだが、特に最大の見せ場であるバイクチェイスシーンは冒頭で示されるバイクゲームの前置きもあって、直線と直角の動きのみで繰り広げられるバイクチェイスを純粋にハラハラしながら観てしまったので、自分でも驚いた。「流石、映画史で映像革命として評価されているだけの作品である」と偉そうに思ったりもした。電子世界に潜っていくシーンは細田守監督『サマーウォーズ』の冒頭を連想させて「これも影響下にあるのかな」とも感じた。
- 2作目は3D、3作目はAI
そんな『トロン』シリーズは2009年末に『アバター』が公開されたことで訪れた「3D元年」の2010年末に3Dを全面に打ち出した続編映画『トロン:レガシー』を公開。CGを本格導入して「映像革命」を起こした作品が、『アバター』による「映像革命」に応えるべく続編が製作されたというのは文脈的にこれ以上にない理由になる。1982年の1作目に対して、2010年の2作目はCGのレベルも明らかな進化を遂げていた。一方でそれから15年の時を経て製作された今年公開のシリーズ3作目『トロン:アレス』に関しては、初めて企画を聞いた時は「勿論、この15年でCGのレベルは更に上がってはいるけど、1982年と2010年程の目に見える進化はしてないし、2作目は3Dという新たな映像革命があったけど、別に今回はそういう訳ではないからな…」みたいなことを思っていた。ただ3作目の内容がシリーズで初めてデジタル世界が現実世界に侵食してくる内容だと知って、「なるほど、今回は今のAI時代に対応した『トロン』を語りたかったのか」と納得した。日本では『ゴジラ』や『日本沈没』の最新作がその時代の日本の社会不安を反映させたりしているが、『トロン』は映像面だけでなくその時代ごとのデジタル状況を映し出していくシリーズ(前作だとWi-Fi)として続いていくのかもしれない。興行次第ではラストの描写的に次の作品はこれまで程の期間が空くことなく作られそうな感じでもあったが…
以下ネタバレ
- 最後に…
『トロン:アレス』はAIの現実世界への侵食という今日的なデジタルテーマを描いたが、物語自体は「AI兵士が感情を持ち始めて…」的な物凄く王道で、エンタメとして楽しく観れたが、目新しさはない。映像面も3D表現含めて中々見応えはあったし、シリーズとしてはこれまでの青基調から赤基調にシフトしていることからのフレッシュさとそれ故のラストの反転する熱さもあったのだが、「新映像革命」を謳っていることを踏まえると、個人的には物凄くテンションの上がったカットや印象的なカットがあった訳でもなかった。敢えて言えば80年代の電子世界に映った瞬間だが、それはレトロ的な盛り上がりで「新映像革命」とは真逆のシーンだった。そのため良くも悪くも「普通に面白い映画で楽しめた」という感想だが、自然の雨に触れたAI兵士は善の方向へ、火災探知機のシャワーで水に触れたAI兵士は悪の方向で創造主(人間)の命令から脱却する展開は興味深かった。
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