細田守監督『時をかける少女』には「高瀬くん問題」が存在する。
- 「高瀬くん問題」とは…
真琴「もう最高だね、タイムリープ。やめらんないよ、これ!毎日が楽しくって楽しくって、笑いが止まりませんよ!がーっはっはっはっはっ!!」 pic.twitter.com/emFJTdvR2o
— アンク@金曜ロードショー公式 (@kinro_ntv) 2025年11月28日
「高瀬くん問題」とは主人公・真琴がタイムリープによって自身の調理実習の失敗を高瀬くんに肩代わりさせた結果、それをキッカケに高瀬くんはイジメられるようになり、精神的に追い詰められた高瀬くんは我を失って消化器で加害者達に反撃。その流れの中で高瀬くんは真琴の友達である友梨に怪我を負わせてしまい、取り押さえられる。劇中では「真琴がいい目を見ている分、悪い目を見ている人がいるのでは」との忠告もあるが、真琴の中では「自分のせいで高瀬くんの運命を変えてしまった」ではなく「自分のせいで友梨を怪我させてしまった」のベクトルで悔やみ、その後は「消化器事件をキッカケに千昭と友梨が付き合い始めた真琴のモヤモヤ」や「功介と後輩女子の恋愛劇」に話は移って、そのまま高瀬くんは物語からフェードアウト。
- 「妙に生々しい救われない残酷さ」のノイズ
真琴「私もさ、実はこれからやること決まったんだ」 pic.twitter.com/2L1DGHoow1
— アンク@金曜ロードショー公式 (@kinro_ntv) 2025年11月28日
真琴による高瀬くんに対する反省も、高瀬くんへの救済措置も一切描かれない(高瀬くん事件後に真琴は一度調理実習前の朝に戻っているが、そこでも高瀬くんの件はスルー)ため、一度気になり出すと「真琴の成長物語」としてかなりモヤモヤさせられてノイズとなる。しかも真の目的は千昭へのアピールとはいえ、いじめられているのを心配してくれた友梨に対して、高瀬くんは感謝の言葉ではなく加害者への愚痴だけが出てくる、みたいな微妙に嫌な奴として観客に受け取られるように描かれていて、地味にエグい。そのためネットでは昔から「高瀬くん可哀想…」「高瀬くんに救いはないのか…」との声があったし、この描写から「細田守監督作品には妙に生々しい救われない残酷さがあって嫌だ」と感じる人も少なくなかったようだ。
- 「奥寺佐渡子脚本復帰待望論」も…
脚本は奥寺佐渡子さん。細田監督が奥寺さん脚本の「学校の怪談」を見ていて、若い人たちの言葉遣いが上手いという事で依頼したそうです。
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その後、「サマーウォーズ」「おおかみこどもの雨と雪」でも脚本を手掛けています。 pic.twitter.com/B0IzGfxAVP
細田守監督作品は『バケモノの子』以降の「単独脚本作品」の評判が良くなく、かねてより「フリー初期に組んでた奥寺佐渡子氏に戻って来て欲しい」との声があり、それは今年の奥寺佐渡子氏が脚本の『国宝』のメガヒットと最新作『果てしなきスカーレット』の興行的失敗でより大きくなった。ただ奥寺佐渡子氏が脚本の『時をかける少女』の時点で「高瀬くん問題」は起きていた。勿論、奥寺佐渡子氏に脚本を依頼したのは細田守監督なので、『時をかける少女』に感じた「嫌さ」の理由を細田守監督の方に比重を置くのは間違ってはいないのだろう。ただ細田守監督が奥寺佐渡子氏に脚本を依頼した理由が「若い人たちの言葉遣いが上手い」だったことを踏まえると、高瀬くんが集団でホースで水をかけられるなどかなり酷いイジメを受けている場面と、高瀬くんが消化器で暴走している場面の周囲の反応やその違いなどからくる「生々しい嫌さ」を加速させていた可能性(単独脚本以降は細田守監督のセリフ回しも批判の的…)は否めない。
- 最後に…
全体のストーリーラインは細田監督が書いています。私は細かい部分と、それを2時間にどうまとめようかというところでしたね。最初の段階では、細田監督が書いたシンプルなあらすじからのスタートでした。そこから徐々に話し合って、書いて、膨らませていきました。
『サマーウォーズ』制作秘話 脚本は細田監督との共同作業 脚本家 奥寺佐渡子さん(2/4) | インタビュー | Articles | Filmers
そんなこんなで「奥寺佐渡子脚本復帰待望論があるけど、仮に復活しても『アレ?』となる可能性もあるよな…」なんてことを思っていたが、よくよく考えると「高瀬くん問題」を気にしているのは少数派。色々な『果てしなきスカーレット』の感想に触れていると「脚本家をつけて欲しい」派と「脚本家をつけても変わらないんじゃないか」派が存在していた。これは奥寺佐渡子氏脚本時代も単独脚本時代も細田守監督の作品の本質的な方向性は一貫していることから、そもそも奥寺佐渡子氏脚本時代から細田守監督の思想的、倫理的な部分にネガティヴだったのか、それとも単独脚本以降の脚本の練り込み不足によってネガティヴ評価に変わっていったのか、によって見解の相違があるのだろう。奥寺佐渡子氏の細田守監督作品に関するインタビューを読む限り、仮に再度組めば脚本がブラッシュアップされて多くの人にとってポジティブな方向に向かう可能性は高い。ただ元々細田守監督作品にネガティヴな人にとっては「嫌なメッセージが完成度の高い脚本によって放たれ、それを大衆が絶賛する構図」が生まれてしまうため、心情的によりネガティヴな方向に向かう可能性が高い。
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