スポンサーリンク

カズ・ヒロさん「日本の文化が嫌になった」は「got tired」の訳し方より「submissive」のスルーが問題

Bombshell (Original Music from the Motion Picture Soundtrack)

第92回アカデミー賞の「メイクアップ・ヘアスタイリング賞」を2019年公開の映画『スキャンダル』で特殊メイクを担当したカズ・ヒロさんは日本出身のアーティストだったことから記者会見で日本についての質問が飛んだ。その際にカズ・ヒロさんは以下のように答えたと報じられた。

「こう言うのは申し訳ないのだが、私は日本を去って、米国人になった」「(日本の)文化が嫌になってしまったし、(日本で)夢をかなえるのが難しいからだ。それで(今は)ここに住んでいる。ごめんなさい」

「日本の文化が嫌に」カズ・ヒロさん、再びアカデミー賞:朝日新聞デジタル

 自分はこの報道に触れたときに「夢をかなえるのは難しい」「だからアメリカに住んでいる」という文脈から「日本のシステムに嫌気がさした」と意味だと感じた。またその日の夜にTBSテレビの『NEWS23』で「日本の従属的な文化が嫌になった」というニュアンスの訳がされたVTRが放送されていたことから「やっぱりそういう意味であっていたのか」と認識した。

 

 

すると今日の朝、『カズ・ヒロさんは「日本の文化が嫌になった」とは言っていない』という驚きのタイトルのネットニュースを目にした。この記事を読んでみると「カズ・ヒロさんの『日本文化が嫌になった』という発言は『日本文化全体を嫌になった』という意味で発言したのではなく、『服従的な日本の文化が嫌になった(記事内での訳は「疲弊してしまった」)』という意味での発言だった。しかし『服従的』や『従順』の意味を持つ『submissive』が訳されなかったため、カズ・ヒロが問題定義した部分が上手く伝わっていない」という趣旨の内容が書かれている。つまり記事のタイトルから受ける印象と実際に書かれている記事の内容には乖離がある。現に記事内では「『got tired』という部分も私の拙い英語力では訳すのが難しく、『うんざり』や『嫌気がさす』といった表現の方が近いかなとも思う」という記述もある。しかしこの記事の内容を読んでいるのか、いないのかは分からないが、この記事を持って「朝日新聞の誤訳だ!」「日本を貶めるために意図的にこういう書き方をしたんだ!」と怒っている人がいて驚かされる。

 

 

カズ・ヒロさんの発言の原文は以下の通り。

"Sorry to say but I left Japan, and I became American because I got tired of this culture, too submissive, and so hard to make a dream come true. So that's why I'm living here. Sorry".

これを英語が苦手な自分が訳すと「ゴメンね、私は日本を離れてアメリカ人になったんだ。何故なら私は日本のあまりにも従属的な文化に疲れたから。そしてその文化の中では夢を叶えるのはとても難しいと感じたから。だから私は今ここ(アメリカ)にいるんだ。ゴメンね。」みたいな感じ。

 

この記事を書いた中川まろみさんの訳は以下の通り。

「残念ながら私は日本を離れアメリカ人となっている。周りに合わせ従順であることを強要する日本の文化の中で夢を叶えるのは難しく、そんな文化の中で疲弊してしまった。だからこそ私はいまアメリカに住んでいる」

カズ・ヒロさんは「日本の文化が嫌になった」とは言っていない(中川 まろみ) | FRaU

 

朝日新聞の訳は上記でも引用したように以下の通り。

「こう言うのは申し訳ないのだが、私は日本を去って、米国人になった」「(日本の)文化が嫌になってしまったし、(日本で)夢をかなえるのが難しいからだ。それで(今は)ここに住んでいる。ごめんなさい」

「日本の文化が嫌に」カズ・ヒロさん、再びアカデミー賞:朝日新聞デジタル

 

自分の残念な訳を含めた3つの訳の大きな違いは「『got tired』の訳し方」と「『submissive』を訳したか、訳さなかった」の2つ。前者は「疲れた」でも「嫌になった」でも、あまり大きな違いはないように思う。問題は後者を訳さなかった部分。この言葉を訳さなかったことで、朝日新聞の訳はカズ・ヒロさんが「日本の文化」をどういう意味で使ったのか、何故カズ・ヒロさんは「日本の文化」に疲れてしまったのか(嫌になってしまったのか)が分かりにくくなってしまっている。またカズ・ヒロさんが感じた日本の問題点に触れない報じ方にもなってしまっている。朝日新聞にそういう意図はなかったと思うが、この訳し方では海外からされた日本の問題点の指摘を「訳さない」ことで「なかったこと」にしようとしていると捉えられても仕方がないように感じる。何故このような中途半端な訳で報じたのか疑問だ。

 

 

そのため今回の朝日新聞の訳した方は「誤訳」というよりは、「一部を訳さなかったことで、本人の意図した意味が伝わっていない(伝わりにくくなっている)」ことに問題があると思う。また原文を読めば「日本の従属的な文化が嫌になった」みたいなことは発言してる訳だから、「『日本の文化が嫌になった』とは言っていない」という記事のタイトルも「また少し違うのではないか?」と感じた。ネット記事のタイトルが更なる誤解を招いている感が否めなかった。

 

Bombshell (Original Music from the Motion Picture Soundtrack)

Bombshell (Original Music from the Motion Picture Soundtrack)

  • 発売日: 2019/12/13
  • メディア: MP3 ダウンロード