山崎貴監督『ゴジラ−1.0』のNetflixでの配信が韓国で始まったようなので、SNSと日本語翻訳機能を駆使して韓国の『고질라 마이너스 원』への反応を調べてみた。以下の文章は個人的に受けた印象の話なので、ちゃんと知りたい人は自分で韓国語のタイトルで検索して調べて欲しい。
- 韓国では劇場公開なし、Netflixでひっそり配信
まず韓国では本作の劇場公開は叶わず、いきなりNetflixでの配信という形になった。また韓国では通常Netflixで大型の新作が配信される際には盛大なPRが展開されるが、本作はそういうのもなく「ひっそりと配信された」という。韓国で劇場公開されなかった理由として「モンスターバースとの契約上の都合」という説もあるが、近年韓国では『すずめの戸締まり』『THE FIRST SLAM DUNK』『君たちはどう生きるか』など日本のアニメ映画が記録的なヒットを連発しており、こうした流れの中で東宝が世界に売り込みたいはずの『ゴジラ』シリーズ最新作の上映がないのは「不自然」で「第二次世界大戦を題材にしてる作品だからではないか」との疑いの声の方が多い印象を受けた。そのため劇場公開の有無という視点では日本における「原爆の父」を描いたクリストファー・ノーラン監督作品『オッペンハイマー』のような扱いを受けているのかな、という印象も受けた。
- 「被害者コスプレ」、野田の演説も不評
映画の感想については賛否が割れている印象。日本語翻訳の問題かもしれないが、「被害者コスプレ」というワードの頻出度は高かった。韓国にとって日本は先の戦争の「戦犯国」という認識なので、ゴジラが銀座に上陸して広島・長崎を連想させる爆発シーンが描かれるのは「日本は先の戦争の被害者である」ということを印象付けるためのアピールと捉える感想もあった。また複数のレビューを読んでいくと、日本では評判が良かった野田の演説を不評ポイントとして指摘する感想が多かった。どうやら野田の「この国は人の命を大切にしてなかった、何故なら戦闘機に脱出装置すらなかった」という趣旨の主張は、日本から侵略されていた韓国からすれば「いや、大事なのは日本人の命だけなのかよ」と不快感を抱いたようだ。ただ「日本人も韓国人と同じで旧日本軍の被害者の面はあったのかもしれない」という好意的な意見も少なく、「日本人も被害者なのかもしれないが、あの場にいる人たちが何をやったか知ってるので、理解と不快が行き来する」という趣旨の感想は個人的に印象に残った。
※『オッペンハイマー』とは別に日本でもアメリカが「仮に本土決戦をやっていたらアメリカ兵が多大な犠牲を被っていただろうから、原爆はやむを得なかった」と原爆投下を正当化する言説には「アメリカはアメリカ人の命だけが大事で日本人の命はどうでもいいと思っている」との反論がなされる傾向にある
- 「カミカゼで敗戦メタファーを倒す」解釈も…
海外のゴジラファンらしきアカウントによって「韓国は本作を広島・長崎に投下された原爆を連想させる敗戦のメタファーとなるゴジラを元カミカゼパイロットが倒すことで精神的な勝利を収める特攻美化映画と捉えたモノもいる」という趣旨の投稿がバズったりもしていたが、自分が複数のレビューを読んだ印象としては、そうした捉え方は一定数いるものの主流派という印象は受けなかった。寧ろ特攻に関しては「日本映画がここまで旧日本軍批判をしていることに驚いた」という感想の方が多かったように思う。「一体日本はどういう印象を持たれてるんだ…」とも思ったが、政権与党の政治家が靖国神社に参拝している件などは韓国にとっては想像以上にネガティヴに映ってるんだな、みたいなことも見えたりした。また山崎貴監督個人の問題としては『永遠の0』によってネガティヴな印象を持たれていた反動が良い意味で生じている部分も少なくないように感じた。これもアメリカ社会の核への認識のイメージやノーラン監督の過去作『ダークナイト ライジング』の核の描写と対比されて「アメリカ映画なのに思ったより核の描写をちゃんとやってた」と驚く日本人が多かった『オッペンハイマー』への日本での反応と似ているな、とも思った。
- 最後に…
そんなこんなで韓国では「日本は先の戦争で被害者だったとアピールする映画」という印象を受けた人が多かったようだが、複数の感想を読んでいると意外と好意的な受け取り方をしている感想も少なくなかったので、野田の演説に「他の地域の人たちに酷いこともした」という趣旨の前振りセリフを一言入れるだけで大分印象も違ったのかな、とも感じた。日本では「アメリカに認められたから、加害の側面はやっぱりいらなかった、自虐史観はもう古い」的な意見(ただ山崎貴監督の書き下ろし小説にはゴジラは海神作戦によって焼かれた被害者<未来を生きるための戦いであると同時にやってはいけない「神殺し」をしてしまったというニュアンス>だと記されている)もそれなりに見たが、アジア初のアカデミー賞で視覚効果賞を受賞した作品が韓国など他のアジア地域では劇場公開されないのは「なんだかなあ…」とは思う。もし『オッペンハイマー』で「世界中で大ヒットしたから、イチイチ煩いこと言ってくる被爆国の日本での公開はしなくていいよ」みたいな態度を取られていたら、と想像をするとよりそう思う。実際「大きいスクリーンで見たかった」と残念がる声は少なくない印象を受けた。
- オマケ
韓国で意外にも不評だったのが役者の演技。日本でも「大袈裟すぎる」との批判は一部であったが、アメリカではそうした意見は特になく、国内では「字幕だから日本語の演技は分からなかったのではないか」との分析もあった。しかし同じく日本語が分からない人が多いであろう韓国では演技の不満が目立った。同じアジア人だと言葉が分からなくても伝わってくることがあるのだろうか…
- オマケ2
「安藤サクラがこの映画に出演しているのが残念…」みたいなコメントをよく見たが、安藤サクラは是枝裕和監督作品など世界的評価を受ける作品によく出てるので、韓国でも結構人気なのだろうか、などとも思った。
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