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賛否割れる3DCGアニメ映画『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』をゲーム版とネタバレ徹底比較!

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<注意> 3DCG映画『ドラクエ』ネタバレ有り

山崎貴監督最新作ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』をゲーム版と比較しながら感想を書いていく。

 

ドラゴンクエスト ? 天空の花嫁

本作は国民的RPGドラゴンクエストV 天空の花嫁』を『friends もののけ島のナキ』『STAND BY ME ドラえもん』の山崎貴が総監督・脚本を担当して3DCGアニメ映画化した作品。『ドラクエV』はシリーズの中でも特に人気が高く、スーファミ版・PS2版・DS版・スマホ版とハードを変えて繰り返しリメイクされる人気作。

山崎貴監督はナンバリング作品の中から『V』を選んだ理由を「ドラマが多く映画的なうねりがあり、『ドラゴンクエスト』シリーズの中でも一番映画に向いている傑作」だからとパンフレットのインタビューで答えている。確かにドラクエV』は他のナンバリング作品と異なり「パパスとの別れ」「花嫁選び」「子作り」など大きなイベントが用意されており、一本の劇場用アニメ作品として仕上げるのには適した作品だと言える。

ただ制作発表段階からエントリーにしてしまうほど、不安要素も多い作品だと考えていた。ただ実際完成した作品を観ると国民的RPGの『ドラクエ』だからこそ出来たゲーム映画の成功作といえる作品だと感じた。

 

 

  • 少年時代はダイジェスト

ゲームの映画化は実に難しい。何故ならゲームは能動的に時間をかけてクリアしていくメディアだが、映画は受動的に2時間を楽しむメディアだからだ。『ドラクエV』がクリアするまでは20〜30時間程度とされているが、映画版は尺が103分しかない。そのため映画全体にダイジェスト感があるのは否めなかった。

また冒頭はスーファミのドット絵風画面を使って「主人公が誕生するシーン」「フローラが主人公に一目惚れするシーン」「ビアンカと夜に2人でお化け退治に行くシーン」「キラーパンサーを仲間にするシーン」をザッとみせる演出をしているが、尺の都合上仕方ないとは理解しながらもビアンカと夜に2人でお化け退治に行くシーン」は重要シーンだと思ってたのでアッサリ流されてしまったのは少し残念だった。

兎にも角にも冒頭で少年時代の大半をスーファミ版のドット絵画面で紹介して、物語は開始早々でパパスがゲマに殺され主人公とヘンリー王子が奴隷になり脱出する。

 

ドラクエV』が3DCGアニメ映画化されると発表された時に1番注目を集めたのは主人公は結婚相手にビアンカとフローラのどちらを選ぶのかということ。ゲーム版だと主人公の選択は自分自身ですることになるが、映画版だとビアンカ派・フローラ派のどちらもが納得する展開を用意しなければいけない。主人公はブオーンを倒した褒美としてフローラと結婚できることになるが、占いババが「お主は自己暗示にかかっている」と助言され自分の本当の気持ちが分かるという聖水を渡される。主人公が聖水を飲むと「じこあんじ」と書かれたコマンドを突破して「本当の自分の気持ち」に辿り着く。そこに居たのはフローラではなくビアンカだった。そのため主人公はフローラとの結婚を断りビアンカと結婚することを決める。ちなみにデボラの存在はない。

ゲーム版ではルドマンさんの屋敷でビアンカとフローラを選ぶイベントだけど、映画版では主人公はルドマンさんに結婚を断りに行って、世間的には「ルドマンの機嫌を損ねたから結婚は取りやめになった」という設定に変更されている。また実は主人公に聖水を渡した占いババこそが魔法で化けたフローラで、彼女は主人公の本当の気持ちに気付いて導いてあげたという追加設定もされている。

 

パパスの仇であるゲマ戦は魔界の門の前にモンスターが大量に集まっていて主人公たちの行く手を食い止める。あまりのモンスターの多さに万事休すかと思いきやパパスに命を救われたヘンリーが大軍を連れて登場!更に主人公に忠誠を誓ったブオーンが登場して主人公たちの闘いに応戦する。ゲーム版にはないシーンだけど映画らしくスケールが出る良い変更だったと感じた。その後の主人公親子とゲマの熱いバトルも迫力があった。

 

 

  • 魔界の門が開かれると…

ゲマ戦が終わると魔界の門が開かれる。それを食い止めるために勇者である主人公の子供は勇者の剣を魔界の門に投げ込み封じ込めようとする。しかし封じ込めには失敗して世界の破滅が始まろうとした時、何故か主人公以外の動きが止まる。そして魔界の門から降りてきたのは我々が知るミルドラースのデザインではない。魔界の門から降りてきた存在は天空の剣を持ちながら「最新のテクノロジーで作られた天空の剣はまるで本物みたいだが、所詮は偽物でしかない」と発言して、天空の剣を投げ捨てる。状況を理解できない主人公に対して「まだ分からないか?ならもう一段階前に戻そう」と発言して3DCGで描かれた世界が、完成前に戻る。そしてその存在は「懐かしい匂いに釣られてやってきてしまったのだろう」と問いかける。これではまるで子供時代に『ドラクエV』で遊んで、懐かしさを感じならこの映画版を観に来た観客を挑発しているようだ。

主人公は頭を抱えながら「やめてくれ… せっかく全てを忘れて楽しんでたのに… ほっといてくれ!」と嘆き崩れる。実は主人公はヴァーチャル技術が発展した未来の世界の大人で、「全ての記憶をリセットしてゲームの中に入り込めるVRシステム」によってリメイクされた『ドラクエV』をプレイしている我々と同じ1プレーヤーに過ぎなかったのだ。そして魔界の門から降りてきたのはシステムを破壊するウイルスだったのだ。

主人公はゲームプレイ前に名前をリュカに設定していた。理由は子供のときからその名前でプレイしていたからだ。そして映画化が発表された時の日本中のドラクエファンと同じく「結婚相手はビアンカとフローラどっちにしようかな?」とウキウキと悩んでいた。そんな回想の後にウイルスは主人公に「大人になれ」と突き放す。

しかし主人公は誕生日に『ドラクエV』をプレゼントしてもらい遊んだ記憶や大人になってから再び『ドラクエV』で遊んだ記憶を思い出し「この冒険は偽物じゃない!確かに実在した本物なんだ!」と叫びシステムが用意していたアンチウイルスを使い世界を取り戻す。

 

  • ユア・ストーリー

「『ドラクエ』の主人公はあなたです」

ドラクエ』が映画化されるときに多くの人は抵抗感を覚えたはずだ。何故なら『ドラクエ』の主人公は『ファイナルファンタジー』の主人公と違って喋らない。だからこそ主人公に感情移入しやすく、まるで自分が本当にゲームの中の主人公なのではないかと錯覚することができた。だからこそ主人公に声がつき、大事な結婚イベントも自分の意思とは関係なく選択されることに抵抗感を覚えてしまうのは当然だ。ただ今回の映画版の主人公は数ある「あなた」の1人でしかない。この映画は「あなた」の人生の中の『ドラクエ』の思い出を刺激する。初めての『ドラクエ』を買った時のシュチエーション、友達と情報交換をした思い出、何故か「ぼうけんのしょ」が消えていた思い出など「あなた」の数だけ色々なストーリーがあるはずだ。

当然この映画の展開を否定する人も少なくないと思う。ただ『ドラクエ』に強い思い入れがあるファンなら『ドラクエ』絡みのエピソードは山ほど持っているはずだ。だから思い入れ強い否定派ほど泣ける不思議な映画になっている。山崎貴監督は人々の懐かしい記憶を刺激して、それぞれが歩んできた人生の思い出を振り返らせることで観客を感動させようとしたのだ。だから自分もこの反則ギリギリの演出に「なんでビアンカとの思い出のリボンのシーンカットしたんだよ!」とか「クエストという言い回し凄い違和感あるな…」みたいな不満も忘れて、劇場にいる観客がそれぞれの自分だけの『ドラクエ』との思い出を回想しているのかと思うと、自分が回想する思い出を含めて「今まで生きてきたことすべてを肯定されている気持ち」になって感動してしまった。

 

  • 奇抜な設定によって映画版の弱点をフォロー

設定を『ドラクエV』のリメイク版のゲームかつ主人公はゲームの1プレーヤーにしたことで映画版の弱点は大方フォローされている。まず細かい設定変更は「ゲームのリメイク版はそういうことはよくあること」とフォローされる。更に前述した少年時代の大幅カットは「主人公がゲームの世界に入る前に少年時代は「とばす」という選択をしていた」ことが明かされる。

ただこの奇抜な設定が1番生かされるのは結婚相手の選択イベントだ。主人公は子供のときからずっとビアンカ派だったので、今回はフローラを結婚相手にしようと「じこあんじ」という新システムを設定していた。だから結婚相手を選ぶイベントはあの演出だったのだ。そしてこのエピソードはビアンカ派にとっては「ゲームをやる前は今回はフローラを選ぼうとしてたのに毎回ビアンカを選んでしまう!」と「あるあるネタ」になってるし、フローラ派からすると本作の主人公はあくまでも1プレーヤーの選択であり、「あなた」は「あなた」で主人公としてフローラを選択すればいいとどちらの花嫁も否定しない形になっている。ここら辺の映画の弱点のフォローの仕方は「ズルさ」も感じるし、「あー、あのシーンは映像化されなかったか…」というションボリポイントに対して「こういうことですから!」とドヤ顔されてる感もあって少し癪に障りながらも「上手くやったな」と感心した。

 

 

  • 最後に…

個人的にはダンジョンの中を主人公がモンスターを倒していくシーンは爽快だったし、お馴染みの音楽が大音量で聴きながらゲームの世界観やモンスターが3DCGアニメで再現されて嬉しかった。特にスライムの質感はプニプニしていて最高だった。ビアンカがサバサバ系に変更されてるのは怒る人もいるかもしれないけど、個人的にはそっちのタイプだから魅力的に映った。

そして何よりゲームをプレイすることをバカにする層に対して、ゲームのプレイ時間も人生の大事な経験値として肯定したのは素晴らしかった。勿論ゲームの世界は作り物の世界かもしれないけど、そこで経験したことは確かな「本物」なんだと改めて実感させてくれる映画だった。だからラストのクレジットが「Fin」ではないのもグッと来た。

ただ欲を言えばラストは主人公がゲームを終えて、ゲームでの経験を糧に再び実人生を歩んでいくという終わらせ方のが良かったというのが本音だ。