スポンサーリンク

『魔人探偵脳噛ネウロ』で得た教訓 原作と映画「同時完結」で避けた『暗殺教室』ジャンプ掲載順での低迷

暗殺教室 21 (ジャンプコミックスDIGITAL)

2020年3月30日、フジテレビで『暗殺教室 卒業編』が地上波初放送される。本作は公開当時、原作と「同時完結」したことも話題となった。

 

  • 明暗分かれたメディアミックス

魔人探偵 脳噛ネウロ 1 [DVD]

暗殺教室

当ブログでは過去に松井優征先生は前作『魔人探偵脳噛ネウロ』のテレビアニメ化失敗を糧に、『暗殺教室』のメディアミックスでは原作ファンを悲しませないためにアニメ・映画製作スタッフと積極的にコミュニケーションを取って成功に導いたという内容を解説するエントリーを書いた。今回は原作漫画にフォーカスを当てていきたい。

 

魔人探偵脳噛ネウロ モノクロ版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

魔人探偵脳噛ネウロ』とは2005年から2009年の4年間『週刊少年ジャンプ』で連載された松井優征先生の初連載作品だ。コミックス累計発行部数は400万部を超え、前述したようにテレビアニメ化もされた。ネウロは「人間の成長」をテーマにした奥行きのあるストーリーに加え、小ネタや時事ネタ、キャラ同士のやりとりやコラージュを駆使した独特の作画などが魅力で、伏線の張り方と回収の仕方も高く評価された。松井優征先生のインタビューでは本作は連載開始前はどのタイミングで連載が終了してもいいように、複数の「理想の終わり方」を用意していた。そして全23巻はその中でも最長プランで、ジャンプ編集部内でも「あんなに、ストーリーが大団円で着地できた漫画も珍しい」と大評判だったという。そのため最終回も「センターカラー」と厚遇され、読者アンケートでは『ONE PIECE』の休載と重なったこともあり、連載初の1位を獲得する「有終の美」を飾った。

 

 

暗殺教室 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

一方で松井優征先生はネウロの結果に納得していなかった。例えばデザイナーである佐藤オオキさんと対談した『ひらめき教室 「弱者」のための仕事論』の中では「『ネウロ』のときにメディアミックスがうまくいかなかったとか、少年誌にもかかわらず大人の意見ばかりを参考にしてしまったとか、そういうエラーがいくつも出てきた。」「稼ぎきれなかった『ネウロ』」など『ネウロ』に対してネガティブな発言をしている。また『ジャンプ流!秘伝ガイド Vol.6 まるごと松井優征』では『暗殺教室』の成功を「すべてを圧倒的な密度で描き、情報量で押す戦略だった『ネウロ』のファンは高年齢と偏りが出て広がりきらなかった。そのため『暗殺教室』では幅広い層に読んでもらうために情報量を削りわかりやすくすることを心がけた」と「『ネウロ』の失敗を『暗殺教室』で生かした」という趣旨の内容が紹介されていた。その結果『暗殺教室』はジャンプの読者アンケートトップの常連となり、コミックス累計発行部数も『ネウロ』より2巻少ない全21巻で2400万部を超えるヒット作品となった。前作の失敗をトライアンドエラーする形で成功を導いた松井優征先生のクリエーターとしての戦略は尊敬するし、ヒットして良かったと感じる。ただ『ネウロ』が好きな自分としては、少し複雑な気持ちになるのも事実だ。

 

 

ちなみに『ネウロ』の連載末期はジャンプでの掲載順が低迷していた。ジャンプの掲載順は読者アンケートの結果を反映させているため、「『ネウロ』は人気がなくなって打ち切りになった」というイメージを持っている人も少なくない。しかし『ネウロ』連載終了後、『ジャンプSQ』に『離婚調停』を掲載した際のインタビューで松井優征先生は、「ネウロのような、雑誌的にお勧めしづらいマンガの場合は、特に商品展開が一通り終わった後は、票よりも大分下の位置に載る事がほとんどだったので…。」で釈明している。一方で『暗殺教室』は実写映画『暗殺教室 卒業編』の公開を控えていたため、ジャンプでは完結5週前からカウントダウンをする破格の扱いを受けた。そのためジャンプの掲載順も上位をキープしたまま、連載を終了した。ここまで考えて原作と実写映画の「同時完結」を打ち出していたのだとしたら、本当に凄い漫画家だなと感じる。

 

 

  • 最後に…

松井優征先生は戦略を練って漫画を作るタイプの作家だ。そのため次回作ではどんな漫画を見せてくれるのか、今から楽しみにしている。

 

mjwr9620.hatenablog.jp

mjwr9620.hatenablog.jp

 

暗殺教室 コミック 全21巻完結セット (ジャンプコミックス)
 
ジャンプ流!DVD付分冊マンガ講座(6) 2016年 4/7 号 [雑誌]