2020年5月29日(金) に日本テレビ系列『金曜ロードSHOW!』で昨年公開され大ヒットを記録した『キングダム』が本編ノーカットで地上波初放送される。
- 人気漫画の実写映画化で久々の大ヒット
本作は累計発行部数6400万部突破する原泰久の大ヒットコミックスを『GANTZ』『アイアムアヒーロー』の佐藤信介監督が実写映画化した作品。人気漫画の実写映画作品は2006年公開の『デスノート』を筆頭に『20世記少年』『GANTZ』『るろうに剣心』と大ヒット作品も多い。その一方で2015年に公開され物議を醸した『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』以降はコメディ色の強い『銀魂』や『翔んで埼玉』、原作知名度が比較的低い『DESTINY 鎌倉ものがたり』など一部作品を除けば、本作の主演を務める山崎賢人主演作品『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』や本作のメガホンを取った佐藤信介監督が本作公開前年に公開した『いぬやしき』『BLEACH』、他にも『テラフォーマーズ』『無限の住人』『鋼の錬金術師』などの数々の話題作品が興行的失敗作に終わっていた。また本作が公開された昨年のゴールデンウィーク興行のラインナップは『名探偵コナン 紺青の拳』『アベンジャーズ エンドゲーム』『名探偵ピカチュウ』と強敵揃い。そのため本作公開前は他の人気漫画の実写映画化作品同様に興行的失敗が不安視されていた。しかし本作が昨年4月19日に全国388スクリーンで封切られると、オープニング3日間で6億9000万円を記録。その後も口コミでロングランヒットを記録して、最終興行57.3億円の大ヒット作品となった。本作の興行記録は2019年度実写邦画興行ランキング第1位、2010年度人気漫画の実写映画化作品興行収入ランキングで第4位となっている。
- 製作費10億円以上、「原作の壮大なスケール」を表現
人気漫画の実写映画化作品において久々かつ文句なしの大ヒットを記録した上で、世間的な評価も高い本作。一方で本作の原作漫画は人気漫画の実写映画化作品の中でも春秋戦国時代の中国を舞台にしたスケールの大きな作品であり、ハリウッドや中国レベルの莫大な予算が投下できない日本では中々ハードルが高い作品だったように思う。この難題に対してのアプローチとして、本作のプロデューサーである松橋真三氏は以下のように語っている。
金銭的なものを含め、どこかで妥協するのではなく、良質な原作にしっかり投資し、良いクリエイタースタッフ、キャストを集めれば、質の高いものはできる
もちろん日本映画としての限界はある。そのため前述したように本作がハリウッドや中国のように製作費三桁億円以上をかけた超大作映画という訳ではない。現に松橋氏は製作発表時に製作費について以下のように言及している。
今世紀の日本映画としては一番お金がかかっている。2ケタ億円
また興行収入の最低ラインとしては以下のような「覚悟」を見せている。
製作時から最低ラインとして「興行収入40億円」という数字は意識していた。もし達成できなければ、佐藤信介監督と松橋プロデューサーは、職を辞する覚悟で臨んだ
実写邦画で興行収入40億円という数字は、昨年公開作品だと本作と『マスカレード・ホテル』の2本、一昨年公開作品だと『劇場版コード・ブルー』『万引き家族』の2本、一昨々年公開作品だと40億円突破作品は0本と、その「最低ライン」が如何に高い数字であるかが伝わってくる。大ヒットシリーズとなった『るろうに剣心』ですら、1作目の興行収入は30.1億円と興行収入40億円を大きく下回っている。つまり「最低ライン」を興行収入40億円とする予算の組み方は、ビジネスの観点からいえば失敗のリスクが高いように思える。
しかし本作の製作陣は日本映画史上トップクラスともいえる製作費を注ぎ込むことで「原作に見合った豪華なセット・衣装・美術・CG」「原作の舞台となっている中国ロケ」を実現し、原作の壮大なスケール感をスクリーンで表現することに成功した。偶に「映画は製作費ではない」という指摘も目にするが、本作のようなスケール感のある作品では上述した要素以外にも「アクションができるエキストラ」や「撮影用の馬」など必要なモノが多い。そのため映画が製作費によって全てが決まるとは思わないが、映画のスケール感を出すためにはある程度の製作費は必要となり、本作はその資金を用意して真っ向から勝負して興行的に勝った作品といえる。
- 脇にベテラン俳優
また本作は王騎役に大沢たかお、楊端和役に長澤まさみと、キャリアを積んだベテラン俳優で脇を固めたのもヒットに繋がった要因に思う。現に公開当時のネットニュースではメインキャラクターの若手俳優を喰う勢いで、大沢たかおと長澤まさみの魅力が語られており、その評判を聞いて劇場に足を運ぼうと決めた人も多かったのではないかと感じる。
- 続編決定!シリーズ構想は!?
\ ついに‼️待望の‼️‼️ /
— 映画『キングダム』公式アカウント (@kingdomthemovie) 2020年5月28日
◤ 映画『#キングダム』 ◥
◣ ⚔️続編製作決定⚔️ ◢#山﨑賢人 さんをはじめ #吉沢亮 さん、#橋本環奈 さんら豪華キャスト陣が再集結!
気になるストーリーや新キャストは…
続報をお楽しみに💥
中華統一への物語は続くーーー pic.twitter.com/qlEd1uE3y1
本作は興行的成功に加え、作品自体の評判も高いことから「続編」の製作も決定している。松橋氏は吉沢亮との対談内で本作のシリーズ化について以下のように語っていた。
松橋 自分のプロデューサー人生において『キングダム』というのは、ひとつの目標でした。これだけの規模の超大作をやることで、プロデューサーとしてもいろいろな形で可能性が開けていくのかなって。
吉沢 次は何をやりましょうかね?
松橋 とりあえず『キングダム』をパート10ぐらいまでやりたいですね(笑)。嬴政(えいせい)を演じている以上、「加冠の儀」のシーンはやりたいでしょ?
最終回 いま一番気になる人と待ち合わせ:本日のお客様 松橋真三さん - 吉沢 亮のTAKE YOUR SEAT | SPUR
本作の1作目は原作の5巻までをベースとしている。原作は現段階までに56巻まで出版されており、現在も連載中だ。そのため人気さえ続けば、パート10まで続く長期シリーズになることもあり得るのだろう。また本作は製作幹事である日本テレビが『金曜ロードSHOW!』というゴールデンタイムの映画枠を持っているのも大きい。大ヒットした映画を地上波で放送することで、続編公開時に地上波放送で入った新規ファンが劇場に駆けつけて更なるヒットが目指せるという、テレビ局製作映画の旨みを存分に味わうことが出来る人気シリーズになっていくのではないかと感じる。
- 最後に…
実写映画版『キングダム』は「お金をシッカリかけて、原作のスケール感を再現する」という一見当たり前に思えるアプローチを取った。一方で一見当たり前と見えることも、色々な不安要素から実行に移すのは中々難しい現実がある。しかし本作の製作スタッフほ「覚悟」を決めて本作の制作に臨み、大成功を収めた。『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』の失敗以降、興行的ヒットに恵まれなかった人気漫画の実写映画化作品だったが、アプローチ次第では可能性に満ちたジャンルであることを改めて証明してくれる作品となった。
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