ネタバレ注意
『アンナチュラル』『MIU404』『ラストマイル』の新井順子プロデューサー、野木亜紀子脚本、塚原あゆ子演出による神木隆之介主演・日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』の最終回が放送された。
- 端島の物語を『タイタニック』形式で…
塚原さんが「過去だけではなく現代のストーリーも取り入れて、映画『タイタニック』で、ヒロインのローズが過去語りをするような構図にできないか」とアイデアを出してくれたんです。
脚本・野木亜紀子氏×監督・塚原あゆ子が明かす、制作のきっかけ&キャスティング秘話。日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』インタビュー|TBSテレビ
本作は謎の老婦人・いづみが新宿・歌舞伎町で売れないホストとして先の見えない日々を過ごす青年・玲央に自身が青春時代を過ごした端島でのエピソードを語っていく物語。脚本の野木亜紀子さんは当初端島の過去パートのみをドラマ化しようとしていたが、演出の塚原あゆ子さんが『タイタニック』形式で「現代から過去を振り返る構図」を提案。現代は海の底に沈没しているタイタニックをローズの記憶から当時の豪華客船の様子を振り返ったのと同様に、本作も現代の廃墟になった端島を物語の起点にいづみの記憶から当時の熱気ある端島の様子が語られるエモくて切ない構成のドラマに仕上がった。
- 野木亜紀子「端島の誤解を解きたい」
エネルギー政策の転換は実際に起きたことで、端島を悲劇的な島だととらえている人は多いかもしれません。でも、故郷を失うという悲しみはありつつも、実際にはそれだけではないんですよね。取材を通して、ただ時代に振り回された島というわけではないと感じたので、今回のドラマで描きたいことの一つとして、その誤解やイメージを解きたいとも思っています。
今回、塚原あゆ子さんの提案によって『タイタニック』形式の構成をとったことで、野木亜紀子さんが抱いていた「今ある端島の誤解を解きたい」というメインコンセプトもより強調されていたように思う。端島は現代の視点からみれば「廃墟」なので、当然「今は滅びた島」だ。そして、その過去を調べればかつては石炭によって日本のエネルギー産業を支えた活気のある島だったが、日本のエネルギー産業の軸が石炭から石油に移り変わったことで「時代に取り残されて、閉山に追い込まれていった悲劇の島」という印象が強く残る。その印象自体は必ずしも間違ってはいないのだろう。ただ端島は東京五輪も開催された高度経済成長の真っ只中の1964年に起きた発火事故、タイタニックに当てはめると氷山との衝突という危機を乗り超え、再び石炭を掘って、最後まで黒字を続けた。
- 沈没しなかった端島
そのため鉄平は世間から「沈没」扱いされることを「最後まで黒字だった」と故郷への誇り(彼は大学時代に炭鉱出身故に差別を受けている)を持って否定する。野木亜紀子さんの「今ある端島の誤解を解きたい」というメインコンセプトが、塚原あゆ子さんの『タイタニック』形式の提案によって「沈没したタイタニックの最期」と「最後まで沈没しなかった端島」という明確な違いによってその事実が強調される化学反応を起こしたのも素晴らしい。その一方で端島が時代に取り残されて廃墟になったのもまた事実である。それは端島が朝子にとって「食堂の朝子」として自分を縛り付ける場所であったのと同時に、鉄平や百合子と共に生涯幸せに暮らしたかった場所という「2つの確かな感情があった場所」であったのと同じである。
- 最後に…
朝子にとって虎次郎と結婚して、子供を持ち、端島から離れて社長業で成功した人生は間違いなく「幸せ」であった。一方で鉄平と朝子の想いが通じ合っていたのも紛れもない事実であり、その想いの結晶は廃墟となった端島で今も輝き続けている。
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