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【ネタバレ感想/考察】人間1人の犠牲でシステムは…/映画『ラストマイル』の「ロッカーの暗号の意味」と「犯人の動機」

【チラシ付き、映画パンフレット】 ラストマイル 満島ひかり、岡田将生、ディーン・フジオカ、大倉孝二

ネタバレ注意

映画『ラストマイル』の考察。

 

  • ずっと放置されたままの暗号

本作では冒頭から物流センター「デイリーファスト」のロッカールームに「2.7m/s→0(→の下に70kg)」との暗号が書かれていることが示されている。パンフレットの野木亜紀子さんのインタビューによると「ずっと放置されたままのものを描きたかった」と語り、どうやら日本のアチコチにある「みんな思ってるけど、みんな言わない、でも誰かがそれを訴えていたら、その改善に向けて行動をする訳でもないけど、だからといってその訴えを忘れる訳でもなく問題意識のみはフワッと待ち続けている」みたいな社会課題へのメタファーとして描いた様子。だからあの文字の意味をみんな分かっているから消さない。無意味な落書きだとは思ってない。でもあの文字が訴えるように状況を改善しようと行動する訳でもない。そのためあのロッカーの文字はそのまま残り続けている。もしかしたらあの暗号も山崎が書いたのではなく(正直、山崎が書いたシーンを見たような気もするし、見てないような気もするので、もし書いたシーンがあったとしたらこのセンテンスは忘れてくれ)、山崎の前からずっとそこにあって、山崎が具体的な行動に移した、という話だったのかもしれない。そしてその文字は物語のラストまで消されることなく、残り続けて、後任の岡田将生演じる梨本にも受け継がれる。

 

 

  • 人間1人の犠牲ではシステムは止まらない

ロッカーの暗号の意味自体は劇中で語られているように「2.7m/s」はセンターのベルトコンベアの移動速度で、「70kg」は重量制限なので、日本の平均的な体型(日本人男性の平均体重は70kg)である山崎があの高さから飛び降りたら、その重さと衝撃でベルトコンベアは止まる、つまり流通の稼働率は「0(%)」になるという意味なのだろう。山崎は過酷な労働によって精神的に疲労して、ブラックフライデーを恐れていた。ただここ1番の時に休む訳にはいかない。少しでも作業が遅れれば会社に損害が生じる。だから動き続けなければならない。でも体や心を壊してまで動かし続けなくてはならないのはおかしい。だからそのシステムを止めてみたくなった。山崎の飛び降りる姿は絶望に向かっているのではなく、軽やかなジャンプで希望に向かって飛んでいるように清々しく、美しさもあった。多分これで「何かが変わる」と期待していたのだろう。しかし、彼の行動は「死んでも止めるな」という指示のもと、ベルトコンベアから床に下ろされて、再びベルトコンベアは動き始める。つまり人間1人(70kg)の犠牲くらいでシステム(2.7m/s)が止まる(0)ことはなかった。少しでも希望を抱いた自分がバカみたいに思える話だ。彼の運ばれた病院で呟いた「バカなことをした」の意味はそういうことだろう。SNSではあの暗号の「0」は「◎(丸が重なっている)」とのダブルミーニングだったのではないか、との指摘もあるが、仮に「人間1人(70kg)の犠牲があっても、システム(2.7m/s)は問題なく動き続ける(◎)」だったとしたら、あまりにも残酷だ。

 

 

  • 犠牲が出ても 「止めませんよ、絶対」

本作の犯人である仁村紗和演じるまりかは山崎の恋人で、荷物に爆弾を無差別に仕掛ける。これは彼女もまたシステムを「止めたかったから」故の犯行だろう。彼女は1人目の被害者に自分を選んだ。もしかしたら「自分1人の犠牲でシステムが止まるかも」という微かな希望もあったのかもしれない。ただ山崎同様に一人の犠牲くらいではシステムは止まらない。それ以降も2件目、3件目、とテロは続き、警察の捜査も入るが、満島ひかり演じる主人公・エレナは「止めませんよ、絶対」とシステムを動かし続けようとする。ここでも「死んでも止めるな」が適応される。人間1人が犠牲になってもシステムは止まらない。2人、3人…と犠牲者が増え続けても「自分の知らない人だから」と割り切ってシステムを動かし続けなければならない。でもエレナも自分が爆弾被害のターゲットになり、別の会社のシステムに疲労して転職してきた梨本に本音を語り、下請け会社の皺寄せを知ることで、彼女は自分自身もまたシステムの中の被害者だと気づく。だからまずはシステムを「止める」、そしてシステムの改善を訴える。どんなに劣悪な状況でも末端の頑張りで何とかするのが日本人の美学だった。でも「もうそういう段階ではない、まずはシステムを変えなくては…」というのが本作のメッセージだろう。

 

 

  • 最後に…

そんなこんなで本作の爆弾テロは「一体何人犠牲になれば、システムは止まるの(変わるの)?」と訴えかけているような内容だったし、その「犠牲」は「爆弾の被害者」に留まらず、「システムの中にいる人全員」が適応されていたのだと感じた。

 

 

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