スポンサーリンク

映画『けいおん!』『聲の形』でスクリーンアベレージ高かった山田尚子監督、『きみの色』は全国273館でOP興行収入1億円割れ

【Amazon.co.jp限定】映画「きみの色」オリジナル・サウンドトラック all is colour within [Vinyl](メガジャケ付) [Analog]

全国273館で封切られた山田尚子監督最新作『きみの色』のオープニング興行収入が9773万円と1億円を割った。勿論、台風の影響もある程度は考慮しなくてはならないが、同じアニメ映画である5週目の『インサイド・ヘッド2』、4週目の『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』、5週目の『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト』、7週目の『怪盗グルーのミニオン超変身』を下回る初登場7位スタートなので、同じ条件の相対評価としても厳しめの結果となってしまった。

 

https://x.com/moviewalker_bce/status/1830764250949918793?s=46&t=udUH1SvaWmPtCdiaLsKY1g

 

  • 初監督作品は「けいおん商法」と揶揄

映画「けいおん!」【TBSオンデマンド】

山田尚子監督の作品には「少ない公開規模でスクリーンアベレージ高め」という印象があった。2011年公開の初監督作品『映画 けいおん!』は全国137スクリーンの公開で、オープニング2日間の興行収入は3.16億円で初登場2位。

「映画 けいおん!」が全国137スクリーンという小規模での公開ながら、初日2日間で約24万人を動員し、興行収入約3億1600万円をあげて初登場で2位となり、好調なスタート

映画興行成績:「けいおん!」が初登場2位 首位は「映画 怪物くん」がV2 - MANTANWEB(まんたんウェブ)

公開当時の記事でも「小規模での公開ながら〜」とのセンテンスが確認出来る。最終興行は19.0億円と当時の細田守監督作品としては最高のヒット作品だった『サマーウォーズ』の最終16.5億円を上回る大ヒットを記録。一方で大量の特典を配布してコレクション欲を刺激することで、観客のリピートを促そうとするスタイルには「特典商法」と揶揄された。

映画「けいおん!」を3回ご鑑賞いただく度に、メモリアルフィルムをプレゼント!
劇場で配布しているリピートポイントシートに、ご鑑賞いただいた
劇場チケット半券を3回分を貼って劇場係員にご提示ください。

TBSアニメーション・けいおん!!公式ホームページ / 最新情報

これは2013年公開『劇場版 銀魂 完結篇 万事屋よ永遠なれ』でも「けいおん商法」とネタにされており、当時同じく揶揄の対象だった「AKB48の握手券商法(CDを一枚購入するごとにメンバー1人と握手ができる券を一枚貰えることから、ファンは同じCDを何枚も購入した)」と並んでファン(オタク)からお金を搾り取る「あこぎな商売」「汚いやり方」との印象が強かった。実際『映画 けいおん』の特典の詳細について確認してみると「特典のメモリアルフィルムをゲットするには3回の鑑賞が必要で、チケットの半券を貼るリピートポイントシートは24回分のスペースが用意されている」など「リピート鑑賞に対する感謝のプレゼント」と言われればそれまでだが、「一回鑑賞すれば一特典貰える」という常識を軽く打ち破ってくるエグさに驚かされる。

メモリアルフィルムはかなりの数存在し、またランダムに配布されるため好きなキャラクターが写っていなかったり、背景しか描かれていなかったりということもありえる

「映画けいおん!」景品商法で熱狂 ファンがチケット買いまくる: J-CAST ニュース【全文表示】

しかもこの3回鑑賞しないとゲットできないメモリアルフィルムはかなりの数存在して、「好きなキャラが映ってない」はまだマシな方で、場合によっては背景しか描かれていないケースもあったという。このやり方は2015年公開の『ラブライブ!The School Idol Movie』などにも引き継がれ、同様の批判を招くことになったが、「リピートしてでも特典が欲しい」と多くの人に思わせるだけの魅力が作品自体にあることが大前提ではある。また2020年代になると「アニメ映画の特典商法」は一般化し、世間からのアニメ映画自体への受け入れ方も大分変化したことから近年はそこまでネガティヴな印象を持たれることもない。

 

 

  • スクリーンアベレージの高い作品群

映画「たまこラブストーリー」【TBSオンデマンド】

話は若干逸れたが、2014年には監督2作目の『 たまこラブストーリー』を公開。

人気アニメの劇場版『たまこラブストーリー』が11位に初登場。24スクリーンの小規模公開ながら、動員2万263人、興収3,168万8,700円という好スタート

『アナと雪の女王』が首位に返り咲き!大ヒットスタートのGW映画に勝利!:映画週末興行成績|シネマトゥデイ

こちらも当時の記事で「全国24スクリーンの小規模公開ながら好スタート」という趣旨のセンテンスが確認出来る。

映画 聲の形

2016年には監督3作目の『映画 聲の形』を公開。

上映館数が少ないながら9月17、18日の映画観客動員ランキングで2位となり、公開120館という規模としては異例の公開12日目にして興収10億を突破

公開120館規模で『聲の形』10億突破 続く“青春ラブストーリー”アニメ映画のヒット | ORICON NEWS

3週目にも関わらず、スクリーンアベレージは1,483,708円を記録し、先週末新たに公開となった邦画洋画の新作を超える動員

映画『聲(こえ)の形』ついに観客動員数100万人突破 | アニメイトタイムズ

当時、全国296館でメガヒット中だった新海誠監督『君の名は。』に次いで、ここでも全国120館という公開規模で、全国323館規模の同日公開作品『怒り』を上回り、観客動員ランキング初登場2位を獲得。1スクリーンごとの収益の平均値であるスクリーンアベレージが高かったことから、「少ない公開規模で沢山の客を動員している作品」としても注目を集めた。

――昨年、上振れした作品は。

大角 一番大きく上振れしたのは『聲の形』です。当初は120スクリーンで10億以上を目標としていましたが、結果として23億です。

【邦画3社 2017年配給ラインナップインタビュー】松竹 大角正常務取締役 - 文化通信.com

口コミで評判を伸ばした『映画 聲の形』はこの公開規模では異例の興行収入20億円を突破して、最終興行23.0億円の大ヒットを記録。当時の松竹の常務取締役によると、その年一番目標から上振れしたのが『映画 聲の形』だったという。

リズと青い鳥

2018年には監督4作目『リズと青い鳥』を公開。

新作アニメ「リズと青い鳥」は全国73スクリーンで公開され、惜しくも11位スタート

【週末アニメ映画ランキング】「名探偵コナン」が2週連続首位、「リズと青い鳥」は11位スタート : ニュース - アニメハック

『リズと青い鳥』に関しては特別スクリーンアベレージが高かった、みたいな話はないが、作品自体は高評価だった。

 

 

  • 新海誠監督のようなメジャー監督への期待も…

キネマ旬報 2024年8月号 No.1946

そんなこんなでこれまでの山田尚子監督作品は「小規模公開で高いスクリーンアベレージを叩き出す作家」という印象が強く、公開規模対比での初動の強さと口コミで作品の興行収入を伸ばしてきたことから「熱心なファンのいる一定のブランド力のある監督」であるように思えた。そのため『きみの色』が「東宝の川村元気プロデューサーと組んでIMAX含めた全国規模の公開」と知った時には、川村元気プロデューサーが『君の名は。』でそれまでマイナー監督だった新海誠監督をメジャー監督に引き上げたように、山田尚子監督も所謂「女性初のポスト宮﨑駿的な枠」として開花させたい、みたいた狙いもあるのかな、と感じた。そして『キネマ旬報 2024年8月号 No.1946』の表紙及び巻頭特集で38ページに渡る「アニメーション監督・山田尚子の世界が動きだす」が掲載されたり、日本テレビ系列『金曜ロードショー』で山田尚子監督史上最高のヒット作にして代表作の『聲の形』が25分拡大枠で放送されたり、NHKで山田尚子監督と新海誠監督の対談が放送されたりと「業界全体で推している感」もあった。しかし結果としては「小規模公開でスクリーンアベレージの高かった監督の最新作を全国規模で公開したらガラガラだった」という状況になってしまい、当たり前ではあるが「そう毎回狙い通りに行く訳はないよな…」なんてことも思ったりもした。

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

ただ『映画 けいおん!』と『映画 聲の形』で興行収入20億円レベルのヒットを記録していた実績と山田尚子監督のブランド力を考慮すると、仮に期待を下回ったとしても同じ川村元気プロデューサーかつ公開が翌年だったことから「第二の『君の名は。』」的な扱いを受けていた『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の最終15.9億円程度の「思ったよりパッとしなかったね」くらいを予想していたので、オープニング興行1億円割れ、最終興行10億円を下回る見込みレベルのコケ方をしたのは想定外ではあった。

 

 

  • 最後に…

第1話 平家にあらざれば人にあらず

今回の結果を受けてSNSでは「作品自体は良かったが、ヒットを目指せるタイプではない」「山田尚子監督ではなく京アニにブランドがあったのではないか」「宣伝ではMr.Childrenの主題歌を押すのではなく、劇中歌を押した方が良かったではないか」「主題歌はもっと今の若者に適したフレッシュなバンドを採用すべきだったのでは」など色々言われている。山田尚子監督作品は京アニを辞めた後のテレビアニメ『平家物語』辺りから主人公らからパッと見のポップな可愛さが薄れ、『きみの色』もその感じを引き継いでいるが、それが京アニファン層からライト層からもソッポを向かれてしまった面もあるのかな、とも感じた。その意味では国民的ヒットを目指すためのチューニングが上手くいっていないような気もするが、そもそも「山田尚子監督に限らず売れそうなアニメ監督をそういう方向でチューニングすることの是非」みたいな「答えのない問い」が前提にあったりもする。

「(初めての東宝配給ということで)宣伝規模の大きさと関わる人の多さにびっくりしましたが、いつも通り、大切にしていることを大切にして、それだけは変えずに完成させられた。」

やさしい「きみの色」の謎を山田尚子監督に聞く(小原篤のアニマゲ丼):朝日新聞デジタル

現にインタビューでは「宣伝規模などとは別に大切にしていることは大切にした」という趣旨の発言もしていた。そんなこんなで山田尚子監督が今後、小規模公開路線に戻すのか、メジャー監督路線に突き進むのか、その間を行ったり来たりするのか、色々と注目の監督ではある。

 

  • オマケ

本人らがどう思っているかは別にして、新海誠監督も細田守監督も「一回、小規模公開を挟んで…」みたいなことは中々言い難いポジションなんだよな…、みたいなことは思った

 

  • オマケ2

そういえば今年はこれまで3年に1回ペースで公開されていた細田守監督最新作の公開がなかった。宮﨑駿監督みたいに年齢と共に公開ペースが空く可能性は否めず、「ポスト宮﨑駿監督的な作品」のルーティン候補を東宝的には増やしていきたいところだろう

 

 

  • 関連記事

mjwr9620.hatenablog.jp

mjwr9620.hatenablog.jp