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「戦艦大和建造計画をぶっ壊す!」山崎貴監督が反戦メッセージを込めた『アルキメデスの大戦』

アルキメデスの大戦

戦艦大和建造計画をぶっ壊す!」

そんな掛け声も聞こえてきそうな山崎貴監督最新作『アルキメデスの大戦』の感想。

 

アルキメデスの大戦(1) (ヤングマガジンコミックス)

本作は『ドラゴン桜』の三田紀房原作の同名漫画を『ALWAYS 三丁目の夕日』『永遠の0』の山崎貴監督が実写映画化した作品。山崎貴監督は過去にも数々の人気原作を実写映画化してきたヒットメーカーだが、その原作は基本的に完結済みで終わり方が分かっている作品、もしくは『三丁目の夕日』『鎌倉ものがたり』のような1話完結の日常モノで実写向けにオリジナル設定やストーリーを作ってアレンジしやすい作品だった。しかし本作は「戦艦大和建造計画を止める」という明確な目的があるストーリーマンガにして未完。今までの山崎作品の原作とはタイプが違う。更に原作で主人公が成し遂げようとする「戦艦大和製造計画を止める」という目的は、史実的に失敗することは明白。つまり山崎監督は原作でまだ描かれていない「戦艦大和は何故作られてしまったのか?」という問いに、映画オリジナルの答えを出さなくてはいけないという難しい立場に立たされていた。

 

 

  • オープニングで大和沈没シーン

大和を題材にした映画は白眉である大和沈没シーンをクライマックスに配置して、その悲劇性を演出するケースが一般的だ。しかし本作ではその大和沈没シーンがオープニングの5分半で全て描かれてしまう。このシーンは山崎貴監督が得意とするVFXをふんだんに使い、今までの大和映画では予算や技術の関係で再現出来なかった転覆シーンまで見事に演出している。更に『永遠の0』の真珠湾攻撃と同じく爆発を下から撮って人が吹っ飛ぶシーン、被弾した米兵を米軍の救助船が救出して日本兵が絶望するシーンなど映画全体に使用しているVFXカット数200のうち半分の100を使って大迫力の映像を完成させている。また本作の大和沈没シーンは歴代の山崎貴監督作品のようにハリウッド大作である『タイタニック』の表面上のリスペクトに留まらず、「史実通りの沈没シーンをVFXで忠実に再現する」という本質的な部分をリスペクトしているのも評価ポイントだ。

本作の原作者は当初TBSテレビの日曜劇場からオファーが来ることを密かに期待していたとインタビューで答えていたが、やはりこのレベルの大和沈没シーンを描けたという事実だけでもテレビドラマより製作費を注ぎ込むことが出来る実写映画化されたという意義は生まれただろう。

 

  • 大和製造計画を止めようとする数学者

オープニングの大和沈没シーンが終わると物語は「航空戦を見越して空母を作りたい藤岡案」と「世界最大の巨大戦艦を作りたい平山案」が対立する会議が行われている9年前まで遡る。本作は原作の1〜3巻をベースに「主人公が帝大を退学になった理由と戦艦大和製造計画が関係していた」「ヒロインの活躍が増える」「大里(原作の鶴辺)造船の場所は大阪」等、映画用に様々なアレンジを加えながら1本の劇場用映画としてダイジェスト感なく成立させている。また原作と異なりオープニングで戦艦大和の沈没シーンを観せることで「大和製造と沈没は史実通り避けられない現実」ということを認識させ、原作以上に彼ら彼女らの苦労や努力、喜びの描写に切なさを産むことに成功している。

 

山崎貴監督作品のキャラクターをデフォルメしてオーバーアクトさせる演出は賛否が割れる部分だが、本作は三田紀房先生の原作自体がオーバー演出の連続のため見事にハマっていた。主人公を演じる菅田将暉黒板に音を立てながらチョークで数式が書き込む音が劇場に響き渡り緊迫感が演出できるのも映画ならではだ。もしかしたら『ダンケルク』公開時に対談した時にノーラン監督が「緊迫感を出すために時計のチクタクという音を使った」というアドバイスを参考に「チョークで黒板に書き込むときの音」に応用したのかもしれない。

また山崎貴監督作品の欠点としてクライマックスで観客を感動させようとする結果、テンポが悪くなるという指摘が多い。しかし本作では原作がテンポの良い会話劇なのでその欠点も解消されている。

 

 

以下ラストネタバレ

 

主人公は会議内で数学の力を使い見事に戦艦大和製造計画を破棄させることに成功する。しかしオープニングの大和沈没シーンからも分かるように、この世界でも史実同様に戦艦大和は製造され悲劇的な最期を迎える。では何故映画の世界で戦艦大和は製造されたのか?それは主人公が戦艦大和の製造費を割り出すために自分の手で大和の製図を書き起こした、つまり自分の手で大和を一度作り出してしまったことで「戦艦大和の実物を見てみたい」と思ってしまったからだ。主人公が戦艦大和の製図を描くシーンで実写映画版では原作にはない主人公の表情が描かれる。その表情は子供がおもちゃで遊んでいる時のような楽しそうな笑顔。彼は悪魔のように美しい巨大戦艦「大和」の虜になってしまっていたのだ。

最終的に戦艦大和が製造されることになる理由は平山の「日本人は負け方を知らないから、日本が戦争に負けたという象徴として絶対に沈まないと国民が信じ込んでいる大和が沈没することで国民の目を覚まさせる」という考えに同意したからだ。当然間違った方向に進み暴走を続ける日本人に対して「残酷な現実を実際に突きつけることで戦争を止めたい」という気持ちも主人公にはあったのだろう。ただ個人的にはその理屈は「戦艦大和を見たい」という数学者としての純粋な欲望を正当化させるための言い訳だったのではないかと感じた。そしてそれは山崎監督含めて誰もが抱く欲望であり、主人公が見せた笑顔が理解出来る分、その怖さをより肌で感じることが出来た。

 

本作のラストは戦艦大和の初出航を見送る主人公が「大和は日本国そのものだ」と発言して涙を流して終わる。その隣で何も知らない軍人が「はい!日本国そのもののように立派な戦艦であります!」と笑顔で発言しているのがなんとも言えない複雑な感情を込み上げさせる見事な演出だった。戦艦大和が向かう先はこの先の悲劇を暗示するかのような暗雲が立ち込めていた…

戦時中の日本人が抱き肥大化した様々な欲望や思惑が具現化したような戦艦大和。その戦艦を国民は沈まないと信じ込んでいたが、米軍の攻撃によってあまりにも無様な最期を迎えた。「戦時中の日本は狂っていた」と評する意見をよく目にする。しかし自分からすれば今の日本も十分狂っている。それは事実確認もなく感情論だけでSNSに投稿された意見が物凄い勢いで拡散され、暴走していく様子を見れば明らかだ。近年のSNSの状況を見る限り、何かキッカケさえあれば国民感情は凄い速さで頂点に達して簡単に戦争に向かうだろう。それだけ今の日本に充満する空気には危機感を感じてしまう。だからこそ今の時代にこの映画が作られた意義は大きいと思う。また『3年A組-今から皆さんは、人質です-』に続き、今の日本に充満するヤバい空気に警告を鳴らす作品に連続で主演した菅田将暉にも敬意を表したい。

そして人気コミックの実写映画化としての観点からも原作をベースにアレンジを加え一本の映画としてまとめるだけでなく監督独自のメッセージも入れ込み、尚且つそれが原作のイメージを損ねなかったというのは凄い。本作は原作のラストのハードルを大きく上げた人気コミックの実写映画化の成功作であることは間違いない。

 

(C)2019「アルキメデスの大戦」製作委員会

 

 

  • 最後に…

今までの山崎貴監督作品は「VFXが主役であり物語が脇役」というイメージが強かった。しかし本作は監督が訴えたかったメッセージを引き立てるためのVFXとなっており、監督が常々インタビュー内で語っている理想の形になっていた。山崎貴監督作品史上最高傑作といっても過言ではないクオリティだと感じた。