『賭博堕天録カイジ 24億脱出編』を最新4巻まで読んだ。『カイジ』は多くの人にとってはテレビアニメ化もしくは実写映画化された『第3章「欲望の沼」』までのイメージが強いと思う。というか、ニワカな自分はそうだった。何より『第4章「渇望の血」』の最初のギャンブルは『変則麻雀「17歩」』と麻雀のルールを知らない人にはややハードルが高い。テレビアニメや実写映画で入ったライト層はここでの脱落率が意外と高いのだ。
ただスマホのアプリゲームで点数換算は出来ないモノの薄ぼんやりと麻雀のルールを知っていた自分は何とかこの『変則麻雀「17歩」』編を読破。麻雀のルールを知らず脱落していった知人たちの屍を見事に超えて『和也編』に辿り着いた。和也とは帝愛グループ会長の実の息子。会長の息子故周囲にはチヤホヤされるも本当の友情を得ることが出来なかった和也は人間不信に陥っており、恋人や友人グループなどに自身が考案したギャンプルに挑ませて関係が壊れ、人間の醜いホンネを浮き彫りになる様子を小説として執筆するのが彼の唯一の生き甲斐だった。カイジは『ワン・ポーカー編』で和也と24億円と自らの命を掛けたギャンプルに挑み見事勝利。僅か半日程度の話を40巻くらい費やして描いてることからネットとかでは「引き伸ばしがヤバい」「『アカギ』の鷲巣麻雀みたいになってきた」と非難する声も多いらしいが、単行本で一気に読む分にはそこまで気にならない。リアルタイムで週刊連載を読んでいる層やコミックスを1巻ずつ購入している層には地獄だろうが…
ただ個人的に違和感を感じたのはカイジが和也に勝った際に、何故か24億円を黒服にバレないようにトンズラしようとして『24億脱出編』が開幕してしまったこと。確かに和也は自身が追い込まれた時にはイカサマをするタイプの人間。決して全幅の信頼を置いてはいけない。しかし負けたギャンブルの24億円を払わずゴネるというのは考えにくい。特にカイジに命を救ってもらった直後なら放心状態で金を支払うと考えるのが自然な流れ。仮に黒服がゴネたとしても和也なら止めるだろうし、カイジが恐れる会長も『沼編』の様子から金を払うことをゴネるタイプとは思えない。激昂したとしてもその代償を和也のお供としてついていた黒服に払わせるタイプだったと感じる。何だかこのシーンでは急にカイジの頭が悪くなって、独り相撲してる感がハンパないなと思ってしまった。
ただ意外にも帝愛の黒服たちも特別捜索本部を設置してカイジたちの捜索にあたり始めたからビックリ。今年日大が悪質タックル事件等で助成金を約32億円減らされても年間収入2600億円だからビクッともしなかったという話を聞いて「凄いな」と感じたこともあってか、帝愛が24億円程度でアタフタと捜索本部を設置し始めたのが少し残念に感じてしまったのだ。しかもこの24億円はカイジに不当に取られた金ではなく、ギャンブルをした結果のお金だから「帝愛は意外とケチだったんだな…」とガッカリしてしまったのだ。
「何だかな…」と感じて読み始めた『24億脱出編』は、300万円を貸してくれた坂崎に金を返そうとする一悶着には「こんなのサッサッと現金そのものを見せれば解決だろ!」と当初はイライラしていたのだが何故か段々登場人物の思考が全員バカすぎて逆に面白く感じ始めてしまった。
『24億脱出編』はカイジたちがギャンブルで勝ったお金24億円を持って逃げるだけの話だからギャンブルでも何でもないんだけど、第4章以降目立っていた心理描写での引き伸ばしが殆どなく、スピンオフマンガ『中間管理職トネガワ』を思い起こさせるコメディタッチとノリでテンポよく楽しく読める。車が運転出来る唯一の仲間が帰ってこないからカイジが真剣に合宿で免許取得を考えるシーンは笑えるし、懐かしの過去キャラが強キャラっぽく出てくるも深読みしすぎて空回りしているとか本人たちは真剣に行動している分、実際に起きていることのバカらしさとのギャップが堪らなく面白い。もしかしたら福本伸行先生がスピンオフ作品を読んで、シリアスなタッチでバカをやるタイプの作品を描いてみたいと思ったのかもしれない。
そもそも会長が本件をどう捉えているか分からない以上、黒服たちの過剰な忖度の可能性もあるので、今後どう転ぶかは不明だがこのまま突っ走ってくれることを願う。