NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』の初回が放送された。
- SNSで炎上しがちな「吉原」
本作は江戸のメディア王・蔦屋重三郎を主人公とした作品。蔦屋は江戸幕府公認の遊郭である吉原で生まれた人間なので、当然ドラマの舞台も吉原になる。ただ近年SNSでは吉原絡みの炎上が後を絶たない。例えば2021年にはテレビアニメ『鬼滅の刃 遊郭編』の放送が発表された際に 「遊郭を子供にどう説明すればいいのか」「遊郭は子供に悪影響」などと炎上。また2024年には江戸時代につくられた幕府公認の遊郭・吉原にまつわる浮世絵などを集めた美術展「大吉原展」が「吉原の華やかな文化面を強調して美化している」などと炎上。そして本作にも一部から「吉原を煌びやかに描いて美化するのではないか」などと懸念する声が上がっていた。
- 吉原は「江戸の繁栄を象徴するスポット」も…
鈴木 江戸の人間にとって、吉原ってのは自慢の土地なんです。もちろん、そこには女性たちの悲惨な境遇があって、その点はきちんと直視しなくちゃいけない。ただ、事実として、吉原というのは江戸の繁栄を象徴するスポットだったんですね。日常生活ではありえないような豪華な設しつらえの空間があって、一流の食べ物と、一流の酒と、一流の芸がある。そして一流の女性がいる。
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そんなSNSではセンシティブな話題にもなっている吉原だが、本作の時代考証・指導を担当する蔦重研究の第一人者・鈴木俊幸さんは吉原を「女性たちの悲惨な境遇があって、その点はきちんと直視しなくちゃいけない」とした上で 「江戸の繁栄を象徴するスポット」と解説。そのため初回放送では江戸のメディア王を扱う作品らしく綾瀬はるか演じる九郎助稲荷の擬人化がスマホで吉原を紹介し始めるポップな演出で始まり、 女郎たちが貸本で文学を楽しんでいる様子などの「吉原の文化的な側面」や小芝風花演じる女郎の煌びやかなシーンなど「吉原の華やかな場面」などが描かれて画面的に活気のあるシーンも多い。
- 女郎の全裸死体、描かれる「吉原の負の側面」
一方で本作では吉原の華やかな場面だけを描くのではなく、吉原の遊女の中が「格差社会」になっていることや女郎が食べることにすら困っているにも関わらず吉原を運営している上層部は贅沢三昧をしており、女郎の処遇に対する抗議には「何処にでもいるレベルの女郎なんてどんどん死んで入れ替わってくれた方が客も楽しみなんだよ!」と切り捨てるなど「吉原の負の側面」もちゃんと描いている。特に衝撃的だったのは病気で亡くなった女郎が服を売って金を儲けるために全裸で捨てられているシーン。勿論、実際の当時の死体はあんなモノではなかったのだろうが、令和の地上波で尻の割れ目まで丸出しの裸の女性が土の上で4体杜撰に置かれているシーンは女郎が如何に「人間扱いされていなかったのか」を視覚的に訴えてくる。
- 最後に…
舞台が吉原なので、そこから目を背けないようにしています。美化するつもりはないですし、(性産業は)現実にある産業なので。そこを特に強調するわけではなく、さげすむこともなく、普通にある世界として捉えている
お子さんにはなかなか話しにくい話題も出てくると思いますが、女郎さんも人なんだって。性産業に従事しているのも、自分と同じ人なんだって。これを見て想像ができる大人になる、その肥やしにしてもらいたいなと思っています
べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~:インティマシー・コーディネーター導入 脚本・森下佳子「お子さんにはなかなか話しにくい話題も出てくると」 - MANTANWEB(まんたんウェブ)
本作は大河ドラマ初のインティマシー・コーディネーターが導入された作品のため「かなり攻めた濡れ場シーン」を期待した人もいたみたいだが、その意味では今回の女体の使い方は作品からの明確なメッセージと覚悟を感じる。それは製作陣の発言を見ても明らかだ。その上で、性産業を蔑むこともなく、当時の吉原で生きていた人々の姿を描いていくらしいので、この先も非常に楽しみである。
- 追記
「大河ドラマ『べらぼう』の凄さは吉原の悲惨さより識字率の高さなど文化面を描いたところでは?」的な指摘を見たが、確かに『鬼滅の刃 遊郭編』も含めた時代劇の吉原描写で吉原の悲惨さに触れない作品って滅多にない反面、女郎たちの教養面に触れている方が珍しい気がする。
- 追記2
「吉原を美化している」炎上は回避したけど、全裸死体に関しては物議を醸している様子。中には「NHKの覚悟のために女性ばかりが体を張らされる」という趣旨の意見もあったが、問題の本質は演じる女性側と撮影サイドにちゃんと合意があったかどうか、そして事前の撮影条件が両者の間で守られていたかどうかではないか。その一方で真偽不明ながら「現場に子役がいた」との話もあり、「本当に大丈夫だったのか?」と懸念の声が出るのも分かる。
- 追記3
ドラマの流れの中であのシーンを見た人とSNSで切り取られた静止画だけを見た人だと印象が違う面もあるのかもしれない。
- 追記4
『べらぼう』インティマシー・コーディネーター浅田智穂「監督のこういう描写にしたい、という思いをとても大事にしています。それに俳優さんが同意できるかできないかを時々で考えながらやっていくのが私の仕事/目標にしているのは皆で作り上げる良い作品」#大河べらぼう https://t.co/nLNcx8aImt
— ゴミ雑草 (@mjwr9620) 2025年1月6日
「インティマシー・コーディネーターが入ってた意味ないじゃん…」との批判もあるが、撮影現場で子役が女体を目撃する状況にあった件とは別に、インティマシー・コーディネーターは製作サイドと俳優サイドの意向をすり合わせる仕事なので、制作サイドの要求に俳優サイドがOKを出せばヌードシーンも普通に撮影される。
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