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過去と今と未来を繋ぐ「決してひっくり返らない正義」、今田美桜主演・NHK朝ドラ『あんぱん』の不評なオープニングの擁護

あんぱん

NHK朝ドラ『あんぱん』は作品自体の評価は好評な反面、オープニングが不評な印象を受ける。

 

  • 劇中の時代設定と異なる現代的なオープニング

SNSでは「劇中の時代設定に対して、オープニングの時代設定が現代で馴染まない」という趣旨の意見が多い。実際、主演の今田美桜のオープニングでのビジュアルは劇中の時代設定を反映させた髪型や服装ではなく、今っぽい格好をしている。また背景も劇中の時代設定ぽっさはなく、何処かMV風なのも不評の要因のようだ。

 

 

  • やなせたかしが辿り着いた「正義」

やなせ氏は第二次世界大戦では砲兵として中国に駐留していた。大東亜共栄圏の美名のもと「正義の闘い」だと信じていたものが、戦後、侵略戦争だと知った。「天皇陛下万歳」と叫んでいた者たちが「民主主義」に走り去っていく姿も見た。全ての正義が相対化されていくなかで、絶対的な正義とは何か考えていって、突き当たったのが飢えに苦しんだ兵隊時代の記憶だった。そこから「自分を食べさせて人を救う」ヒーローが生まれた。

やなせたかし氏 日本人の正義とは困った人にパン差し出すこと|NEWSポストセブン

ただ個人的には今回のオープニングは結構気に入っている。『アンパンマン』の作者・やなせたかしは若い頃に戦争を経験しているが、この世代がよく口にするのは「国や大人は信用出来ない」という趣旨の言葉。その背景には戦争中は子供の頃から「国のために戦うのが正義」と教わって、戦争に駆り出されたのに、敗戦を機に「戦争は良くなかった」「日本は間違っていた」と手のひら返しされた経験にある。そのため、今回の朝ドラの冒頭はやなせたかしをモデルにした主人公の夫・柳井嵩による「正義は逆転する」「信じられないことだけど、正義は簡単にひっくり返ってしまうことがある」「じゃあ、決してひっくり返らない正義ってなんだろう」という問いと、彼が導き出した「お腹を空かして困っている人がいたら、人からのパンを届けてあげることだ」との見解から物語が始まる。要は「時代や国、人によって正義は簡単に変わってしまうけれど、『みんなでパンを食べて笑顔になる』はどんなに時代が変わっても変わることのない普遍的な正義」という認識だ。それ故にアンパンマンはお腹を空かして泣いている子どもたちにアンパンで出来ている自分の頭をちぎって渡して、食べさせることでみんなを笑顔にしているのだ。

 

 

  • 過去と今と未来を繋ぐオープニング

この視点でオープニングを見返すと、背景の建物がどんどん変わっていくのは「常に時代は変わっていくこと」、現代のビジュアルの今田美桜が暗闇の中で進む道を迷っている様子は「戦中、戦後で正義の価値観が大きく変わったように、過去と未来の狭間にいる我々は今後も予測不能に変化していく今をどのように生きるのが正しいのかは悩ましい」、的なことを表現しているのだろう。現にRADWIMPSによる主題歌「賜物」の歌詞でも「かさばっていく過去と視界ゼロの未来 狭間で揺られ立ち眩んでいるけど」と歌っている。そうした行く先の分からない暗闇の中で今田美桜を導いてくれるカラフルな光の線は終盤で「アンパンマンのイラスト」を描くことから、「いつの時代も変わることのない、やなせたかしがアンパンマンで描いた決してひっくり返らない正義」のメタファーなのだろう。そのため人類の歩みを表しているような数々の足の跡にも、崩れて道がない場所でも、途切れることなく常に我々の側で我々を導いてくれる、的なことを表しているのだろう。

 

 

  • 最後に…

そんなこんなで個人的には今回のオープニングは時代設定を現代にすることで、「昔の話」ではなく「今、そして未来にも繋がっていく話」を表現しているように思えたので、かなり肯定的。タイトルバックを制作した映像ディレクターによると、今田美桜は視聴者の代表であり、この世界の案内役だという。

 

 

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