細田守監督『果てしなきスカーレット』の興行収入に関して、SNSでは「爆死」「大コケ」「着席率4%」「果てしなきスカスカ座席」「奥寺佐渡子脚本は『国宝』、細田守脚本は『酷評』」など散々な言われようになっている。しかも公開初日が終わっていない段階で「109シネマズ大阪エキスポシティ」の既に発表済みだった月曜以降のIMAXの上映回数が急遽減らされて戦慄が走ったり、某料理研究家がSNSで「金銭の発生しないPR動画」を依頼されて事前に鑑賞するも内容が分からなくて結局辞めたことを暴露したりするなんてことも発生した。細田守監督バッシングが果てしなく続く荒れ果てたSNSで、細田守監督作品への好意的な感想がメインで見れるのは、はじめしゃちょーの『未来のミライ』副音声配信(意外に実況との相性が良い)のチャット欄とコメント欄くらいである。
https://x.com/109_osakaec/status/1991756099788452286?s=46&t=udUH1SvaWmPtCdiaLsKY1g
https://x.com/ore825/status/1992121123681845338?s=46&t=udUH1SvaWmPtCdiaLsKY1g
- 『未来のミライ』を大きく下回るオープニング
概算数字です。『果てしなきスカーレット』は金~日の動員13万6000人&興収2億1000万円。11/24含む4日間で動員17万人&興収2億7000万円となっています。
— 元編集長の映画便り (@moviewalker_bce) 2025年11月25日
初日からの3日間概算累計興収で動員2位『未来のミライ』が5.04億円、動員4位『BLEACH』が1.77億円というスタートになりました。『未来のミライ』は前作超え(58.5億円)がかなり難しい数字で、『BLEACH』も最終10億に届くかどうかな数字です。どちらも夏映画の盛り上げに頑張ってほしいところです
— 元編集長の映画便り (@moviewalker_bce) 2018年7月24日
実際、本作のオープニング3日間の興行収入は2.1億円、月曜の祝日振替を含めた4日間でも2.7億円で、週末観客動員ランキングは同日公開の『TOKYOタクシー』だけでなく、公開4週目の『爆弾』にも敗れる初登場3位スタート。これまでの細田守監督のフリー以降の興行収入は『時をかける少女』が最終2.6億円、『サマーウォーズ』が最終16.5億円、『おおかみこどもの雨と雪』が最終42.2億円、『バケモノの子』が最終58.5億円、『未来のミライ』が最終28.8億円、『竜とそばかすの姫』が最終66.0億円と推移してきたが、本作はフリー以降唯一興行収入が右肩下がりだった『未来のミライ』のオープニング3日間の興行収入5.04億円を大きく下回る大惨敗だ。本作のオープニングは『未来のミライ』対比で41.66%のスタートなので、単純計算で最終12億円程度の見通しとなるが、『未来のミライ』が夏休み公開だったのに対して、本作は冬休み興行を狙った11月公開なので、「果たして冬休み興行までどの程度回数が維持できるのか…」と最悪10億円を割る可能性も否定出来ない。
- 海外と映画祭を見越した「戦略的冬公開」も…
細田守監督、新作「果てしなきスカーレット」
— ゴミ雑草 (@mjwr9620) 2024年12月23日
→“超大作”であることからこれまでの3年に1作というペースを超える制作期間が必要/日本はもちろん、海外でもどうやったら興行が1番盛り上がるのか、また映画祭のことなども含め「戦略的」に考えた結果、来年の冬公開という結論に https://t.co/8KgH3gNRWk
昨年12月の製作報告会では本作を「超大作」と位置付け、「日本はもちろん、海外でもどうやったら興行が1番盛り上がるのか、また映画祭のことなども含め『戦略的』に考えた結果、来年の冬公開という結論に至った」と発表していた。11月公開で海外公開と映画祭の波に上手く乗って、日本での興行収入を伸ばした例として、一昨年公開の山崎貴監督『ゴジラ−1.0』は記憶に新しい。『ゴジラ−1.0』は「ゴジラブランド」で大ヒットスタートとなったが、その後の公開1ヶ月間は最終44.4億円の『シン・ウルトラマン』とほぼ同じ一般的な右肩下がりの推移(週を重ねるごとに勢いが下がるのは普通のこと)を辿っていた。しかし12月上旬のアメリカ公開のヒットが日本でも話題になったことで、冬休み興行に向けて多くの新作が公開される中でも高推移の興行を維持して年末年始を乗り切り、更に年明けからは米国アカデミー賞への視覚効果賞のノミネート、受賞と話題性を維持し続けることでロングランヒットとなり、最終76.5億円まで伸ばした。本作も12月からアメリカでの先行公開が決まっており、製作発表会で「映画祭」に触れたことなどを踏まえると、「細田守監督ブランドで日本で大ヒットスタート→アメリカでのヒットもあって、ライト層の中でも話題になり冬休みも大ヒット→更に米国アカデミー賞の長編アニメーション部門など海外の名誉ある賞にノミネートされることで年明け以降もロングランヒット」みたいな「『ゴジラ−1.0』のヒットの再現」を狙ったと推察される。
- 初日から大コケはブランド崩壊?ルック変更?
『果てしなきスカーレット』細田守「今まで爽やかな映画と言っていましたが、毛色が違うと感じられるかも/非常に強いまなざしを持って、混沌の世界から希望を見て、果てしない遠くを見ている絵/(セルアニメでもCGでもない)全く別の新しいルックでアニメーションの可能性を〜」 https://t.co/dBvODvWnFF
— ゴミ雑草 (@mjwr9620) 2024年12月23日
その意味では本作は第一歩目から躓いてしまったのは明らかだが、「これまで『未来のミライ』を含めて一定のオープニング興行を記録してきた細田守監督作品が、今回は何故酷評が広まる前のオープニング段階でここまでスルーされてしまったのか」との疑問は出てくる。SNSでは「『時をかける少女』『サマーウォーズ』で貯めた貯金を『バケモノの子』以降の細田守監督単独脚本作品の不評によって使い切り、『細田守監督ブランド』が崩壊した」との指摘がある。更に本作はこれまでの夏公開から冬公開に移行して、これまでの細田守監督作品のトレードマークであり魅力だった「夏の青空と入道雲」「現実世界の延長線にあるSF、ファンタジー」などの要素を捨てて、ルックを手描きアニメからセルアニメ風の3DCGを中心にした完全ファンタジーに作風を変えてきたことで、「コレじゃない感」が漂いスルーされやすい状況(何となく絵柄やキャスト変更が離反のキッカケになりやすい傾向はある)が生まれたのかもしれない。また今年は『国宝』『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』と最終100億円超えクラスのメガヒット作品が現在も絶賛公開中で、『爆弾』のスマッシュヒットとも重なったこともあり、口コミによって「安牌」とも言える作品が複数ある中で敢えて「野心的な挑戦作」の細田守監督作品が選ばれにくかった面もあるのだろう。冬休み興行に向けて12月には『ズートピア2』の公開が控えており、現在の散々な酷評寄りの評判やオープニング興行による「爆死」イメージ(別に間違いではない)を踏まえると、今後も中々厳しい推移が予測される。
- 最後に…
世の中には細田守監督と新海誠監督の違いが付いてない人も少なくない(現にはじめしゃちょーの『未来のミライ』副音声配信のチャットでも「細田守監督で嫌いなのは『すずめの戸締まり』」「細田守監督は『天気の子』しか知らない」的な書き込みを見かけた)ようなので、本作の映像のみを使った【予告1】段階のような宣伝ではそもそも細田守監督最新作とライト層に認知されなかった可能性もある。そのため【予告2】では細田守監督の過去作品の映像(『未来のミライ』は除く)をふんだんに使って、細田守監督が新たな挑戦をしたことを強調する宣伝になっていたのは東宝的な危機感の表れだったのかもしれない。
- オマケ
週末観客動員数ランキングで細田守監督にとって因縁深い『ハウルの動く城』以来21年ぶりにタッグを組んだ倍賞千恵子と木村拓哉の共演作『TOKYOタクシー』に敗れたり、オープニング興行発表日に奥寺佐渡子脚本の『国宝』が実写邦画歴代No. 1ヒットを更新(東宝にとってリアル「良いニュースと悪いニュースがある」状況)したり、冬休み興行で新境地の最新作がケモナー映画『ズートピア2』に苦戦を強いられることが予測されるなど、運命の悪戯的なモノも感じる。
- オマケ2
正直、近年の「公開日まで極力映像は見せずに、情報を絞っていく戦略」に反して、公開前から「渋谷のダンスシーン」の映像を見せ始めた頃から、「もしかして前売りの捌け方が悪いのかな…」という気はしてた。
- オマケ3
「逆に『竜とそばかすの姫』は何であんなヒットしたんだよ」とのツッコミがあるが、純粋に代表作の『サマーウォーズ』と同じインターネット空間を舞台にヒット映画の法則であるミュージカル要素を盛り込んで、圧倒的なビジュアルと音響を提供したのが大きかったのだろう。「コロナ禍で他に観る映画がなかったから」との指摘もあるが、多分コロナ禍関係なくそれなりにヒットしたとは思う。また個人的には「何であんなヒット」ではなく「あれだけストレートに興行的に当てに行って、100億円超えまで伸び切らなかった」との認識。
- オマケ4
細田守監督最新作がここまで盛大なコケ方をすると、『君たちはどう生きるか』で事前に映像を全く見せずにオープニング4日間だけで21.49億円稼いだ宮﨑駿監督のブランド力の強さを改めて実感させられた。
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