『スパイダーマン：ノー・ウェイ・ホーム』が、かつて海外マーケティングで一番の市場とされていた日本での公開を前にシリーズ歴代最高興行収入を記録したという。今回は歴代の『スパイダーマン』映画を興行収入を軸に振り返る。
- サム・ライミ監督版『スパイダーマン』
『ゴジラで負けてスパイダーマンで勝つ-わがソニー・ピクチャーズ再生記-』によると『スパイダーマン』シリーズ以前のソニー・ピクチャーズは1997年公開のウィル・スミス主演『メン・イン・ブラック』が同年公開のスティーブン・スピルバーグ監督の大ヒット映画の続編『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』を超える大ヒットを記録する一方で、シリーズ化を狙った1998年公開のローランド・エメリッヒ監督作品『GODZILLA』の興行は振るわず、「ソニーはウォークマンで得た莫大な利益をアメリカの映画道楽に耽ることでドブに捨ててる」と国内外のメディアから批判されていた、という。
そんな「SONYのお荷物部署」が「SONYを支える柱」となる要因の一つが、2002年公開のサム・ライミ監督『スパイダーマン』の成功だったという。本作は最先端のVFXを駆使したアクション超大作映画であるだけでなく、ニューヨークを舞台にした作品でありながら、製作期間中に9.11が起きてしまったため、撮影されていた映像からワールドトレードセンターをCGで消すなど追加作業に追われ、製作費が1.39億ドルに達してしまった作品。これでコケれば目も当てられないが、結果はオープニング3日間で初めて1億ドルを突破した大ヒット作品となり、全米興行だけで4.03億ドル、世界興行も8.21億ドルを記録。日本でも先行上映を含む週末2日間で12億円を超えで当時の歴代6位のスタートを切り、最終興行は75.0億円を記録し、その後は地上波でも繰り返し放送される人気映画となった。
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続く2年後の2004年に公開された『スパイダーマン2』では製作費が前作の1.39億ドルを大きく上回る2.00億ドルを投下。そして期待通りに公開初日だけで4040万ドルを稼ぎ、当時の公開初日の歴代新記録を達成し、全米興行3.73億ドル、世界興行7.83億ドルの大ヒットを記録。一方日本では先行上映含む週末2日間で10.85億円の好スタートを切るも、3週目の『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』に敗れ初登場2位に甘んじるハイレベルな戦いを強いられていた。それでも最終興行は67.0億円を記録する大ヒットとなった。
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更にその3年後の2007年に『スパイダーマン3』が公開。本作はニュー・ゴブリン、ヴェノム、サンドマンと3体のヴィランが描かれたことから、製作費は当時としては最高額の2.58億ドルを投下。そして初日興行収入5930万ドル、オープニング3日間で1.51億ドルを稼ぎ、3作連続歴代新記録更新のスタートを記録。一方で全米大手批評家サイト「ロッテントマト」の批評家支持率は前2作が90%を超えていたのに対して、本作の評価は63%、観客支持率に至っては51%と惨敗で、その悪評も影響したのか2週目で大ブレーキ。最終的に全米興行は3.36億ドルと前2作から右肩下がりのシリーズ最低興行となった。しかし世界最速公開された日本では週末2日間で12.07億円、火曜初日からのオープニング6日間で31.8億円を記録する大ヒットスタートを切り、最終興行も71.2億円と前作の70億円割れから回復。また世界興行は8.90億ドルとシリーズ最高興行を記録しており、シリーズの人気は衰えていなかった。
しかし『スパイダーマン3』の脚本にソニーがヴェノムの出演を無理強いさせたなどとして、サム・ライミ監督とソニーの関係は悪化。『スパイダーマン4』も脚本の執筆が行われ、キャスティングも始まっていたが、サム・ライミ監督がソニーの設定した締め切りまでに納得いく脚本を作れずに降板。こうしてサム・ライミ監督版『スパイダーマン』シリーズは事実上の3部作として完結を迎えることとなった。
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- 『アメイジング・スパイダーマン』
サム・ライミ監督が降板したことで製作されたリブート版『アメイジング・スパイダーマン』シリーズは2008年公開のクリストファー・ノーラン監督作品『ダークナイト』の「リアリティラインの高いシリアスなアメコミ映画ブーム」と2009年公開のジェームズ・キャメロン監督作品『アバター』の「3D映画ブーム」に乗った作品だった。しかし2012年に公開された1作目は3D料金でチケットアベレージが高いにも関わらず、2.30億ドルの製作費に対して全米興行は2.62億ドルとシリーズで初めて3億ドルを大きく下回る期待外れの結果となった。世界興行も7.57億ドルとシリーズ最低を記録した。
また国内最大規模の全国1092スクリーンで封切られた日本でも、3D鑑賞率77%と高い数値を誇るも、初日から2日間の興行は5.80億円、世界最速3D限定先行上映を含めた4日間の累計も9.01億円と物足りないスタート。ソニーは最終興行50億円を目標としたが、結果は31.6億円と70億円前後で推移したサム・ライミ監督版から半減。2012年夏は本作以外にもアメコミ映画は『ダークナイト ライジング』と『アベンジャーズ』、日本でも人気漫画の実写映画版『るろうに剣心』の1作目が公開されるなど、コミックス実写の話題作が集結した夏だったが、その中でも『アメスパ』は「一人負け状態」となってしまった。
そして2年後の2014年公開の続編『アメイジング・スパイダーマン2』では製作費2億ドル以上を投下したにも関わらず、世界興行7.08億ドルとまたしてもソニーの期待値には及ばす、全米興行に至っては2.02億ドルと製作費すら下回った。それでもソニーは当初『アメイジング・スパイダーマン3・4』とスピンオフ作品『シニスター・シックス』の公開日を発表するなど、続編に前向きな姿勢を表面上は見せていた。しかし、その翌年の2015年にソニー・ピクチャーズとマーベル・スタジオのパートナーシップ締結が発表され、MCUにスパイダーマンが参加することが決定。それにより『アメスパ』シリーズの事実上の打ち切りも決まった。世界的に興行収入がダウンした『アメスパ2』は日本では興行収入31.4億円と前作とほぼ横ばいのヒットを記録していたが、個人的には『アメスパ』シリーズ打ち切りへの嘆きよりもMCU参加への歓喜の声の方が大きい印象を受けた。
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- MCU版『スパイダーマン』
こうした流れの末に2016年、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』にトム・ホランド演じる新たなスパイダーマンがMCUに初参加。ちなみに『アメスパ2』と同時期公開のMCUが『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』だった。そして2017年、満を持してMCUでの初主役作品『スパイダーマン:ホームカミング』を公開。これまでの超大作路線の単独作品とは異なり、あくまでもMCUの中の1作品であるが故に製作費も1.75億ドルと『スパイダーマン』映画としてはリーズナブルな予算で、ストーリーも世界観に対してミニマムな作りと新たなる魅力を見せた。その結果、これまで右肩下がりだった全米興行は3.34億ドルと初の右肩上がりで3億ドル台に復活。世界興行も8.80億ドルとシリーズ最高のレベルのヒットとなった。一方で日本での興行収入は28.0億円と初の30億円割れ。アイアンマンが出演したにも関わらず興行が下がったことから、当時は日本でのMCU人気がないことを裏付ける結果にも思えた。
それから2年後の2019年4月、MCUは『アベンジャーズ/エンド・ゲーム』の公開により大きな一つの流れが終わった。そして、その僅か2ヶ月後の6月に公開されたのが『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』だった。本作は『エンド・ゲーム』公開前から劇場で『インフィニティ・ウォー』のラストで消えたはずのピーター・パーカーの姿が確認できる予告編が流れていたことで苦笑いされがちな映画だった。また『エンド・ゲーム』で物語に一区切りがつくことから、宣伝では最終作と大きく銘打たれてるにも関わらず、早々の新作公開とあり「全然終わってないじゃん」とネタにされ、また純粋に観客の興味を惹き続けれるのかという懸念もあった。
戦いは終わらない。
— 映画『スパイダーマン』公式 (@SpidermanfilmJP) 2019年5月26日
世界には、
新たなアイアンマンが必要だ。
『スパイダーマン：ファー・フロム・ホーム』
6.28世界最速公開🕷#スパイダーマン#ファーフロムホーム pic.twitter.com/XBZ13RoMXp
しかしそんな不安をよそに本作は製作費1.60億ドルに対して全米興行は3.90億ドルと前作超え、世界興行も11.31億ドルとシリーズ初の10億ドル突破かつソニー・ピクチャーズ作品史上興行収入歴代1位を更新し、日本での興行収入も30.6億円と30億円台に回復。そのため、スパイダーマンは劇中内容だけでなくMCUの興行的な意味でもアイアンマンを継ぐ存在となった。
そして2021年、ソニーとディズニーのトラブルでシリーズ打ち切りの危機や、新型コロナウイルスのパンデミックにより映画どころでなくなってしまうなど、様々な出来事を乗り越えながら『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が公開。本作はサム・ライミ版と『アメスパ』版のヴィランが再登場する「全ての運命が集結する」作品であり、オープニング興行は2.60億ドルとコロナ以降最高のスタートかつ歴代2位の結果。累計も公開3週目の段階で全米興行は6億ドル、世界興行は13億ドルを突破して、『スパイダーマン』映画史上歴代1位を更新している。一方でこれまで世界最速レベルで公開されてきた日本はフィリピンと共に世界から3週間遅れの公開となり、日本に住む試写会に当選しなかったファンはたった5日間しか優位性を保てなかった「『マトリックス レザレクションズ』は世界最速公開だから…」という想いを胸にネタバレに怯えながら年を越すこととなった。
※公開4週目に全米興行6.68億ドル突破で『タイタニック』、公開5週目に6.98億ドル突破で『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』を抜いて歴代5位
【追記】『ノー・ウェイ・ホーム』は最終的に全米で8億ドル、日本で40億円、世界で19億ドルを超えるヒットとなった
Spider-Man: Homecoming - Box Office Mojo
Spider-Man: Far from Home - Box Office Mojo
Spider-Man: No Way Home - Box Office Mojo
- 最後に…
記録づくめのサム・ライミ監督版『スパイダーマン』から期待値に及ばなかった『アメイジング・スパイダーマン』を経て、再び記録づくめの『スパイダーマン』が帰ってきた『ノー・ウェイ・ホーム』。その一方で世界最遅レベルの公開でも問題ないと判断されてしまった日本。勿論、日本のコミックス映画が大ヒットしていることは喜ばしいが、やや複雑な気持ちにもなる。
