DCコミックス原作の映画『ジョーカー』の日本興行収入が50億円を突破した。
ヒース・レジャーのジョーカーの演技が話題になった2008年公開のクリストファー・ノーラン監督作品『ダークナイト』の興行収入は16.0億円とダブルスコアの興行収入を叩き出す見込み。同シリーズで2005年公開の1作目『バットマン ビギンズ 』は興行収入14.0億円、2012年公開の3作目にして完結編の『ダークナイト ライジング』は興行収入19.7億円と全作品興行収入は10億円台となっている。
またジャレッド・レトが演じたジョーカーが登場する2016年公開の『スーサイド・スクワッド』も興行収入17.6億円と20億円には届いていない。更に他のDCコミックス原作の映画の興行収入を振り返っても、2013年公開の『マン・オブ・スティール』が興行収入9.74億円、2016年公開の『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』が興行収入18.6億円、2017年公開の『ワンダーウーマン』が興行収入13.4億円、2017年公開の『ジャスティス・リーグ』が興行収入11.0億円、2019年公開の『アクアマン』が興行収入16.4億円と日本でのDCコミックス映画の興行収入の相場は10〜20億円程度であるということが読み取れる。一方で『ジョーカー』は他のDC映画が超えること出来なかった20億円の壁を容易に超えて、興行収入30億円を突破した。最終興行は50億円を超えた。
DC映画という括りを取り払っても、現在の日本でアメコミ映画の興行収入が30億円を突破する例は珍しい。現に2010年代のアメコミ映画で興行収入30億円を突破したのは『ジョーカー』を除けば2011年公開『アメイジング・スパイダーマン』の興行収入31.6億円、2012年公開『アベンジャーズ』の興行収入36.1億円、2014年公開『アメイジング・スパイダーマン2』の興行収入31.4億円、2015年公開『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』の興行収入32.1億円、2018年公開『アベンジャーズ インフニティ・ウォー』の興行収入37.4億円、2019年公開『アベンジャーズ エンドゲーム』の興行収入61.2億円、『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』の興行収入30〜32億円(見込み)の7本のみ。しかも『ジョーカー』以外全てマーベル映画だ。またサム・ライミ版の貯金もあり日本での人気が高い『スパイダーマン』シリーズとヒーロー大集合映画の『アベンジャーズ』シリーズだということを考えれば、やはりR指定で悪役が主役の単発映画である『ジョーカー』の大ヒットは異様に思える。何故『ジョーカー』はここまでのヒットを叩き出すことができたのだろうか?
ヒットした理由は複合的なものであり、「コレだ!」と指摘するのは難しい。2019年公開のアメコミ映画が3本興行収入30億円を突破していることから「『エンドゲーム』の大ヒットでアメコミ映画ブームがようやく日本にも来た」という見方もできれば、公開前にアメコミ映画では異例となる金獅子賞を受賞したことで普段アメコミ映画を観ない層が劇場に足を向かわせたという見方も出来る。他にもアメリカでの『ジョーカー』に公開に対する異常なまでの危機管理が注目を集めたことで作品の知名度が上がったという見方もできれば、ユニバース映画が増える中で1本の独立した映画で公開したことで他のユニバース映画とは異なる高級感が観客を劇場に呼び寄せたという見方も出来る。公開前の地上波タイアップ放送の視聴率は『ダークナイト』が5.5%、『バットマンvsスーパーマン』が7.0%と2作品とも惨敗に近い数字だったが、何だかんだでテレビの力はバカにできずプラスに働いたという可能性もある。また本編の内容が「ネタバレ厳禁」なため『カメラを止めるな!』形式で口コミが広がった結果なのかもしれないし、リピーターを集めやすい内容だったのも良かったのかもしれない。
ここまで上げた理由に加えて映画の公開時期が10月と対抗作品が少なかったことも興行的なアシストとなったのだろう。またアメリカ映画にも関わらず日本の世相とマッチしていたのも大きい。ジョーカーは劇中で「オレには失うものは何もない」みたいなセリフを吐くが、それを聞いて今年日本で起きた数々の事件を思い出した人は少なくないはずだ。またアーサーに殺される大企業に勤める会社員がどのような性格だったのかを一般人は知らないはずなのに、「大企業の社員だから」という理由でピエロのお面を被った人たちが喜ぶ姿もどこか今の日本の「上級国民」叩きと重なるものがある。
何はともあれアメコミ映画が弱いとされている日本で、R指定のアメコミ映画『ジョーカー』が大ヒットしたのは喜ばしいことだ。これからもこの流れが続いていってほしいと願う。