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【沈黙のパレード】「僕だってあの時と同じようなことを繰り返したくはない」、『容疑者Xの献身』から続く映画『ガリレオ』のテーマ

沈黙のパレード

ネタバレ注意

9年ぶりの『ガリレオ』シリーズ最新作『沈黙のパレード』はやや食い足りなさが残る映画だった。

 

  • 「あの問題を解いても誰も幸せにならないんだよ」

容疑者Xの献身

『ガリレオ』の映画シリーズには「真実を明らかにすることで誰も幸せにならないことがある」という共通したテーマがある。現にシリーズ1作目『容疑者Xの献身』の犯人・石神は湯川に雪山の頂上で「あの問題を解いても誰も幸せにならないんだよ、もう忘れてくれ」と語りかけていた。そして湯川も内海に対して「僕がこの事件の真相を暴いたところで誰も幸せにはならない」と吐露する。しかし湯川は内海からの言葉もあり自身が辿り着いた「仮説」を石神が何としても守りたい花岡靖子に伝え、その結果彼女は警察に自首することを決め石神は慟哭する。石神は花岡親子のアリバイ作りのために本件には何の関係もないホームレスの殺めている以上、罰を受けるのは当然ではあるが、真実を明らかにしたことで誰も救われないラストは後味の悪さを残した。

 

 

  • 「あの時と同じようなことは繰り返したくはない」

映画「沈黙のパレード」オリジナル・サウンドトラック

このテーマはシリーズ2作目『真夏の方程式』でも受け継がれ、シリーズ3作目にして最新作『沈黙のパレード』でも描かれる。本作では女子高生の殺害容疑をかけられるも、捜査機関の取り調べに対して沈黙を貫いたことで釈放された蓮沼が、被害者を愛した者たちが多く住む街のパレードの日に死体で発見される。蓮沼の捜査をしていた湯川の親友・草薙刑事は「自分が蓮沼を取り逃したことで被害者を大切に思っていた人たちが殺人を犯してしまったのではないか」と葛藤するが、捜査が進むにつれて「被害者を大切に思う人たちが協力して蓮沼を液体窒素で苦しめて事件の真相を自白させようと計画するも、アクシデントなどの影響で結果的に殺してしまっただけで、意図的な殺害ではなかった」「しかも蓮沼は死亡直前に女子高生を殺害したことを認めた」ことが判明する。蓮沼が死の直前に認めたという内容も外部には漏れていない事件の概要と一致しており、このままいけば蓮沼を被疑者死亡も殺人容疑で検察への書類送致までは持っていけ、それは被害者を大切にしている人たちにとっては一定の救いになる。そして草薙にとっても被害者を大切に思っていた人たちが司法の手を逃れた人物への意図的な殺害計画を企てていなかったことは心休まる「落とし所」だった。

しかし湯川は草薙に「それでいいのか?」と問いかける。草薙は取り調べに対して沈黙を貫き通していた蓮沼が死の直前に犯行を認めたことが本心では納得いってなかった。しかしここで更に捜査を進めた結果、今とは違う真実が明らかになったとしても、それは誰が幸せになるのか、誰も幸せにならないのではないか、それなら態々真実を明らかにしなくてもいいのではないか、今のストーリーに乗っかった方がみんな幸せなんじゃないか、そんなことを草薙は思っていたはずだ。そしてこのことは内海の「草薙さんまで追い詰めるようなことになっても先生は…」という問いに対する「僕だってあの時と同じようなことを繰り返したくはない」という返答からも湯川も当然理解していたように感じる。

 

 

  • 「蝶のバレッタ」、血が付着していたら…

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そのため本作は草薙を追い詰めることになっても湯川は真実を解き明かすのか、そして湯川の辿り着いた仮説に対して草薙は自身と被害者を大切に思う人たちを更に不幸にする可能性を背負った上で今ある都合の良いストーリーを捨てて実証を行えるのか、が見せ場の映画になりそうな気がする。現に物語は殺害されていた女子高生が当時身につけていた「蝶のバレッタ」から血液が付着していたかどうかが争点になり、仮に血液が確認されれば被害者家族にとっては仲間内に真犯人がいたというグロテスクな展開。被害者家族を更に不幸に落とす可能性があっても真実を明らかにするのか、という草薙の葛藤を描けそうな気もするし、実際の作品でも草薙が思い詰めた表情で「蝶のバレッタ」を回収する姿が描かれるのだが、捜査結果に関しては意外とアッサリ「付いてなかった」ことが明かされる。ここは「蝶のバレッタ」の捜査結果が出るまでのどちらに転ぶかは分からない地に足のついていない居心地の悪い時間を待つ湯川と草薙の姿の描写があった方がより緊張感のある良い作品になっていたのにな、という若干の残念さはあった。

 

 

  • 最後に…

『ガリレオ』の映画シリーズは『容疑者Xの献身』で湯川が真実を明らかにすることで誰も幸せにならない着地点を描いたが、『真夏の方程式』では湯川が現時点で自身の仮説を実証するのではなく少年の未来に託す選択を描き、『沈黙のパレード』では自身の仮説を親友の草薙に実証させることで真実を明らかにして救いを描いた。並べてみると一貫したテーマを描きながら結果論とはいえ着実に前向きな方に進んでいる気がする。

 

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