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【朝井リョウ原作『正欲』ネタバレ感想】「水に性欲を感じる人」を「水フェチ」扱いは「性的嗜好」と「性的指向」を混同か

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ネタバレ注意

朝井リョウ原作『正欲』を実写映画化した作品が公開された。自分はまだ映画は観れてなくて原作しか読んでいないが、SNSで感想を観ていると「水に性欲を感じる人」のことを「水フェチ」扱いしている人が多い印象を受けて違和感を抱く。

 

  • 「性的嗜好」と「性的指向」の違い

それとも「水フェチ」という言葉を使う人は常日頃から「男性に性欲を感じる人」のことを「男性フェチ」、「女性に性欲を感じる人」のことを「女性フェチ」と表現しているのだろうか。

性的嗜好と性的指向は大きく異なります。性的嗜好は後天的なもので、ある対象やシチュエーションなどに性的興奮を覚えるものです。対して性的指向は先天的な性愛のパターンです。似て非なる言葉ですので、使い方を間違えないようにしましょう。

「性的嗜好」じゃなくて「性的指向」?その意味と違い知ってる? - girlswalker

それならそれでもいいが、言葉の定義的には「フェチ」、つまりは「性的嗜好」は「後天的」で「ある対象やシチュエーションなどに性的興奮を覚えるもの」なのに対して「性的指向」は「先天的」な「性愛のパターン」のことを指す。要は「男性に性欲を感じる」「女性に性欲を感じる」「水に性欲を感じる」は後天的な「フェチ」ではなく先天的な「性的指向」である。

 

 

  • 「水に性欲」の中にもグラデーション

また映画ではどういう描かれ方をしているのか、それともそもそも描かれていないのか分からないが、原作では「女性に性欲を感じる人」の中でも「胸フェチ」「脚フェチ」など多様なフェチがあり、更に「脚フェチ」の中にも「サンダルフェチ」「くるぶしフェチ」など細分化されているのと同様に「水に性欲を感じる人」の中でも「水の何処に興奮するか」は人それぞれでグラデーションがあることが指摘されている。そのため「水に性欲を感じる男子大学生」はSNSで繋がった人と「水の何処に興奮するか」を語り合うことで、まるで同級生たちが「胸より尻が好き」「裸足が一番興奮する」などと盛り上がっていたときのように誰かと「性的な話題」で盛り上がれたことに喜びを覚える。このシーンは「誰にも自分は理解されない」と思い悩んでいた青年が「他者に自分を理解された」と実感した瞬間だった。

 

 

  • 「性的嗜好」と「性的指向」が混同?

そのため「水に性欲を感じる人」のことを「水フェチ」という表現をする人たちに対しては「SMプレイが好きな人がいるのと同じように同性が好きなんでしょ?」と同じ違和感を抱く。何故ならそれは「性的指向」と「性的嗜好」を混同しているからだ。「同性に性欲を感じる人」は「SMプレイが好きな人」と同じではなく「異性に性欲を感じる人」と同じなのだ。そしてそれは「水に性欲を感じる人」も同様だ。その上でその先に「SMプレイが好き」、更にそこから「SMプレイの中でも…」と好みは細分化されていくのだ。つまり「水に性欲を感じる人」を「水フェチ」扱いする人たちは彼ら彼女らが性的マジョリティにとってのどのステージの段階の話をしているのかを誤認している可能性が高いのではないか、と感じる。

 

 

  • 最後に…

最後に「水くらいなら別に…」みたいな感想も見かけたが、ここは「水」を「自分が受け入れがたい何か」に置き換え可能だろう。またそういう風に思った人でも、いざ現実で「児童ポルノの疑いで逮捕の容疑者『児童ではなく水が目的だった』」みたいなニュースをSNS等で見かけても「そんなバカな」と半笑いで次の話題に移ってしまう人が大半なのではないか、とも思う。そこには「本当の自分のことを話しても、世間は理解してくれない」という苦しみがある。まー、こういう一段の上の位置から話してる風のことを書いてるヤツもまた、みたいな話ではあるのだが…

 

  • 余談

今年最大の注目を集めた事件も連想させる本作の「何に性欲を感じるのも自由だけど、それが他者への加害になると…」的なバランス感覚は好き。

 

  • 余談2

原作の表紙は「他者から理解されることを諦めた人が飛ぶことをやめた鳥のように重力に従ってただただ落ちていく」みたいな感じで辛い。