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「LGBTQ/インティマシーコーディネーター/既読スルー/SNS」、クドカン脚本『不適切にもほどがある!』第4話への違和感

ネタバレ注意

宮藤官九郎脚本『不適切にもほどがある!』はストーリーが物凄く面白い反面、そこで描かれるメッセージみたいな描写に対してはかなりの違和感を抱く。ただこのドラマの描写的に違和感を表明すると「このドラマで描かれている通り、『不適切(と批判する)にもほどがある』人がいるな〜」とカウンターを喰らうのが目に見えている歯痒さがある。しかしSNSを見るとやはり少なくない数の人がこのドラマの描写に違和感を抱いている様子だ。

 

  • サカエのLGBTQに対する認識

第4話で最も批判を浴びているのは吉田羊演じる令和から昭和へタイムスリップしているフェミニストの社会学者であるサカエが将来的に自分の夫となる井上くんが一緒に昭和にタイムスリップしている自分たちの息子に恋愛感情を持ったことに対して「あなたは女にモテないから男に走ってるの!あなた中二病なの!自分がモテないのは女が悪いという考え方を変えない限り、あなたはモテないし、変われない!」という趣旨の批判を展開するセリフだ。もちろん、このシーンは「自分の将来の夫と息子が恋愛関係になっては困る!阻止しなくては!」と感情的になって発せられたセリフという演出的なエクスキューズは付いている。

ただここではサカエの思考からは「自分の夫は女だけでなく男にも恋愛感情を持つバイセクシャル」という可能性は最初から排除しているように見えるし、自身がゲイである可能性を考える息子の「自分はおっぱいは好きだけど、おっぱいが好きなだけかもしれない」という主張に対しては「そんな奴はいない」と冷たく切り捨てるなど、「この人は本当に多様な性は平等に扱われるべきという立場の人なの?」と疑問に感じたりもする。もちろん、ここでのやり取りも前述したように「自分の夫と息子が恋愛関係にならないように阻止しなければ」と感情的になっている状態で発せられたセリフなので視野狭窄に陥っていただけなのかもしれない。だからここら辺は「お前の立場でそれ言うのかよ!」というツッコミを入れて欲しいコメディシーンなのだろう。ただ第3話でも割とシラフな状態で「フェミニズムはオスの本能まで否定しません」と諸々の描写的に「男は女の身体に興奮するのが本能」と「異性愛」を前提にした発言をしていたりもする。普段「多様な性を平等を認めろ」と主張している人間だからこそタイムスリップ絡みの身内の人間に対しては感情的になってしまうギャグをやるのであれば、他のところではそういう認識をちゃんと示して貰わないと笑うにしてもノイズになる。

もしかしたら今後の展開的に「サカエは知識的に口では『多様な性を平等に認めろ』と訴えているが、内心では『異性愛』に縛られていて、そういう側面が滲み出ているキャラクターだった」みたいなことが明らかになる可能性もあるので、現段階では判断保留だが、色々引っかかるところのあるキャラクターではある。

 

 

  • インティマシーコーディネーターの描写

第4話で次に批判を浴びていたのは「インティマシーコーディネーター」の描写。近年は映画業界の働き方や性的搾取の問題が注目されていて、その中には役者は事前に「下着は脱がない」と契約していたはずなのに、現場では「下着を脱いでください」と要求されて、それを渋ると「いや、君が脱がないと撮影終わらないよ!みんなを待たせてるんだよ!」みたいに追い込んでいき、なし崩し的に事前の契約を反故にするような撮影を強いられてしまい「傷ついた」と訴えているケースがあったりする。こんな告発が相次げばオーディエンスとしても「この濡れ場シーンは誰も傷つかずに撮影されているのか?」と余計な心配をしてしまう。その対策として注目を集めたのが、事前に「演出側の要望」と「役者側の要望」を擦り合わせる「インティマシーコーディネーター」だった。これによって役者側も事前に「自分は何処までの露出を求められているのか」などが明確に出来る安心感を得られ、演出側も後から「強引に撮影された」と告発されるリスクが少なくなるというメリットがあるとされていた。

ただ今回の演出ではそうした「役者と演出側の要望を事前にすり合わせる」みたいなこの職業のキモとされている部分はオミットされ、「役者側はオーディションの時は『脱げる』と言ってたのに、五月蝿いマネージャーが後から現場で『アレはダメ、コレもダメ』と役者の意図に反してイチャモンを入れて、その都度『インティマシーコーディネーター』はその要求に応えようとして、現場が混乱している」みたいな描写になっていた。最終的には「役者の意志を尊重するのがインティマシーコーディネーター」とポジティブな印象を与えるような展開になっていたが、このドラマで「インティマシーコーディネーター」を初めて知るような人も多いくらい認知されていない職業の見せ方としては「いや、コレで良いの?」「そういうことじゃないんじゃないの?」感は半端ない。

しかも第4話はマイルドなモノとはいえ性的なシーンがあるにも関わらず本作自体は「インティマシーコーディネーター」を使ったというクレジットはなく、トリンドル玲奈の横文字を強調するような発音演出含めて、「本音では『ドラマの撮影にこんな職業はいらねーよ』と小バカにしてるんじゃないの?」みたいな穿った見方すらしてしまう。

 

「性的描写において俳優の尊厳を守る役割」インティマシーコーディネーターに浅田智穂がキャリアチェンジした理由【THE NEW VOICE】|ハーパーズ バザー(Harper's BAZAAR)公式

 

 

  • 既読スルー問題を「SNS」まで主語を拡大

youtu.be

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そしてSNSではあまり指摘されていないが、個人的にかなり気になったのは毎度お決まりのラストのミュージカルシーン。第4話のミュージカルは昭和からタイムスリップしてきた主人公がスマホ依存症になり、「LINEの既読スルーが許せない!」と憤っていることに対するアンサーソングではあるが、まずそもそも主人公が既読スルーされまくっているのは、自分が面倒なメッセージを送りまくって相手を困らせているからなので、本来は「相手の気持ちに立ってみる」辺りが解決法のはずだが、これを何故か「SNSの問題」にまで主語を拡大して「SNSは本気で打ち込むものじゃない」と訴えかけるのは問題の本質的解決には繋がらず、何かがすり替えられている気すらする。

またこのミュージカルは一応Z世代にも向けた内容という感じになっているが、YouTuberのような 真剣にコンテンツ作りに打ち込んでSNS上で発表して収益を得ているようなクリエイターが当たり前のように存在し、尚且つ彼ら彼女らが誹謗中傷やストーキング行為などを受けながらも「立場上SNSから離れる訳にはいかない」と葛藤している様子をみて育っている世代に「SNSは本気で向き合うものじゃない」はやはり一昔前の価値観でしかない。正直、これまでのミュージカルの中で誤解を恐れずに書けば一番「面倒くさくなさそうなテーマ」を扱っている分、ストレートにこの作品の「雑さ」みたいなのを感じてしまった。ただリアルな昭和をしている世代からすると昭和の描写も色々と雑らしいので、作品全体的に漂う雑さが意図的なのか本当に雑なだけなのかはやはり最後まで観ないと判断つかないところではあるが、「最早そういうレベルの話ではないけどね…」感は強い。

 

 

  • 最後に…

SNSでは「クドカン最高!」派と「クドカン信じてる…」派と「これもうダメじゃね」派で割れているが果たして…

 

 

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