ネタバレ注意
絵本的スチームパンクの世界観が素晴らしいエマ・ストーン主演、ヨルゴス・ランティモス監督の映画『哀れなるものたち』を観た。
- 母親の身体に赤ちゃんの脳みそを…
本作は「自殺した成人女性の頭にその女性のお腹にいた赤ちゃんの脳みそを埋め込み〜」的な話。まずこのアイデア自体が古典的なのかもしれないが、面白い。モノクロ映像で描かれる、身体は成人故に生理が垂れ流しにされた際の「ちー!ちー!」と無邪気にはしゃいでいる描写はあまりにもグロテスクだし、キュウリを股に入れることで快感を得ようと性に目覚めていく過程の表現は「性教育を施されていないから生まれた本能的に辿り着いた発想」故に複雑な気持ちにさせられる。本作は事前に「フェミニズム映画」と聞いていたので、映像からモノクロからカラーになるタイミングが「彼女が家を出て外に出たタイミング」というよりは「初体験」に重きを置いているような描写だったのにも結構驚いた。
- 外の世界に触れて身体に見合った精神性を得る
本作は主人公が外の世界に出て様々なことを経験することで、成人の身体に見合った精神性を獲得していく様子が描かれて、ここら辺も一人の人間の成長物語として見ていて気持ち良い。またラストも観ている最中は「外の世界で色々学んだ主人公が物語の最後に父親的存在が自分と違って愛情を注がずに実験道具として扱っている新たな人形の存在を見ることで、かつての自分の置かれていた状況を理解して、決別することで真の自由を手に入れる」的な感じになると予想していたから、血縁関係的には自身の本当の父親(身体的には元夫)の脳みそをヤギの頭の中に移植するラストで「そっちに行くのか!」とビックリ。
- 家父長制からは逃れられない?
映画評論家の町山智浩さんが本作について「フランケンシュタインは父親に愛されずに殺されそうになったから人間を殺すようになったけど、ベラはゴッドから愛されていたから人を愛した」という趣旨の解説をしていたけど、その意味では本作のラストは「父親から愛だけでなく人体実験をする悪い面も引き継いだ」という見方も出来る。また自分は未読だが、本作の原作は構成上「これは男が気持ちによるなるためのフェミニズム」的な批評性もあるのだという。確かに父親代わりの存在と元恋人が主人公に何だかんだで受け入れられていく感じは、男性にとって心地良い展開だったように思う。あまり映画の作り手と原作者の意図を混同し過ぎるのも良くないのかもしれないが、あのラストには「男と女の立場が逆転している」というよりは「結局、家父長制からは逃れられずに繰り返されていく」という後味の悪さを演出していたのかな、とは思った。だから主人公もまた「哀れなるものたち」の1人なのだろう。
女性の冒険と成長を描いた映画「哀れなるものたち」を徹底解説!【町山&藤谷のアメTube】 - YouTube
- 最後に…
色々書いてきたが、メイキングを見るだけでも本作は楽しいので、かなり好きな作品であった。場面展開のモノクロ映像も美しかった。
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