本ブログでは『「何故日本映画(実写邦画)は製作費10億円が限界なのか?」の真相に迫る!』というエントリーを過去に書きました。ザックリした内容は日本映画は興行収入30億円の壁が高い為、大作でも製作費10億円が限界だというネット上でよく言われている説を様々な映画関係者のインタビューから裏付けしたモノです。
また更新時期は前後しますが『なぜ日本映画のCGはショボいのか? それは予算とスタッフの数の問題だ!』という日本映画のCGについて掘り下げるエントリーも書いており、ココではCGのクオリティを上げるにはお金が必要な理由とハリウッド大作との製作費の違いから出る差について書いています。
今回はこの2つのエントリーで書かなかった、日本映画とハリウッド映画の製作費は差は何故出るのかをまとめていきたいと思います!
日本映画VSハリウッド映画の製作費
まずは日本映画とハリウッド映画の製作費の比較です。同じジャンルの映画として『ゴジラ』シリーズを例にとると、日本が2016年に制作した『シン・ゴジラ』は製作費13億円に対してハリウッド版『GODZILLA(2014)』は製作費160億円とハリウッド版ゴジラは日本の12.3倍もの製作費が注ぎ込まれています。そしてこの製作費の差によってCGや美術などのクオリティが決まってしまい作品全体の完成度にも影響をもたらすのです。
他のジャンルでも比較してみましょう。ハリウッド映画ではなくイギリス映画になってしまいますが、例えばワーナー資本の同じファンタジー映画でも日本の『鋼の錬金術師』の製作費は9億円です。一方で『ファンタスティック・ビースト』は製作費180億円です。つまり『ファンタスティック・ビースト』1本分の製作費で『鋼の錬金術師』20本分の製作費を使っている計算になります。
他のジャンルでも日本映画は大作でも基本的に10億円前後ですが、ハリウッド大作なら150〜200億円は当たり前で最近は250億円超えの製作費も年に数本は目にするレベルです。
同じ「低予算映画」でも雲泥の差…
ただ製作費の話題になると「ハリウッド大作でも低予算で面白い映画はある!」と主張する人がいます。当然製作費と面白さが比例する訳ではないという大前提はあります。個人的には『GODZILLA(2014)』より『シン・ゴジラ』のが面白かった派です。ただハリウッドの低予算と日本映画の低予算を同じレベルで考えてCGのクオリティなどに苦言を呈するのは問題です。
近年だと2016年公開の『デッドプール』は低予算だけど面白い映画という風潮があります。もちろん『デッドプール』は製作費150〜300億円を注ぎ込んだ『アベンジャーズ』や『ジャスティス・リーグ』などのアメコミ映画のジャンルとしてはリーズナブルな製作費で作られている。ただし『デッドプール』の製作費は58億円と『20世紀少年』3部作を製作費60億円で超大作として作る日本映画との差は歴然です。
また「アメコミ映画として低予算」という条件付きで無い今年大ヒットした低予算映画の製作費を比べてもハリウッドの低予算映画『クワイエット・プレイス』は製作費17億円と日本の大作映画より多くの予算が注ぎ込まれているのに対して、日本の低予算映画『カメラを止めるな!』の製作費300万円とは文字通り桁違いです。なのでハリウッドと日本の低予算映画は同じ低予算映画でも「進学校と底辺校の勉強出来ない人」や「田んぼや畑しかない田舎とイオンモールや映画館くらいしかない田舎」を同じだと考えるくらい愚かな事なのです。
何故差がつくのか!?
ココで「何故日本映画とハリウッド大作の製作費には差が出るのか?」という疑問に思う人も多いと思います。結論から言えば市場規模の違いです。例えば今年最大のヒットになり実写邦画歴代5位入りが確実の『劇場版コード・ブルー』は興行収入92億程度が見込まれています。
一方でアメリカの今年2番目にヒットしている『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の興行収入は678億円と『コード・ブルー』の約7.4倍もの利益を上げており、国内興行収入だけでもかなりの差がついてしまってきます。コレは『アベンジャーズ』のようなメガヒット作品が例外なだけでなく、年間10本程度出る大ヒット作品の基準も日本では30億円以上が1つの目安になるのに対してアメリカでは200億円以上が1つの目安になる程の差があります。
またハリウッド大作はアメリカの国内興行収入だけでなく、世界興行が見込めます。その為本作の総興行収入は2046億円と記録的な結果になっています。ただ日本映画は基本的に世界興行収入は見込めず国内だけで回収しなければいけない上に、国内興行収入でもアメリカとは大きな差がある為「ハリウッド大作程製作費をかける事が出来ない」という結論に至ります。
過去最高の製作費は332億円
ちなみに映画史上で過去最高の製作費が注ぎ込まれたのは2007年公開のジョニー・デップ主演のメガヒットシリーズ第3弾『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』で製作費は332億円と言われています。本作は日本でも興行収入109.0億円の大ヒットを記録しており、世界興行収入は960億円と3D映画が一般化する前のチケットアベレージを考えると驚異的なヒットになっており製作費の回収にも成功している。
ちなみに日本の歴代興行収入第1位は宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』で興行収入は308.0億円。つまりハリウッドでは日本の興行収入の歴代記録以上の製作費を注ぎ込み、そこから世界中で公開して製作費を回収して売り上げを上げようとするのだから国内だけでビジネスを成立させようとしている日本映画界と製作費で差が付いてしまう事は致し方ない事とも考えられる。
※『千と千尋の神隠し』の製作費は15-20億円
※全て1ドル100円計算
最後に…
結論として日本の大作映画とハリウッドの大作映画の差が付くのは見込める興行収入が違うという事で、その理由は国内興行収入の規模と世界興行をビジネスモデルに取り込めないという事が挙げられます。また現実的に世界でビジネスとして成立する程日本映画が観られる事は現段階では非常に難しいように思えます。
ただやはりアクション映画やファンタジー映画はどうしても製作費の差がCGや美術のクオリティに直結し、そのクオリティの差が「日本映画がショボい」という結論に繋がりやすい事は否定できません。またその点に不満を覚える観客が居るのは同じチケット料金を払って映画を観ているので当然だとも思います。
「日本映画興行シリーズ」の次回の予定は日本映画の中国公開の可能性です。お楽しみに!