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山崎貴監督VFXの「総力戦」、他作品とは桁違いの製作費の『ゴジラ−1.0』がアカデミー賞・視覚効果賞をノミネートした背景

【映画パンフレット】 ゴジラ-1.0 GODZILLA -1.0 監督:山崎貴 出演:神木隆之介、浜辺美波、山田裕貴、青木崇高、吉岡秀隆、安藤サクラ、佐々木蔵之介 マイナス ONE

山崎貴監督『ゴジラ−1.0』がアカデミー賞の視覚効果賞にノミネートされた。日本映画では初めてだという。

 

  • 日本のVFXがハリウッドに比べてショボい理由

VFXというものは予算に裏打ちされたトライ・アンド・エラーで決まっていくんです。CGはトライ・アンド・エラーを何度も繰り返せばどんどん良くなっていくもの/ハリウッドでは、トライ・アンド・エラーの設定上限回数は200回/僕らの場合は、全部のカットを10回もやり直したら、もう破産/もちろん日本映画でも、何度もトライ・アンド・エラーを繰り返して作り上げるカットもあるし、1発、2発でオッケーにしてしまうカットもある/ハリウッドでは、200回のトライ・アンド・エラーを重ねても大丈夫なように予算を組んでいる/僕らよりも190回も多く、トライ・アンド・エラーを繰り返している

『寄生獣』山崎貴作品の本当の魅力とは? 「VFX"も"すごい、という作品を作りたい」 | 映画界のキーパーソンに直撃 | 東洋経済オンライン

かねてより「日本映画のCGはハリウッドに比べてショボい!」と指摘されていた。その背景には世界興行を展開するハリウッド大作と日本国内のみでの回収を狙う日本映画の市場の差からくる「製作費の差」があるとされてきた。実際、山崎貴監督も「VFXは予算に裏打ちされたトライ・アンド・エラーで決まる」として「ハリウッドでは200回のやり直しが出来るが、日本では全てのカットで10回もやり直したらもう破産、1・2回でOKにしてしまうこともある」という趣旨の説明をしていたこともある。要はハリウッドは200回のやり直しが出来るだけの製作費があるのに対して、日本ではそこまでの製作費が確保できないから「差が生じている」という主張なのだろう。学校の単語テストに例えるならハリウッドは100個の単語を200回ずつ練習してテストに臨むのに対して、日本は100個の単語を10回も練習しない、中には1・2回ノートに書いたくらいでテストに臨んでしまうような感じか。こうなれば同じ暗記力の持ち主であっても、テストの点数に差が出るのは明らか。その意味では「観客は同じ料金払って映画観てるんだから言い訳にならないよ」と言われればその通りだが、かなり善戦しているようにも感じる。もちろん、その裏で低賃金で過剰労働が強いられるとかだとまた評価も変わってくる(何ならハリウッド大作の中でも製作費が高いMCUは近年VFXの労働環境の問題が指摘相次いでいる)のかもしれないが、少なくとも『ゴジラ−1.0』に関して特別「現場が酷かった」的な具体的な話は聞かないので、ここではそれ以上のことは分からないので置いておく。ただ今回の結果を持って「低予算でもハリウッド映画と張り合える!」と必要以上に持ち上げられて語られると「業界全体の底上げが必要」と訴えている関係者らかすれば複雑なのだろうな、とも感じる。

 

 

  • 正に桁違いの『ゴジラ−1.0』製作費

何はともあれ圧倒的物量差のあるハリウッド大作と肩を並べて視覚効果賞にノミネートされたのだからこれはやはり凄い話だ。比べるものではないが、ある意味ではストーリー面で評価されたよりも凄い話なのではないかとすら思う。ではそんな本作と他のノミネート作品の製作費の違いはどれくらい大きいのだろうか。映画ジャーナリストの斉藤博昭氏の記事によると『ザ・クリエイター/創造者』が8000万ドル(120億円)、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』が2億5000万ドル(375億円)、『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』が2億9100万ドル(436億円)、『ナポレオン』 2億ドル(300億円)に対して『ゴジラ−1.0』は「15億円と言われている」と濁した表現を使っている。本作の製作費に対してはSNSで「10億円説」が流れた際にXにて山崎貴監督自ら「10億じゃ無理 もっと掛かってます」と10億円以上であることを明言している一方で、海外メディアの「1.5million $」報道には東京コミコンで「そんなにあったらねぇ」とやんわり否定したという報告投稿がXで確認されていた。斉藤氏の「15億円と言われている」がどの程度信頼できるのかは定かではないが、『シン・ゴジラ』の製作費が10〜15億円とされていることを踏まえると、「15億円」という数字は大きく外してはいない数字と思われる。兎にも角にも円安なため円換算した結果、大きな数字になりがち問題も置いといても、桁違いの数字あることは間違いない。

 

mjwr9620.hatenablog.jp

上述した『ゴジラ−1.0』製作費に関する発言のソースなどは上記リンク先の記事にまとめている。

 

 

  • 視覚効果賞ノミネートの背景は…

本作が桁違いの製作費でハリウッド大作に並べた背景には山崎貴監督が「ゴジラが連れてきてくれた」と述べているように、大前提として2014年から始まったモンスター・ヴァース版の『GODZILLA』シリーズがアメリカで大ヒットを記録したことでゴジラの認知度が上がり、「本家の日本版の最新作が公開されるなら観てみよう」という「アメリカ人が日本映画を観ようと思える土壌」が出来ていた部分は大きいのだろう。その意味ではハリウッドの大資本が投下されたゴジラと日本のゴジラのCG描写が直接的に比較されて「同等またはそれ以上、もしくは仮に多少のショボさを感じさせていたとしてもそれをカバー出来るほどの映像的魅力がある」と判断されたのは改めて凄い。次に山崎貴監督はテレビ東京の『WBS』の取材に対して「プレゼンテーションの際に昔ながらの方法と最新の方法を組み合わせることで、限られた予算の中で如何に効率よくある程度完成度の高いVFXを沢山作ってきたかを説明したが、それがその道を通ってきた重鎮たちの懐かしさに触れて良かったのかな」という趣旨の見解を述べていた。確かに本作のメイキング映像を見ると「セット撮影とCGと別撮りしたミニチュア家屋を組み合わせて戦後日本を再現した」とか「実際の海で役者が船に乗って撮影した映像にゴジラをCGで合成した」など最新技術だけでなく「古き良き特撮感」や「本物に拘り、体を張って撮影しているロマン」なども詰まっていてワクワクさせられる内容となっていた。

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このメイキングを持ってして「ハリウッドの重鎮たちもここをアピールすれば懐かしさを感じて貰えるのではないか」との狙いをつけてプレゼンテーションを行い、結果を得たというのは正に「懐かしさ」を武器にしてきた山崎貴監督らしい勝利の仕方とも言える。

僕らの場合だと、昭和の世界を作った後には宇宙戦艦の映画を作り。それから戦闘機の映画を作った後にはクリーチャーの映画を作ってという感じで。毎回、1から勉強し直さないといけない。(中略)前の経験を生かせる機会がないですから。

『寄生獣』山崎貴作品の本当の魅力とは? 「VFX"も"すごい、という作品を作りたい」 | 映画界のキーパーソンに直撃 | 東洋経済オンライン

また山崎貴監督は過去に日本とハリウッドのVFXの差について「日本映画のVFXは前の経験を生かせる機会がないから」との見解も述べていたが、本作は『ALWAYS 三丁目の夕日』『海賊とよばれた男』で描いた昭和風景、『永遠の0』『アルキメデスの大戦』で描いた戦時中の戦闘機や戦艦の戦闘、『寄生獣』『DESTINY 鎌倉ものがたり』で描いたクリーチャーなど過去の山崎貴監督のVFXの「集大成」的作品。正に「前の経験を生かした」結果であり、これまでの監督の積み上げてきたキャリアの「総力戦」によってハリウッド大作と肩を並べたという事実がストレートに熱い。他にも山崎貴監督は「ドメスティックな物語なのに海外で評価してくれて嬉しい」という趣旨のコメントを繰り返しているが、日本人がアメリカ映画にはアメリカらしさを、韓国映画には韓国らしさを、インド映画にはインドらしさを求めているように、海外も日本映画には日本映画らしさを求めていると考えるのが自然。その意味では山崎貴監督の作り出すある種の「理想化した日本像」は「海外が見たい日本像」と一致した面もあるのではないかと感じた。

 

 

  • 最後に…

最後に2016年出版『白組読本』の中で昨年末亡くなった阿部秀司プロデューサーは「SF作品を続けて三本も撮ったら、おまえはSFしか撮れない監督だと世の中に認識されてしまう」と「昭和には興味がない」と渋る山崎貴監督に対して『ALWAYS 三丁目の夕日』を半ば強引に押し付けたことで「あの作品があるから、山崎もチームも、『永遠の0』や『海賊とよばれた男』にまでつながっているんですよ」と自身のプロデュース力を自己評価していた。その意味では『ゴジラ−1.0』が作られたのも山崎貴監督が阿部プロデューサーに推し負けたからこそ、という可能性もあり、こうなるとやはり人生の分岐点とは何処にあるかは分からないものだな、と感じる。もちろん、あそこで山崎貴監督が企画してた『リターナー2』の道を選んでいても、最終的に同じ道に辿り着いた可能性もあり、そういう話を始めるとキリがないが…

 

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