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「親の経済力と考え方」がモノをいう小学生の世界/中学受験未経験者が読んだ『二月の勝者』の感想

二月の勝者 ー絶対合格の教室ー (1) (ビッグコミックス)

中学受験をテーマにした漫画『二月の勝者』を読んだ。

 

  • 「中学受験」に対する考え方の変化

□(シカク)いアタマを○(マル)くする。

まず初めに自分は公立中学校出身で中学受験の経験はない。そのため小学生の頃は某予備校の宣伝コピーである「シカクいアタマをマルくする。」を「シカクいアタマを更にシカクくする。」とネタにして、その予備校に通っている男子に顔面を蹴られた過去すらある。当時は「別にそんな怒らなくても…」と思ったものだが、やはり自分の通う予備校をバカにされたというのは気分を害するものだったのだろう。そこは申し訳なく思う。ただこのエピソードとはあまり関係なく、自分は何となく「中学受験」に対して否定的な考えを持っている。それは自分が公立中学出身で、そこでの生活がある程度「楽しかった」と認識しているからなのだろう。そのため自分は長年「別に中学受験なんかしなくてもいいのにな〜」と考えていたし、高校生のときは「N」と記された某予備校のカバンを背負った小学生をみると何故かそいつの頭を地面に叩きつけてやりたくなる衝動に駆られたりもしていた。冷静に考えればただ単にヤバい奴でしかないのだが、当時は「ナンバーワンよりオンリーワンが良い」という価値観を表面上で説きながら、「良い学校に行って、良い会社に入ることが良い人生」みたいな価値観を本音の部分でチラチラと見せつけてくる現代社会を否定したいという気持ちが強かったのだろう。だからといって、その苛立ちの矛先を予備校に通い中学受験に向け一生懸命勉強しているであろう小学生に向けたというのは自分の頭の足りなさだ。

ただ自分のその偏った考え方も次第に変化していき、現在は「何だかんだ言って学歴は高ければ高いほど人生は有利に働く部分が多い訳だし、自分の子供を出来るだけ良い環境に送りたいと必死に働いてお金を稼いで中学受験を勧める親の気持ちを自分に否定する権利はないな」と当たり前のことに気づくまでになった。また個人的に「中学受験は勉強ばかりしていて、何か大切なモノを失っている気がする」という酷く薄っぺらい考えを持っていたりもしたが、大学付属の中高一貫高校だと「自分はどの学部に進学して、どのような人生を送っていくのか?」というキャリア教育がシッカリしている面もあり、「大学名のために全く関係のない複数の学部を併願する受験生」より柔軟な考え方をしている生徒も多いのではないかと感じ始めた。また「ただ単に自分の家の近くにあるというだけの公立中学」に通うより、それぞれの性格に合った校風の中学を選んで通った方が子供のためになるという考え方も理解できる。

だからといって自分は「中学受験推奨派」になったわけでもなく、依然ネガティブなイメージを持っているというのも事実だが、大して中学受験について知りもせずにイメージだけで毛嫌いしていたのは反省しなくてはいけないと思っている。

 

 

  • 「中学受験専門予備校」が舞台の物語

そんな中学受験に対して偏見まみれだった過去がある自分が中学受験をテーマにした『二月の勝者』を読んでみたわけだが、大変面白い漫画だと感じた。本作の舞台は「中学受験専門予備校」で、物語の主人公は黒木蔵人というその予備校の校長。黒川は同じく受験をテーマにしたヒット漫画『ドラゴン桜』の主人公・桜木と同じ系統のキャラクターで、物語の開幕早々、中学受験に合格した小学生に対して「君達が合格できたのは、父親の『経済力』そして、母親の『狂気』」という良くも悪くもインパクトのあるセリフを発している。その後も「塾講師はサービス業」「中学受験は課金ゲーム」など過激な発言をするが、私生活の面では部屋に閉じこもる子の家に通ったり、予備校以外の場所で夜に小学生や中学生と見られる人物と関係を持っていたりと謎が多い。

そんな主人公に疑問を投げかけるのが新卒の女性塾講師。彼女は中学受験の知識がない読者と同じ目線に立ってくれる存在でもある。本作はコミックスの最終ページ付近にかなりの量の参考文献が記載されている。また作者は本作の案を編集者に提案してから3年間かけて中学受験についてリサーチをして、作品の構想を練ったという。これらの事実から自分は作者から本作を「中学受験漫画の決定版」にすべく、漫画として面白いだけでなく中学受験に対する情報も「正しく」「役に立つ」モノを揃えようとする熱意を感じた。自分は中学受験の世界は全く触れたことがなかったが、「中学受験の偏差値は高校受験の偏差値と違って同学年全体の2割しか受験しないから、偏差値は高校偏差値の10〜15ポイント低く出る」「季節ごとの講習や勉強合宿などのオプション講座で通常授業の費用とは別料金を払わせる予備校のシステム」「オプション講座ごとに課せられた校舎ごとのノルマの話」「合格実績によって上下する翌年の給料」など興味深い話が沢山紹介されていてとても面白かった。やはり日本の漫画は自分の知らない世界に興味を持つキッカケを作ってくれる存在だと感じるし、知らない世界のことを知っていくことは楽しい。

 

 

  • 中学受験をしない小学生の描写

また中学受験を経験していない自分としては「中学受験をしない小学生の描写」に大変共感を覚えた。本作で登場する「中学受験をしない小学生たち」は一つのエピソードの中で名前もない脇役としてしか登場しないのだが、それらの小学生たちは公園で携帯ゲーム機で遊んでいたり、トレーディングカードを売っている店で集まったりしている。その様子を新卒の女性講師に見せた黒木先生は「今の小学生は放課後の居場所を得るのもカネ次第…!」と言い捨てる。確かにそうだ。小学生のときはみんなと同じゲームを買って貰えなければ仲間に入れて貰えなかったし、自分は興味のないトレーディングカードを売っている店に友達と行ったりしてた。そこでは強いカードがかなりの額で販売されていて、小学生からお金を搾取する構造が確かに存在していた。結局小学生というのは「勉強」にしろ「遊び」にしろ、「親の経済力と考え方がモノをいう世界」なのだろう。

 

 

  • 最後に…

中学受験を経験していない自分にとって『二月の勝者』は、小学生時代に自分とは違う闘いをしていた人たちのことを考えさせてくれる漫画だった。

 

二月の勝者 ー絶対合格の教室ー (1) (ビッグコミックス)

二月の勝者 ー絶対合格の教室ー (1) (ビッグコミックス)

  • 作者:高瀬 志帆
  • 発売日: 2018/02/09
  • メディア: コミック