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コロナ禍の映画館復活を託されたクリストファー・ノーラン監督作品『TENET テネット』の「皮肉な結果」

TENET テネット(字幕版)

新型コロナウイルス感染拡大により窮地に陥った映画館を救うことを期待されたクリストファー・ノーラン監督最新作『TENET テネット』。日本では興行収入27.4億円と同監督作品としては国内2番目のヒットを記録する一方で、全米興行収入と世界興行収入はかなり厳しい結果となった。

 

  • 繰り返された「公開日決定」と「公開延期」

eiga.com

まず初めにアメリカの映画館事情を振り返る。アメリカでは2020年3月15日、当時の大統領であるドナルド・トランプ氏による新型コロナウイルス感染拡大防止策として「10人以上の集まりの自粛」が要請され、アメリカの映画館は一時封鎖状況となった。そのためサマーシーズンに公開が予定されていたブロックバスター超大作は次々と公開延期を発表した。

cinema.ne.jp

その後も日本では緊急事態宣言解除後にスタジオジブリ4作品の再上映や『今日から俺は!!劇場版』『コンフィデンスマンJP プリンセス編』の公開により、劇場に観客が戻り始めていたが、アメリカでは依然感染拡大は広がり、当初同年7月17日公開予定だった『TENET テネット』も公開延期を発表。その後も「公開日決定」と「公開再延期」の発表を繰り返し、最終的に同年9月3日に全米公開が決まった。

 

 

  • ディズニー『ムーラン』は配信限定

www.nikkei.com

一方で同時期公開予定だったディズニー映画『ムーラン』は、劇場での公開を諦めて自社の公式動画配信サービス「ディズニー+」での独占配信を決定。これには散々予告編を流して宣伝をしてきた「映画館への裏切り」と批判を浴びた。個人的にもディズニーの映画館を切り捨てるような行為には思うところあったが、流石に『ムーラン』に失敗して欲しいとまでは思わなかった。ただ劇場公開を諦めた『ムーラン』がビジネス的に成功して、劇場公開に拘った『TENET テネット』が興行的に失敗する事態だけは避けて欲しいと願った。そしてこの願いは多くの映画ファンや関係者が共有していたものだとも感じる。

現にクリストファー・ノーラン監督同様に映画館の大スクリーンで作品を上映することに価値を見出し、『TENET テネット』と同じ夏に公開予定だった『トップガン マーヴェリック』主演のトム・クルーズは本作の先行上映会に参加したことをSNSに投稿することで、本作へのエールを送っていた。

 

 

  • 興行収入、平時なら「大コケ」レベル

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映画興行の成功の目安として、全米興行は「製作費以上」、世界興行は「製作費の3倍」というものがある。当然、この目安が全てではないが、『TENET テネット』の全米興行は0.57億ドルと製作費の2.05億ドルを大きく下回る結果となり、世界興行も3.63億ドルと製作費に対して1.77倍と、多くの映画ファンや関係者の想いとは裏腹に平時であるのなら「大コケ」レベルの厳しい結果となった。

front-row.jp

www3.nhk.or.jp

勿論、ノーラン監督の主張通りコロナ禍と平時を同列に見て、「失敗だ」とするのも違う気はする。ただその一方でコロナ禍前に平時での公開を想定したビジネスモデルの枠組みで製作された本作が、コロナ禍だからといって平時を大きく下回る結果となってしまっては、気持ちの問題は別にして企業的には「厳しい」というのも分かる。現にワーナー・ブラザースは『TENET テネット』公開後に2021年公開予定の全新作映画を、アメリカ国内で劇場公開日に合わせ、ワーナー系列の動画配信サービス「HBO Max」でも同時配信すると発表。これは事実上、ワーナー・ブラザースとしては劇場公開のみに拘り続けて『TENET テネット』レベルの興行展開が続いては企業として立ち行きがいかないと判断したということなのだろう。実際、『TENET テネット』が平時レベルのヒットとならなかった理由は、他作品が公開されていない以上断定は出来ないがコロナ禍の影響を受けた可能性は高い。そのためコロナ禍で窮地陥った映画館の復活を託された『TENET テネット』は、皮肉にも「配信同時リリース」の有力な判断材料とされてしまったのだ。

 

※多くの人が「『TENET テネット』が興行的にイマイチ上手くいかなかったのは、コロナの影響だ」という考えを共有していることに、クリストファー・ノーラン監督への信頼の高さが伺える

 

 

  • 最後に…

www.cinematoday.jp

企業としてこれまで通りの方法で収益が得られないと判断した以上、新しい方法を模索する判断は適切だと感じる。また基本的に動画配信限定とするディズニーと異なり、劇場での公開に拘り続けるワーナー・ブラザースの姿勢は応援したい。だからこそ、関係各社に相談することなく配信を決定し、「不信感」を買ってしまった対応は残念に思う。

 

TENET テネット(字幕版)

TENET テネット(字幕版)

  • 発売日: 2020/12/16
  • メディア: Prime Video
 
TENET テネット(吹替版)

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  • 発売日: 2020/12/16
  • メディア: Prime Video
 

 

参考記事

Dâku naito (2008) - IMDb

Inception (2010) - IMDb

Dâku naito raijingu (2012) - IMDb

Interstellar (2014) - IMDb

Dunkirk (2017) - IMDb

Tenet (2020) - IMDb