スポンサーリンク

【比較】庵野秀明総監督作品『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』、テレビアニメ版と同じシチュエーションで異なる展開

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破

庵野秀明総監督作品『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開された。それに便乗する形で『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズの感想を書いていこうと思う。2回目は2009年に公開され、興行収入40億円のヒット作品となった『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』を扱う。

 

  • テレビアニメ版と異なる展開を見せる『破』 


【公式】ダイジェスト これまでの『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』

本作はテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の第八話から第拾九話までをベースとした作品。前作『新劇場版:序』は細かな変更点や追加点などはあれど、基本的にテレビアニメ版の物語から大きくズレることはなかった。その一方で本作『新劇場版:破』ではテレビアニメ版の物語との大きな変更点が目立つ作品となっている。特にテレビアニメ版にはいないマリとシンジの初対面シーンでは、常にトラックナンバー「25」と「26」(テレビアニメ版は全26話)を繰り返していたシンジの音楽プレーヤーの表示が「27」へ移行し、新たな物語に展開がシフトすることを暗示するような演出が施されている。

 

 

  • 「3号機のテストパイロット」を変更

『新劇場版:破』の大きな変更点の一つが3号機のテストパイロットがトウジからアスカへと変わっていることだ。この変更は『全記録全集』の庵野秀明監督のインタビューによると、鶴巻和哉監督から「テレビアニメ版と同じ流れでは総集編だし、アスカに映画としての役割がない」「3号機にアスカが乗るくらいの荒治療が必要ではないか」という趣旨の主張があったからだという。『新劇場版:破』のベースとなっているのはテレビアニメ12話分(20分×12話=240分)と、そのまま映画の尺に収めることは不可能だ。そして第拾九話『男の戰い』を映画のラストに置くことを考えると、3号機のテストパイロットの話は不可欠。そのためテレビアニメ版から削れる要素を考えると、アスカ絡みのエピソードである『瞬間、心、重ねて』『マグマダイバー』『静止した闇の中で』『死と沈黙』ということになり、「アスカとシンジの関係性」と「アスカの性格面の掘り下げ」が中途半端になってしまう。その上、『男の闘い』で使徒に屈辱の敗退をした結果、自信を失い病んでいくことを考えると、仮にテレビアニメ版通りの展開を総集編的にやった場合、『新劇場版』シリーズのアスカは「やたらとプライドが高い割に、大してシンジと絡むことなく病んでいくキャラクター」となってしまう。そう考えると製作当時スタッフ間では賛否両論だったという「3号機のテストパイロットをトウジからアスカに変更する」というアイデアは、必然だったようにすら思えてくる。

また鶴巻和哉監督は「トウジを失ったときと同等のショックと喪失感をシンジと観客に与えるために、アスカを『良いキャラ』にしよう」と考えたという。確かにテレビアニメ版のアスカのようなプライドの高いキャラクターが、3号機のテストパイロットに志願してあのような結果になったとしても、トウジの時のような「エヴァとは無関係だと思っていた、シンジの友人である普通の少年が大人の事情に巻き込まれて、取り返しのつかないことになってしまった」というレベルのショックと喪失感はなかったのではないかと思う。『新劇場版』シリーズだけを観てる人からすれば「なんだか鬱陶しい奴が酷い目にあった」くらいの受け取られ方もされかねない。

f:id:MJWR9620:20210322142754j:image

こうした背景から作られたのが「自分のためではなく、人のために3号機のテストパイロットに志願するアスカ」だった訳だが、『新劇場版』シリーズだけを観ている人からしても「死亡フラグ」を立て続けているというのに、テレビアニメ版を視聴済みで3号機のテストパイロットの行く末を知っている人からすれば「アスカが幸せな方向に行けば行くほど辛い」という、ある意味常に不安な雰囲気が漂っていたテレビアニメ版よりも、「全てが上手く行くんじゃないか」という幸せな雰囲気が満ち溢れている分、より辛いシーンに仕上がったと言える。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 全記録全集

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 全記録全集

  • 発売日: 2012/10/31
  • メディア: 大型本
 

 

 

  • 「第10使徒」戦ではシンジとレイにフォーカス

f:id:MJWR9620:20210323103832j:image

映画のクライマックスはテレビアニメ版における第拾九話『男の闘い』をベースにしている。ただしテレビアニメ版では3号機のテストパイロットの件からエヴァのパイロットを辞めること決めたシンジが再びエヴァに乗って闘う物語だったが、『新劇場版:破』ではそこにレイのシンジを想う人間味溢れるエピソードを投入。テレビアニメ版では「暴走」でしかなかった描写が、シンジの明確な意思によってレイを助ける描写に変更になっており、後に色々と問題となるミサトの「行きなさい、シンジくん!誰かのためじゃない、あなた自身の願いのために!」というセリフ含めて熱い展開となっている。

これに対して「これじゃ、普通の王道ロボットアニメみたいで、エヴァっぽくない」という批判意見もあったようだが、個人的には『新劇場版』シリーズのコンセプトが「分かりやすいエンターテイメント」であることと、純粋に自分の「2周目なのだから純粋にテレビアニメ版とは異なるハッピーエンド方向の『エヴァ』が観たい」という気持ちから、普通に楽しんだ。

 

 

  • 最後に…

『新劇場版:破』はテレビアニメ版と同じシチュエーションでありながら、異なる展開を観せていることから、『新劇場版』シリーズの中では一番比較が楽しい作品とも言える。最後にマリの出番を増やすと役割の被るアスカの出番が消えるという話を読んで、「あぁ…なるほど、そういうことか…」という妙な納得感があった。

 

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破

  • 発売日: 2009/06/27
  • メディア: Prime Video
 
新世紀エヴァンゲリオン Blu-ray BOX STANDARD EDITION

新世紀エヴァンゲリオン Blu-ray BOX STANDARD EDITION

  • 発売日: 2019/07/24
  • メディア: Blu-ray