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【比較】庵野秀明総監督作品『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』、テレビアニメ版から大幅強化された「ヤシマ作戦」

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序

庵野秀明総監督作品『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開された。それに便乗する形で『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズの感想を書いていこうと思う。初回は2007年に公開され、興行収入20億円のヒット作品となった『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』を扱う。

 

  • 基本テレビアニメ版通りの『新劇場版:序』 

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本作はテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の第壱話から第六話までをベースとした作品。つまり主人公である碇シンジのエヴァ初搭乗から、同じパイロットである綾波レイと信頼関係を深めるまでの物語である。『新劇場版』シリーズは当初「テレビアニメ版を全部観ていなくても楽しめる総集編的なモノを作ろう」「全4部作の完結編だけ変わるかもしれないけど、基本8割は総集編の構想で行こう」というコンセプトで作られ始めた(『シン・エヴァンゲリオン劇場版』パンフレット・鶴巻和哉監督インタビュー参照)だけあって、テレビアニメ版と比較して物語面で大きな変更点はない。

ただテレビアニメ版の冒頭6話分(20分×6話分=120分)をそのまま絵を綺麗にして焼き直している訳ではない。映画前半部分はテレビアニメ版にあった学校などの日常描写が大幅にカットされている。これは一本の長編映画作品として考えたときにテンポが悪くなると考えたのかもしれない。その一方で追加されているのが最新技術である3DCGを生かしたスクリーン映えする第3新東京市や戦闘の描写。そして本作のクライマックスとなる「ヤシマ作戦」の描写だ。『全記録全集』の庵野秀明監督のインタビューを読むと、「ヤシマ作戦」を放送枠20分のテレビアニメと同じく「一回目で当たらなかったら二回目は先に打ち返した方が勝ちというシンプルなタイムサスペンス」という内容にしてしまうと、90分の長編映画のクライマックスとしてはあっさりし過ぎていると感じたのだという。確かにテレビアニメ版のテンポで「ヤシマ作戦」が描かれていた場合、映画のクライマックスとしてはかなり物足りない作品となっていたことだろう。

 

 

  • 「ヤシマ作戦」を映画用に大幅強化

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『新劇場版:序』の「ヤシマ作戦」は映画のクライマックスとして盛り上げるために、テレビアニメ版の第四話『雨、逃げ出した後』にある、シンジとミサトの「ただいま」「おかえりなさい」のシーンをカット。その代わりにシンジとミサトの関係性を深めるエピソードとして「ヤシマ作戦」の説明前にミサトがシンジにネルフ本部の最深部「L-EEE(レベルトリプルE)」に使徒が到達した場合、自動的に自爆するシステムになっていることを明かし、シンジと同じくミサト含めたネルフ本部の職員が覚悟を持って闘っていることを説明するシーンを追加。

更にシンジの一発目の狙撃失敗理由を「自分がエヴァに乗る意味に悩む」という精神面が影響したことを示唆する描写を入れ、失敗直後に一時動けなくなるも、トウジとケンスケからのメッセージを思い出すことで自分の意思で立ち上がるというシーンにし、テレビアニメ版よりも2人がシンジに与えた影響、シンジの2人に対する想いの描写を強化。その上、二発目を撃つために準備をしている作業員たちの姿を写し、ミサトがシンジにそれを自覚させる描写も加わることで総力戦であることを強調。テレビアニメ版では「シンジと綾波レイの親密度を深めるエピソード」だった「ヤシマ作戦」が、映画のクライマックスに相応しいエピソードとなった。

また『新劇場版:序』のミサトさんはシンジへの説教後に自身をビンタしたり、テレビアニメ版ではシンジに対して「嫌なら乗るな」と言い放ったシーンで、「あなた自身が決めなさい」と選択を委ねたりと、シンジに対して優しめの描写が多い。それに加えてテレビアニメ版ではシンジが再びエヴァに乗ることを決めた理由はミサトとの関係性の要素が大きい描写がされていたが、『新劇場版:序』ではミサト自身がそれを否定し、父であるゲンドウとの関係性の可能性を言及。「ヤシマ作戦」の一発目失敗直後に初号機パイロットの更迭を決めたゲンドウに対して「自分の子供を信じてください」と主張するなど、「シンジとゲンドウ」の関係性へのフォーカスも強調されている。もしかしたらこの段階で既に『新劇場版』シリーズの完結編ではシッカリと親子関係の決着を付けようと少なからず意識してたのかもしれない。

 

 

  • 最後に…

そんな訳で『新劇場版:序』はテレビアニメ版と比較して大きな物語の違いはないが、「ヤシマ作戦」の大幅強化により、ミサト・トウジ・ケンスケとの関係性の描写が深まった印象を受けた。ラストにカヲルくんがループしているのではないかと思わせる描写と次回予告にマリを入れたのは、基本的にテレビアニメ版と同じ展開を見せていた本作にとっては大きなサプライズとなり、『新劇場版』シリーズへの関心を高めたのではないかと思う。

 

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序

  • 発売日: 2007/09/01
  • メディア: Prime Video
 
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