今年で『ハリー・ポッターと賢者の石』公開から20周年だという。本シリーズは2001年公開の『賢者の石』から2011年公開の『死の秘宝 PART2』まで10年に渡りハリーの冒険を描いたファンタジー作品。日本での8作品累計興行収入は960.3億円を記録しており、地上波でも繰り返し放送され高視聴率を記録するなど多くの人に愛されるシリーズとなった。またCG技術の進歩もあってか、2001年は『ロード・オブ・ザ・リング』も公開されており、両作品とも記録的なヒットになった。そのため、それ以降「ハリポタみたいなファンタジー作品を実写映画化すれば大儲けできるんじゃね」みたいな目論見で製作されたのではないかと思われる「後追い作品」が次々と公開されるようになる。
- ナルニア国物語
両作品の1作目がヒットした4年後の2005年(日本公開は2006年)にディズニーはC・S・ルイスの児童文学シリーズを実写映画化した『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』を公開。タンスの中にガキが入っていくと向こう側にはファンタジー世界が広がっているという予告編を見て「ハリーポッターみたい!」と純粋にワクワクした子供や「ディズニーがハリポタみたいなフランチャイズを狙っている」と穿った見方をした大人も少なくなかったはずだ。実際、ディズニーは全7作の原作を実写映画化していく壮大なファンタジー映画シリーズを構想していたはずだが、2008年公開の2作目『ナルニア国物語/第2章:カスピアン王子の角笛』は製作費2.25億ドルに対して全米興行は1作目の2.91億ドルから大幅ダウンの1.41億ドルと早くも黄信号。2作目の期待外れの興行結果からディズニーは製作から撤退し、2010年には3作目『ナルニア国物語/第3章:アスラン王と魔法の島』が20世紀フォックスから公開されるも、製作費1.55億ドルに対して全米興行1.04億ドルと厳しい結果。世界興行も1作目こそ7.45億ドルの大ヒットだったが、2・3作目は4億ドルちょっとという結果で、日本興行も1作目は100億円突破を期待されるも68.6億円に留まり、2作目は30億円、3作目は26.9億円と「悪くはないけど、まーねっ」という感じ。結局、3作目が公開されてから10年以上が経つも、4作目の公開には未だ至っていない。
The Chronicles of Narnia: The Lion, the Witch and the Wardrobe - Box Office Mojo
The Chronicles of Narnia: Prince Caspian - Box Office Mojo
The Chronicles of Narnia: The Voyage of the Dawn Treader - Box Office Mojo
ディズニー、「ナルニア国物語」第3弾制作から撤退 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
- ライラの冒険
一応1作目は大ヒットした『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』の2年後の2007年(日本公開2008年)に『ロード・オブ・ザ・リング』三部作を成功させた制作会社がフィリップ・プルマンの三部作からなるファンタジー小説を実写映画化しようとするプロジェクトの1作目『ライラの冒険/黄金の羅針盤』が公開。出演は『007』シリーズの6代目ジェームズ・ボンド役のダニエル・クレイグやオーストラリア人女優として初めてアカデミー主演女優賞を受賞したニコール・キッドマン、近年は『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』『ダンボ』などティム・バートン作品でお馴染みのエヴァ・グリーンなど超豪華。しかし製作費1.80億ドルの大作にも関わらず、全米興行は0.70億ドルと1作目から大コケ。日本興行は37.5億円と全米での興行的失敗を踏まえれば大ヒットだが、『ハリポタ』『LotR』のヒットには遠く及ばず… 結局2作目が製作されることはなかった。
The Golden Compass - Box Office Mojo
めざせ3238億円!『ロード・オブ・ザ・リング』に続くファンタジー『ライラの冒険』は相当すごい!|シネマトゥデイ
- ダレン・シャン
『ライラの冒険/黄金の羅針盤』の大コケの2年後の2009年(日本公開2010年)には小学校の図書室の『ハリポタ』の隣に並べられていることから認知度は高いもクラスで読んでるのはファンタジー小説にハマった熱心な人くらいでお馴染みの(偏見)のダレン・シャン(小説のタイトルと作家の名前が同じ)のファンタジー小説を実写映画化した『ダレン・シャン』が公開。ユニバーサルはシリーズ化を狙っていたが、0.40億ドルと比較的リーズナブルな製作費に対して全世界興行が0.39億ドルと爆死。日本でも「ハリポタの横に置いてあったあの小説が映画化するんだ!」と思っても、「冷静に考えたら読んだことないな」と思い入れがないのか全然ヒットしておらず、オリジナル要素が多いためか原作ファンからも評判が悪く、シリーズ化は白紙となった。
Cirque du Freak: The Vampire's Assistant - Box Office Mojo
- パーシー・ジャクソン
『ダレン・シャン』の大コケの翌年・2010年にはリック・ライアダンのファンタジー小説を実写映画化した『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』が公開。「またハリポタみたいな作品が作られたよ」と思ったら、監督は『ハリー・ポッターと賢者の石』と『ハリー・ポッターと秘密の部屋』のクリス・コロンバスとブームの先駆者になるも一度身を引いた人が重い腰を上げて再登壇した感あり。一方で1作目の全米興行は0.88億ドルと製作費0.95億ドルを下回る結果に… それにも関わらず2013年に2作目『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々/魔の海』が公開され、案の定全米興行0.68億ドルと製作費0.90億ドルを回収できない結果に陥り、3作目の製作は「なし」とされた。ちなみに日本での興行は1作目は14.2億円とボチボチヒットするも、2作目は4.7億円と目も当てられない結果となった。
Percy Jackson & the Olympians: The Lightning Thief - Box Office Mojo
Percy Jackson: Sea of Monsters - Box Office Mojo
- 鋼の錬金術師
後追いファンタジー映画が尽く失敗に終わり、『ハリポタ』『LotR』完結後もヒットするのは『ホビット』シリーズ、『ファンタスティック・ビースト』シリーズと「結局『ハリポタ』『LotR』じゃねーか」というある種の結論っぽいものが出た頃、「クールジャパン」こと我らが日本がついに「ハリー・ポッターに続くファンタジー超大作がやって来る!魔法の次は錬金術だ!」と銘打ち曽利文彦監督が荒川弘先生の大ヒットファンタジー漫画『鋼の錬金術師』を実写映画化。全27巻の冒頭1/3を実写映画化しており、シリーズ化する気満々だったが、製作費9億円に対して興行収入は11.1億円と振るわず… 公開された2017年は観客はCGに慣れ、クリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』などが話題になる時代に「日本でもこんなCGが出来ます!」をウリにしていた一周遅れ感(実際、CGは実写邦画としてはハイレベルだが…)や、同時期に山崎貴監督の『DESTINY 鎌倉ものがたり』が『ハガレン』同様にCGをウリにしながら日本らしいファンタジー映画に仕上げることで興行収入32.1億円の大ヒットを記録していたことから、色々と残念な感じに… 結局、エンドクレジット後にある続編への伏線が回収されることはなかった… と思ったら4年の沈黙を経て2022年『完結編』を二部作連続公開へ。
- 最後に…
『ハリー・ポッター』の後追い作品がヒットしなかった理由は、結局同時期に同シリーズが展開されているから他作品を観る必要はなかった、つまりはファンタジー映画への需要は『ハリー・ポッター』シリーズの最新作が全て叶えてたみたいなところがあったのではないかと思う。最後に『ハリー・ポッター』シリーズがダンブルドア役の不幸を除いてはキャスティング変更や予算削減もなく理想とも言える形で原作を全て実写映画化してくれたことを幸せに思う。