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総製作費20億円なのに「合戦シーンなし」、城などの美術やロケを重視した木村拓哉×大友啓史×古沢良太『レジェンド&バタフライ』

THE LEGEND & BUTTERFLY レジェンド & バタフライ [オリジナルサウンドトラック]

東映70周年記念映画『レジェンド&バタフライ』は総製作費20億円の超大作映画にも関わらず「合戦シーン」がない。そのため一部では「20億円はどこに使ったの!?」との感想も見かける。

 

  • 総製作費20億円は宣伝費込み

個人的な考えでは、本作は「総製作費20億円=制作費14億円、P&A費6億円」という関係になっていると想定

「レジェンド&バタフライ」。総製作費20億円はいくら稼げば元が取れるのか?<後編>【コラム/細野真宏の試写室日記】 : 映画ニュース - 映画.com

まず初めに本作は総製作費20億円と言っても20億円全てが映画を作るために使われている訳ではなく、半分近くは宣伝費等に使われていると推測される。映画評論家の細野真宏氏は本作の映画を作るために使った費用は14億円と予想している。これはあくまでも個人の予想のため、正確な数値ではないが恐らく10億円前半程度であることは間違いないだろう。

ここ10年くらいの時代劇映画の製作費を振り返ると2014年公開の大友啓史監督『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』が2部作合計で30億円(1作平均15億円)、2021年公開の同監督『るろうに剣心 最終章』が2部作合計で50億円(1作平均25億円)、2012年公開『のぼうの城』が10億円、2016年公開『真田十勇士』が宣伝費等込みで総額15億円、2021年公開『燃えよ剣』が約9億円、とされている。ただここら辺の製作費は公式発表でも映画を作るために使った直接的な予算か宣伝費込みかまでは分からず、単純比較はし難い。しかしどの映画も基本10億円前後だったのではないか、とは推測できる。そして、ここら辺の作品と比較しても本作のアクションシーンは体感的に少なめに感じる。

 

 

  • 時代考証学会会長「桶狭間はバッサリとカット」

時代考証学会会長「今回は“桶狭間の戦い”の合戦が描かれません。実は当初、タイトルが『桶狭間』となっていたくらい、重要なシーンだったはずなのに、バッサリとカットしたのは大友監督らしい」

時代考証学会会長に聞いてみた!|WEB MAGAZINE レジェバタ公記 - 新聞・雑誌|映画『レジェンド&バタフライ』公式サイト|大ヒット上映中

実際、本作の時代考証を担当した大石学先生は信長の闘いの中では「本能寺の変」に並んで有名な「桶狭間の戦い」は大友啓史監督の判断でバッサリとカットした、と証言している。

木村拓哉「形式上、今回の尺に収まってはいますが、実際は本編が3時間半くらいになりかねないほどの撮影をしている」

「木村さんだからできた信長像」木村拓哉×綾瀬はるか『レジェンド&バタフライ』 全身で“相手を感じながら”演じた撮影秘話 | 映画 | BANGER!!!(バンガー) 映画愛、爆発!!!

古沢良太「台本にあったシーンのみならず、すごく予算をかけて撮ったシーンもだいぶ落としていると思いますよ」

脚本家・古沢良太が語り尽くす!【後編】|WEB MAGAZINE レジェバタ公記 - 新聞・雑誌|映画『レジェンド&バタフライ』公式サイト|大ヒット上映中

また主演の木村拓哉と脚本の古沢良太も今回の公開されている作品は実際に予算をかけて撮影したシーンを大幅にカットしていることを匂わせる発言をしている。

大友啓史監督「古沢さんの脚本には、今川義元などの敵方の武将を出さなくても、合戦に赴くまでの逡巡や戦ったことで生じた信長の苦悩がちゃんと描かれていました」

映画『レジェンド&バタフライ』大友啓史監督インタビュー/先人に失礼がないように演じた木村拓哉に感動 (1/3) - SCREEN ONLINE(スクリーンオンライン)

一方でアクションシーンが少ないのは大友啓史監督の判断だけでなく、古沢良太が執筆した元々の脚本からだったという。これは本作が信長の派手な合戦シーンを見せたい映画ではなく、信長が合戦に行くまでと帰ってきてからの心境の方を見せたい映画だから、なのだろう。また本作は元々古沢良太が戦国時代の無名の武将でやろうとしていた戦略結婚カップルのラブコメを信長と濃姫の物語にスライドしたものなので、そもそも合戦シーンにあまり興味がなかった可能性もある。現に古沢良太は信長についての思い入れは「ない」としている。

 

 

  • 大友啓史監督が拘った美術とロケ

ではそんな本作のどこに予算が使われたのか?まず純粋にクライマックスの「本能寺の変」以降の一連のシーンは相当の見応えあり、予算を全力投下した感はある。また大友啓史監督はインタビューを読むと織田信長の人生を城の変化で表現することへの拘りを感じ取れる。実際、各城の外観CGと内観セットは中々のモノだった。更に大友啓史監督は「髑髏の盃」などの美術にも相当な拘りを見せた様子で、「時代劇は様式とカスタマイズとの戦い」「そういう細やかなことも含めて探っていくのは時間が掛かるし、手間もコストも掛かる」と述べている。大友啓史監督の作品はこれまでも『るろうに剣心』シリーズではアクション以外にもら赤べこの牛鍋や祭りなど日常描写、『秘密 THE TOP SECRET』でのMRIスキャナー、『ミュージアム』での惨殺死体描写など美術への徹底的な拘りを見せていた。

その上、本作では「できる限り本物を追求したい」として国宝や世界遺産など全国30ヵ所でのロケ撮影を敢行。これには現代人が信長たちが生きる時代を知るにはあの時代から存在する建築物や場所の力を借りたい、という意図もあったという。これは同じ古沢良太脚本で現在放送中のNHK大河ドラマ『どうする家康』とは正反対のアプローチだ。おそらく、このロケ数の多さも製作費が多く使われているポイントなのだろう。つまり本作の製作費は派手なアクションシーンではなく、作品の時代描写に説得力を持たせるために物語の舞台や背景となる空間や美術に多く注ぎ込まれているのだと感じた。そのため総製作費20億円級のアクションシーンを期待して観に行くとやや肩透かしを食らった気持ちになるのも分かる。

 

 

  • 最後に…

大友啓史監督の複数のインタビューを読むと、本作の「本物思考」の背景にはコロナ禍により配信に移行する映画界や自身が監督した『るろうに剣心 最終章』公開時の映画館休業要請による興行的ダメージの影響が大きかったと繰り返し語っている。そのため、映画の原点に立ち返りスクリーン映えする作品を作りたいという気持ちが強かったようだ。ただそれとは別に『るろうに剣心 最終章』公開当時の政府の映画館休業要請の問題の本質は当時大友啓史監督が憲法調査会で主張していたように「劇場や演芸場、イベントの開催が許可された一方で映画館や美術館・博物館には休業を要請された」という「線引き」のアヤフヤさにあり、この件は最後まで納得のいく合理的な説明がないまま要請解除に至った。

 

映画館に対する休業要請について映画監督・大友啓史さんからヒアリング 憲法調査会 - 立憲民主党

 

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